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2017年/短編まとめ

似てるって言われても嬉しくないわ

作者: 文崎 美生

白い肌が、薄く朱に染まる。

細い喉が、高く喘ぐ。

長い睫毛が、細かく震えた。

黒と赤のセーラー服が、シワを作り乱れる。


「あ、あぁっ……やぁ」


細かな違いは、本人ではないと再認識させる。


例えば、白い肌はもっと不健康に青みがあるのが本当の本人のそれだった。

体付きはもっと細く、華奢に、線を細くした曲線。

大きく波打つ黒髪も、胸下くらいの長さだ。

セーラー服ではなくて、ブレザー。


「っあ、だめぇ……」


こんな胸焼けがしそうなくらいの、甘ったるい声は聞いたこともなかった。

単純に聞いたことないだけ、と言われればそれまでだけれど、少なくとも喜怒哀楽を含む声音すら、薄らとしたものなのに、そんな声が出ると想像するそとの方が難しい。


後、一番は、その瞳だ。

真っ黒な日本人らしい瞳は、もっと透き通って、黒く染められたガラス玉のようだった。

光を映さない代わりに、決して濁ることがないような透明度を持つ黒目。


ベッドに背を預け、口元を手で覆う。

違いは明白だ。

些細な違いと言われるような違いも、俺なら、彼女のことなら、分かる。

分かっている、はず。


無骨な指が滑らかな肌を探るように動く。

気持ちが悪い。

細い腕が太い首に伸びる。

気持ちが悪い。

高い水音と高い声。

気持ちが悪い。


あれは、あの子なんかじゃ、ない。




***




(カナメ)〜昨日のどうだった?」


ぽんっ、と軽く肩を叩かれ、のろのろと顔を上げれば、締りのなかった笑顔が固まった。

ズレた眼鏡を押したげて、その顔を見る。


「え、なに、お前何でそんなやつれてンの。ヤリ過ぎ??」


僅かに引いたように口元が引き攣るのを見て、深い溜息を漏らしてしまう。

同じ軽音部所属のこの男は、はて?と首を捻っており、本当に何も分からないらしい。

クラスも違うし、そうかも知れない。


「もう良い、返す」


とすっ、とソイツの胸に、鞄から取り出したそれを押し付けるが、顔が歪められる。

俺が手を離したところで、たまたま通り掛かった校則違反の赤い髪をした女の子が、あ、と声を出す。

足を止め、こちらを見つめ、ソイツに返したそれを見て、瞬きをする。


ゆっくりと視線を追って、俺は自分の机に額を打ち付けた。

鈍い音が響く。

返したそれは、受け取った時には黒い袋に入れられていたが、今はパッケージが剥き出しだ。


黒いセーラーに、赤いタイというベターな制服を着た女の子が映っているパッケージ。

それだけならまだしも、その女の子のセーラー服は、酷く乱れている。

冷や汗が流れ出す。


「……じゃ、俺は自分の教室戻るわ」


ひょい、と上げられた手。

剥き出しのDVDは、制服の中に押し込まれている。

声を上げるまもなく教室を飛び出してしまい、残ったのは俺と赤い髪の女の子と沈黙。

女の子は、赤い髪を揺らしながら、一つ頷く。


「あれはね、安っぽいもんだった」


その女の子は、高校で出会った、男女間を超えた友人で、友人だと思っていた。

流石に、納得したような声音を聞けば、これが友人?と首を捻ってしまう。

冷や汗が脂汗に変わる。


「ベターと言えば納得出来ると思うって言うのが許せないよね。折角、似てる、ありかもって思ったのにね」


ね、が同意を求めるように強調された。

人好きのする笑顔を浮かべているが、あのDVDの中身は男性向けで成人ものだ。

いつどこで入手して見たのか。


脂汗をカーディガンで拭う。

その間も、目の前のその異性の友人の口は止まらずに、制服は良いけどソックスを脱がさないのが気に入らないとか、オッサン相手は嫌だとか。

昼間の教室で飛び出す言葉ではない。


「結局、あんな目が異常に違うって思っちゃう紛い物よりも、本物が良いよね」


「うん。MIO(ミオ)ちゃん、あれ見たの」


友人――MIOちゃんは、笑顔をキョトンとした間の抜けたような顔に変え、頷く。

ふわりと赤が揺れて、目の奥が痛い。

日本人の髪とは思えない鮮やかな赤は、目に優しくなかった。


(サク)ちゃんみたいって思うと、食指が動くんだよね!!」


花が咲くような笑顔。

むしろ背景に花が飛んでいるように見える。


「うわ、AVと比べられても嬉しくな」


花が枯れた。

脂汗がまた冷や汗に変わり、油が差されていないロボットのように首を横へと動かす。

二人揃って同じ動きをしたが、第三者として吐き出された言葉の主は、無表情だ。


セーラー服ではなくブレザーを着ている。

目も光るような生気がなく、黒塗りの硝子玉の様な光を含まない目をしていた。

不健康な白い肌に華奢過ぎる体つき。

黒髪は大きく波打ち、肩口で一つに結えられている。


「生理現象としては認めるけど、受け入れるのとは話が別だね」


「いや、作ちゃん……」


胸下で腕を組んだ女の子、作ちゃんは背後に男女二人の幼馴染みを引き連れている。

因みに、MIOちゃんも作ちゃんの幼馴染みだ。

何でこっち側にいるんだろうね、MIOちゃん。

俺の心の声が聞こえたのか、MIOちゃんの空笑いが響く。


「……はぁ」


「作ちゃん!聞いて!誤解だから!!」


「俺が好きなのは作ちゃんだけだから!」とか、浮気した彼氏みたいな台詞を出したら、一ヶ月口を聞いてもらえなかった。

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