漆黒の太母と虚ろなる世界樹
『グラス』の各地を再び巡ることになったシルファ。
仲間も三人集まり(全員女)、任務も順調に進むと思われた。
だが、彼にはやっておかなければならないことがあった。同行するラムダの事で。
シルファもラムダも国家の為に働く。それは彼ら自身が選択したものである。だが、彼らが忠を尽くすのは国家だけでは無かった。それは、今二人で川の上流へ向かっている。そこにある世界樹が鍵となっているのだ。
巨大な樹の下でシルファとラムダは馬から降りた。シルファは叫ぶ。
「約束通り、二人だけで来た。他には誰もいない。見てたから知っているだろ?」
シルファがそう叫ぶと、二つの人影が現れた。
「よく気付いたな……気配を消す術は磨いてきたはずなのに」
もう一人が言う。
「この男は『異常』だ。異世界の人間だから当然だろうけどね」
現れたのは男と女、二人とも戦士である。
男の方は、この地方の土着の民族であり、その民族の戦士を束ねる者。彼の部隊は『ヘルハウンズ』と言い、彼の名は『ブルーム』と言う。
女の方は、グラスの軍人である。軍の中のエリート部隊『ゴーストライダーズ』の隊長。彼女の名は『ヒルダ』である。
以前に、シルファがこの地域を回った時の事である。
この地域はとりわけ抵抗が強く、『グラス』に併合されてからも大規模な抵抗が頻発していた。
そんなわけで、シルファは調査と共に軍の密偵として働くことになり、その護衛と監視、共同作戦なども兼ねて『ゴーストライダーズ』が同行した。
ちなみに『ゴーストライダーズ』の構成員は全員女である。
シルファは『ゴーストライダーズ』の助けをほとんど必要とせず、軍の求める情報を的確に収集し提供した。それを繰り返すうちに、軍は抵抗勢力とその主力部隊『ヘルハウンズ』に向け、大規模な攻撃を仕掛けた。その先駆けとなったのが『ゴーストライダーズ』である。
『ゴーストライダーズ』は空を駆ける馬に乗り、攻撃に際しては歌いながら突撃する。
その攻撃の一部始終を見たシルファは、
「これじゃ、アフリカの奥地どころかベトナムだ。異世界でも許しがたい」
と言って一人で敵地へ駆け出していった。
ヒルダと数人の仲間が慌てて後を追い、川の上流にある樹の前でシルファに追いつく。そこで『ヘルハウンズ』と邂逅した。現在四人が集まっている場所である。
敵同士であった者達が、何故今穏やかに話しているかと言うと、この樹からメッセージが送られたからだ。
かつての邂逅の際、シルファが触媒となり樹と会話することが出来た。人知を超えた何かに触れて動揺した両者は、攻撃すること無く、語り合う事が出来た。
その結果どうなったかと言うと、
国家の存在は認めるが、民族を押さえつける真似はこの国の建国の志に反するので、虐げられたものを助け、時には保護し、対策を考える同盟を作る。
という事になった。
その助けをこの樹から得られるという事だ。この樹はこの世界の中心に繋がる世界樹で、『漆黒の太母』と呼ばれる存在との通信が出来る。尚且つ世界の動向をいくつか知ることが出来るのだ。
その同盟が機能できる状態になり、ラムダもそれに参加することになった。もちろん彼女の意思で。
その許可を得る為にラムダをここに連れて来たのだ。
彼女は全員と握手を交わし、世界樹に一礼する。
シルファとラムダは仲間の待つ宿屋へ帰って行った。
その秘密同盟の名前。それはシルファが元居た世界の情報を込めた。
世界樹と話した後、彼は言った。
―――――
この先きっと、国家を巻き込んだ大騒動が起きるだろう。
その時にこそ民族や個人の独立が問われる。そのあり方もだ。
それはきっと辛い戦いになるだろう。
俺の居た世界のある神話では、最終戦争を『神々の黄昏』と呼んでいた。
だからそれを生き延びるために、名前を拝借したい。
黄昏よりも暗い中、夜よりも深い中、そんな中でも希望のために刃を持ち、磨く。
それらが集ったもの『ラグナブレイズ』。
―――――
仲間は徐々に増えている。
だが、それは心の闇にしまわれている。
一日を世界と共に生きれば、光と闇は支えあう。