プロローグ
処女作の『白の童話騎士』のスランプにより息抜きで生み出された作品です。正直そっちともタメを張れるレベルの構成は出来たと思うのですが、自信は皆無です。
この作品も更新周期は遅いと思いますがどうにかこらえてもらえると幸いです。
「え、成功したの?告白」
40人程が鍾乳洞を歩いてる中、僕こと仁堂徹也が小さく驚きの声をあげる。
「なんだよ?失敗するとか思ってたのか?」
「うん」
「ドストレートだなこんちくしょう!」
挑発にまんまと乗り大声をあげ、現在先生に向かって平謝りしているのは、我が親友の赤城恭介。
彼とは幼稚園からの仲であり、隔世遺伝かなにかのせいで金眼赤髪、オマケに鋭い目付きや少々豪快な性格もあいまって、不良と間違われて小中高校全て入学初日に生徒指導室行きしている悲しい男だ。
ちなみにその度に助けにいってた僕は、中肉中背黒髪黒目の普通の少年であることも記しておこう。
「いやでも良くあれと付き合う気になったね。霜切さん」
「いえいえ、彼を見ているとなかなか楽しいんですよ?」
恭介の隣でにこやかにしているのは、昨日彼の恋人となった霜切玲奈さんだ。
彼女は大体学校に3人くらいいる学校のマドンナ的な存在であり。靴箱にお手紙びっしり、体育の授業には男の視線が突き刺さる、屋上や学校裏は彼女と告白する男のプライベートスペースなどなどが学校の常識にまで昇華される程の存在だ。
高校2年生ながらも柔らかくメリハリのあるその肢体を目当てに、彼女に襲いかかろうとする生徒を、親友に巻き込まれた僕がブレイン。恭介が実行隊長となって撃退し続けたこれまでの日々も懐かしい。
「なんで彼氏説教くらってるの放っておいて仲良くなってるの君たち!?」
「NTR?」
「それも面白いかもしれません」
「カップル成立の次の日から堂々と不倫宣言される俺ってどんだけ!?」
思い人が早速親友と仲良くなっている不穏な雰囲気に勘づいて、先生の説教から逃れてきた恭介がまたも叫び、怒られる。
こいつは本当に学習しないな。
それでも3度目は嫌なのか、小声で話に交ざってくる。
「で、何の話をしてたんだ?玲奈」
「いえ、何でもありませんよ。恭介くん」
「お、もう名前で呼び会う仲か。お熱いねー」
「ちゃ、茶化すなよ」
「そんなので顔を紅くするほど私はうぶじゃないですよ?徹也くん」
「流石、恭介とは器が違うね」
「お前は俺を貶さないと気が済まないのか・・・」
「イェス。ザッツラァイ」
「コイツゥ・・・!」
一頻り遊び終えたころ、ようやく鍾乳洞の見学が終わったらしく。前にいた集団が入り口の方に戻っていく。
「~~~~~~~~~~~~!!!!!!???????」
恭介の足を踏み絵のごとく踏んでいきながら・・・。やはりマドンナを射止めた代償は大きいようだ。過ぎ行く少年たちの呪言が聴こえてくるよ。
だからって立ち止まってるわけにはいかないので、ここは仕方のない親友の代わりに姫様をエスコートしよう。
「此方へ、マドモワゼル」
「お願いします、ミスター?」
膝をつく彼氏を尻目に乗ってくる彼女も彼女だが。
「あれ?どうしたんです?この怪我」
霜切さんが、差し出した僕の右腕をみて目を見張る。
どうやら訳あって巻いていた包帯が袖から見えたらしい。隠すことでもないので、素直に白状しておこう。
「いや、小学生が犬に教われていたのを庇っただけだよ」
「そうなんですか?優しいんですね。・・・あとそっちの方が素の仁堂くんなんですか?」
「お前も相変わらずだな」
最初は、子猫のために道路に飛び出したことが始まりだった。
昔からどうにも僕は誰か困っている人は見過ごせない質らしい。
どれだけ自分が損するだけかわかっていても、子供を庇い不良に殴られ、老人の落とし物を取り戻すためにイバラで肌を切り、最も最近では親友の恋愛沙汰に巻き込まれる。
どれも上手く行った試しはなく。自分の犠牲の上で成り立ってきた。
聞いてみると損ばかりで、原因の一端である恭介も止めるようにたまに言ってくるが、自身は悪い生き方ではないと思っているのでそのままだ。何せ---
「でも、小学生さんは無事なんですよね?それなら良かったんじゃないですか?」
こんな風に笑って評価してくれる人がいるんだから。止めようにも止められない。
ちょっとしたいい雰囲気を切ろうとしてか。恭介が急に話題を変える。
「にしても高校の修学旅行で鍾乳洞はいかがなもんか?」
「まあ嫌じゃないけどね。確実に地理の先生の趣味だよね」
「でも中央の柱は立派ですね。あそこまで太くなるのにどれだけの年月がかかってるんでしょう」
その言葉を最後に暫く無言で風景を見続ける。
そろそろ戻ろうかとチラッと横目で2人を見ると、なんと恭介が霜切さんの肩に腕をまわそうとしている。
ここはスピード感溢れる名前の偉人のごとくクールに去るべきだろう。
できるだけ足音を殺しながら出口に向かい、階段に一歩踏み出す---
---ドガンッッッ!!!ガラガラガラ
---瞬間。鍾乳洞が揺れ、足を踏み外して後ろに転けてしまった。
「うぐっ!なんだ!?---!?」
咄嗟に音源の方に振り返ると---落石に身動きを封じられている恭介と、頭から血を流して倒れている霜切さんがいた。
「恭介!霜切さん!無事か!?」
杭打ち用のハンマーを手に恭介に近づく。
「柱だ・・・」
「柱?」
「柱から・・・デカイ、トカゲが」
言われて鍾乳洞中央の柱を見る。見てしまう。
「おいおい・・・」
長い尻尾に無数の黒い鱗。ここまでなら黒くてデカイトカゲですんだ。
だが、大きすぎる双角と背中に翼があればトカゲなんてちゃちい生物じゃないなんてイヤでも分かる。
「ドラゴンじゃないか・・・!?」
そして、その言葉と同時に進撃は開始された---動かない霜切さんの元へ。
「マズッ!」
ドラゴンの足自体はそこまで速いわけじゃないが、一歩の大きさが桁違いだ。霜切さんを背負って逃げるには時間が足りない。それにピンチなのは彼女だけじゃない。
「恭介ッ!抜けられそうか!」
「いや・・・俺はもうだめだろう。完全に足が岩にはまってる」
「このサイズだとこれから岩を砕いても手遅れか・・・」
もし逃げ切れたとしても、あのドラゴンが恭介を見逃してくれると思うのは楽観に過ぎるだろう。
これまでのことを考慮して、残る道は---
「徹也・・・お前は逃げろ。この距離で確実にとなるとそれしかない」
やはりそうなるか。こうまでピンチになるとバカでも思いつく道だ。
それ以外の行動を起こせばどうあっても命の危険が付きまとう。下手をすればみんな死ぬ。
もしかしたら、外に異変に気付いた人がいて助けてくれる可能性もゼロではない。もしかしたらドラゴンが僕を逃がさないように僕を追いかけて、いい感じに気を引けるかもしれない。
だが・・・。
「なあ親友。僕がこんな時どうしてきたか・・・。分かるだろ?」
こんなことを考えてる自分自身ですら笑いが込み上げてくる。相変わらず損得勘定がなってない。
流石親友というべきか、にやけ面で全部悟ったようだ。
「お前・・・まさか!?」
「ああ。その・・・まさかだッ!」
握ったままのハンマーを今一度握りしめて走り出す。
霜切さんを助け出す?---否。
恭介を助け出す?---否。
自分だけ逃げだして助けを呼ぶ?---否!
ドラゴンをぶっ倒して皆で生還するッッッ!!!
「無謀無茶は百も承知ッ!骨は拾ってくれや相棒ォッ!!」
ターゲットは未だこちらには気づかない。ただ霜切さんへ直進する。
---ファーストアタックで目を潰す!まずは一手だ!
転がってる落石に隠れながらドラゴンの元に駆けよる。
あの顔の構造上不意打ちは普通じゃ不可能。ならば他に気を逸らすまで!
単純極まりないが小石を拾って僕と逆方向に投げ込む。
「ふんッ!」
---カタッカタカタ・・・
『ガァ?』
まんまとそちらに振り向くドラゴン。知性の欠片もない事は想像していたがえらく拍子抜けした。でも準備はこれで終わった。
あとは振り返ったタイミングを見計らってッ---
「左目は貰った!」
ハンマーを振り下ろす。
グチュッ!
両手に伝わる嫌な感触が作戦の成功を教えてくれる。
だがそれだけじゃ終わらせてもらえないらしい。やたらめったら振り回される腕が硬直した体に直撃した。
『グギャァァァァァァッッッッッッ!!!!!!』
「ウグッ!」
岩に体が叩き付けられる。脚は両方ともあるが、左腕は感覚が無い。ハンマーも金属部分が砕け散ってもう木の槍になってしまった。
だが苦労したかいあって、どうやらタゲは取れたらしい。残った右目を血走らせながらドラゴンが走ってくる。
「ちく、しょう。遊んでたって訳か」
迫りくるアギト。最早逃げることは無理だ。だが、まだ打つ手はまだある。
「・・・来い!」
噛みついてくる口に、使えないと決まった左腕に木を持って立たせて突っ込む。
『グゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!!!!!』
「ンぎぃぃぃぃぃぃッッッ!!!」
目的通り左腕を代償に口を封じる。もう左腕はドラゴンの腹の中だ。
だが、服が牙に引っかかったか体がドラゴンから離れない。
ドラゴンはそれを利用しようとそのまま僕を持ち上げる。
これで正真正銘万策尽きた。あとは嫌がらせしかできることが無い。
「はは・・・。本当に損な生き方だ・・・」
今考えても怪我したことのほとんどが回避できたものだ。中には死にかけたものだってある。
よくもまぁ途中で生き方を変えなかったものだ。しかも今回のはそれが報われたのかは確かじゃない。
でも、来世があるのなら---
「次は、もっと力が欲しいな・・・」
とはいえ今生はここでお終いだ。見れば恭介に加え、先ほどまで寝ていた霜切さんまでこちらを見ている。2人とも死角になっているから、隠れることぐらいできるだろう。
・・・少しは、役に立ったかな?
「じゃあな。お二人さん。お祝いのプレゼントはしゃれこうべなんて、我ながら洒落てないね」
振り下ろされる体。もはや出来るのは悪あがき。
叩き付けられるまでに右目を潰す!
「ウオオオオオオォォォォォォッッッッッッ!!!!!!」
そして、全身に走る衝撃。最期の拳は届いたのかすら分からない。
頭に浮かんだ事は一つだった。
---もうちょっと気の利いたことは言えただろうに---
そのまま意識は、闇に溶けて行った。