第二話 『・・・差し出せる手は差し出したいだけよ。』
とりあえず、下駄箱のある生徒玄関まで入った。
そこを『コ』を九十度倒した横棒とすると、縦棒の左側が所謂、職員室やら事務室なんかがある特殊教室棟になる。
反対の側が、一般教室である。
また、珍しいことに、旧校舎といえども宿直室が残る学校だ。
他に、一階には事務室、保健室理科室図書館給食室が存在している。
・・・その宿直室が、一応のベースだ。
なぜ、一応か言うならば、最終確認が終われば、戻る気がないから。
予定外の拓真のせいで居る時間は伸びるだろうけど。
しかし、報告・連絡・相談をないがしろにすると、死亡フラグ祭りになるからやらない。
主に、その死亡フラグは主に、拓真に関してだろうが。
・・・だって、三人の中で一番、一般人だもん。
現実の旧校舎に今日の夕方、デカいクーラーボックスにしこたま氷を入れて冷やして放置した中から、ペットボトルを二人に渡す。
ろくに手入れされていないが、座るには問題ない程度に新しいタタミに座る。
「一応、目的と言うか、目標話すわ。」
「かなり、無茶なのは覚悟しといてね。
リアルca○lingかスーファミの学校の怪談をやるようなもんだから。」
大きく、生唾を飲む音を聞いて、私は説明する。
一言で言うなら、正式に勧請してしまえ、と言う話だ。
そもそもの話、誤解を承知で言うなら、神道というのは『区別』して『拝み倒して』『閉じ込める』宗教になる。
「ただ、私の力からすると同意が必要だけどね。
最低でも、叔父さんレベルじゃないと。」
「叔父さんって龍雄小父さん?」
「うん、近年ないレベルで生きてれば、ばあさまの後継者だっただろうに。」
「あー、正式に死亡通知来た時、刺客きたもんね。」
話をそらす目的で、龍雄叔父さんの話を出す。
色々とハイスペックなんだ、叔父さん。
と言うか、『一人で』かつ、『短時間』で学校一つ、カミサマ付を封印してしまえるわけだ・
少々ゆるい封印であるけど、完全よりも逆に難しいのだ。
飢えさせてはいるけども、完全に閉め出さない分の現状維持が出来る繊細極まりない術式なわけだ。
私もそういう修行をしていないにしては、使えるほうだけれど、龍雄叔父さんは桁違いだったからな。
今生きてれば、四十かそこら。
行方不明になった時で、三十になったぐらい。
この学校を封印したのだって、二十そこそこだったのに実家からほぼ独立してたし。
ちなみに、お母さんは結構兄弟が多くて、その上で年齢がばらばらだ。
虎雄伯父を筆頭に、龍雄叔父の下にまだいるもの。
確か、一番下の凛兎さんと二十歳ぐらい違うとか聞いたし。
母方のじいちゃんとばあちゃんも、バックアップをメインにしてたけど、拝み屋だったし。
・・・その上で、お母さんみたいに極普通の人生を選ぶのもいて、中々に面白いとは思うけど。
数年前に失踪七年で、正式に死亡した後は、叔父さんを後押ししていた一族連中から刺客が来たりした。
普通に、捕まえて警察に引き渡したけど。
結局、私は私のエゴで此処にいる。
それが、七不思議と殴り合うことであっても、それはやりたいことだ。
蒼真さんにも言ったけど、助けて貰ったことには変わりない。
だからこそのエゴである、少なくとも、私が知っているななせさまは、普通の・・・かは投げておいて、割と子どもだと思うんだ。
小さな子ども。
少なくとも、実年齢は投げて、それに手を差し出すのは変ではないだろう?
その後、細かい話しをして、宿直室を出る。
とりあえず、位置が決まっているのから攻略して行きますか。
1階の宿直室。
其処を出て、『コ』を九十度倒した左の縦棒にある理科室、図書室給食室が並んだ廊下。
左側に、二つの理科の実習室に挟まれて準備室がある。
宿直室側に・・・正確に言えば、その横の保健室側から見て手前にあるのが、物理分野と科学分野用の第一理科室、奥にあるのが地学分野と生物分野の第二理科室。
右側に、図書室と奥に給食室がある。
勿論、ほとんどのものはないが、それでも其処がそうであるとわかる程度には、棚だったり何やらが残っている。
そして、問題の第二理科室。
手入れされておらず、その上で換気もされていない。
ホルマリン特有のツンとした匂いがした。
そして、並ぶ標本。
時代が時代だったせいか、ニホンオオカミの剥製やら、ライチョウの剥製なんかも並ぶ。
どっちかと言うと、ホルマリンの解剖標本の方が薄暗さと合わせて、正直怖い。
「で、動くよなぁ、連中。」
「うーん、と言うか、動いてる。」
終わった彼らが動き出す。
それは、一種の悪夢のような光景。
ポーカーフェイスを常にしてるわけではないが、叫ぶほど女の子らしいわけではない。
隣の拓真の場合、私が叫ばないから、悲鳴を噛み殺してると言うのが正しいだろう。
「・・・蒼真さん?」
「OK。
と言うかね、雪乃ちゃんもちょっとは勉強したら?」
「イヤ。相性最悪だもの。」
入り口のすぐ横の棚と黒板を基点に斜めに一筆書きで六芒星を描くように、針と不動明王の真言を彫り込み、辰砂で染めた木片を投げる。
簡易トラップというほどではないが、七不思議・理科室の項目で彼らが苦手とする火。
そして、自分達でつけるわけではなく、蒼真さんが死なない限りではあるけれど、彼らが突っ込んでこなくては、いけないのだ。
つまり、火をつけるのは彼ら自身。
「と言うわけで、すとっぷ。
解らないほど、低位なわけではないだろう、七不思議の内がひとつ・理科室の標本。」
『主ら、何者じゃ。離脱した小坊主共が十年以上経って何しに来たんじゃ。』
答えたのは、標本達のリ-ダー格なのは、ニホンオオカミ。
少なくとも、私達が礼儀正しく“いい子”だから、何もしないだけだろう。
加えて、私達が此処から出ていないから。
「・・・貴方達は、死にたい?
他の七不思議も死なせたい?」 『終わってしまっていてものぉ、無駄に死にたいわけではないのぅ。』
「今日、私達が死ねば、貴方達も無駄に死ぬことになるわね。
・・・世界は、人の外の貴方達や近しい私達には優しく無いもの。」
『壊されるか。』
「ええ、壊されるわね。
この異界も半分は現実の旧校舎に依存してるものね。」
『ワシ等はどうでもいい。
主様はのう、此処しか知らん。
時折、もたらされる外の品が楽しみじゃったようじゃしのぅ。』
「・・・ほとんど、ウルトラCに近いけどね、ここからは出せるかもしれないから、ね。」
『主らは“いい子”じゃからのう、その上で此処の保存を考えると見送るが正解じゃて。』
強いて言えば、好々爺なニホンオオカミ。
自分達はともかく、ななせさまを憂いているのがはっきりとは言わないが解る。
外を知れないのは哀しいことだ。
欠片でも知ってしまったなら、尚更のこと。
「私がしくじれば、良いことにはならないからね。」
『?』
小首を傾げるニホンオオカミ。
くそぅ、可愛いぞ、ニホンオオカミ。
「正式に、ここらの再開発が持ち上がってる。
そうなりゃ、篠宮なり、伊勢のお姫さんが動くわな。」
『!?』
あえて、アテレコするなら、「なんですと!?」と言うぐらいに、肩を跳ねさせた。
わかりやすい、つか、可愛いな。
そして、やりやすいなぁ。
「“七星小学校”の“七不思議”は、人殺し。
そして、人間は同族殺しに容赦がない。
だけどね、代償は払ったといえど、叔父に命を拾わせた形になったといえど、助けてもらったことには変わりはない。
・・・最後に手を差し出すだけ差し出しに来たの。」
どうでもいいといえばそうなんだけど、眉間にしわがよってるのツッコミ入れていいのかね。
いや、眉はないんだけども。
そんな感じに、「う~ん」って感じに悩んでる。
・・・実際、七不思議を検証していくと、時代によって微妙に話が違う。
だけども、理科室の標本と廊下の猫は、共通して六つの中に上がる連中だ。
正確には、無くなっても又入ってると言うか。
だからでもないのだろうけど、あえて言うなら、この二組が七不思議全体の保護者ちっくなところがある。
なんて思って話してみたのだけれど、思った以上に保護者と言うか年長者っぽくてなんか萌えた。
とにかく、様子見も兼ねて、しばらくは行動しないことを約束してくれた。
・・・葉月も、いないからとりあえず、次は図書室かな。
++++校内 廊下
ふーん、やっぱり、雪乃が言っていた『廊下の猫』ってあいつニャニャ。
うん、昔に行方不明ニャのは知ってたけど、こうなっていたのかニャ。
「・・・まだ、理科室辺りに居るだろうから戻るニャ」
離れて三十分少々ではあるけれど、一妖怪風情があまり、他人の領域に居るのは良くないニャ。
にゃっても、一応とは言え、此処の主はカミサマニャんなもにょ。
--- 『触らぬ神に祟りなし』
とはよく言ったもニャね。
急いで、私は一階に降りるのニャ。
その途中で、階段から落ちかけたのは秘密なのニャ。
っかしいな、雪乃の母方の設定馬鹿増えだ。