プロローグ 「殺人犯だろうと恩を返したいだけさ?」
基本的に、雪乃の一人称。
一部、他の一人称やサイドで行きます。
「最悪、引っ越しだけでも手伝って欲しい。」
全く、この子はなんて無茶を言うんだろうね。
オレは、鍵守蒼真。
名古屋市某所で鍼灸院をやっているしがない鍼灸師をやってる。
一応、独立はしたし、経費(従業員の給料含む)と自分の給料分は賄えている分はしがないとは言えないかもだけどね。
7月のアタマ、患者の一人で昔馴染みの佐伯雪乃に呼び出されたわけだ。
また、所謂、「みえるひと」、つまりは霊感持ちなのも特徴と言えばそうなる。
職業にはしてないから、霊能力者なんて名乗ってないし、名乗る気もない。
彼女とは、彼女が7歳の頃からの付き合いで、彼女の親戚筋からの紹介で父の鍼灸院に来たのがきっかけでそれなりに長い・・・かれこれ二十年近いの付き合い。
彼女が大学に行ったりしても、結局、帰省時に父の鍼灸院で顔を合わせるし、合わせれば帰省中にご飯を食べに行く程度には、親しかったといえばそういう仲。
話がズレた、巻き巻き戻して。
梅雨も完全に明け切らない蒸し蒸しとした日のこと。
その日は休診日で、前の日に「午後から来い」という極めて簡素なメールで呼び出されたわけだ。
きりりと冷えた深蒸し煎茶に相互を崩したのは天気のせい、ええ、天気のせいなんだ。
小倉白玉抹茶ババロアなんていう、いいトコ取りな手作りお菓子にめろめろになったのはちょっと、自分でもアレだとは思うがな。
・・・だって、多少イケメン系でもお菓子屋やケーキ屋にいると妙な顔されっからな。
こういうパフェ系なんて店で食べるとなれば気恥ずかしいし。
時たま、雪乃ちゃんにテイクアウトしてもらうぐらいだな、うん。
「最悪、引越しだけでも手伝って欲しい。」
「はい?」
主語と言うか、主題抜きに言うのは雪乃ちゃんの悪いクセなんだろうな。
改めて聞くところによると、この多須の近くに、七星小学校と言う小学校がある。
俺も小学校五年六年を過ごした小学校なんだわ。
ついでに言うなら、『ななせさま』誕生時に通ってたクチ。 今の校舎は三十年ほど前に建て替えられたモノで同じ敷地に未だに木造校舎が残っている小学校。
そうだな。
グラウンドから見て真正面に200メートルぐらいの新校舎、グラウンドが150メートル少々。
残りの右側にアスレチックや職員用駐車場なんかがあって、反対側にこぢんまりとその分縦が長い旧校舎があるという感じである。
色々とあって建て壊されていない旧校舎。
そこから、引越しを手伝って欲しいらしい。
「誰の?」
「七不思議の。
と言うか、『ななせさま』の。」
「雪乃ちゃん、まず、何で地元じゃない小学校の七不思議知ってるか言うて見ようか。
オレみたいに数年通ってたってわけでもないよな。」
頭痛を堪えながら、オレは聞きなおす。
どうにも、彼女は焦ったり、ある程度親しい相手には話を端折る癖がある。
悪いとは言わないが、こういう時は中々面倒だ。
「小学校の夏休みに丸々叔父さんのとこに居たの。
んで、地元の子と仲良くなって夜の学校に行ったのよ。」
オレは此処でとある事件を思い出した。
二十年近く前に、七星小学校の児童八名が行方不明になったこと。
ついでに言えば、ここの七不思議は色々とガチで、ばあちゃん(拝み屋だった)からも夜の小学校には入るな、と厳命されていた。
母親の病気の関係で、数年お世話になった時にな。
基本的に悪いことをしたら怒るけれど、放任主義のばあちゃんには珍しいことだったから覚えてる。
「答え合わせ代わりに聞くんだが、七不思議全部知ってるのか?」
「校庭の墓地、女子トイレの合わせ鏡、十三階段、廊下の猫、理科室の標本、音楽室のピアノ。
後、屋上のななせさま。」
詳細を確認すると、細かい場所はズレていたり、犬が猫になっていたりはしたけれど、オレの頃とそう変わらない。
しかしだ、姪っ子が関わってるのもあるんだろうが、あの龍雄さん(雪乃の叔父だ。)がガチで封印をした“七不思議”だ。
龍雄さんが行方不明になってからは、篠宮の本家かつ、ベテランが態々、封印を掛け直している状況。
それでも、“ななせさま”の力が凄まじいのか、数年に一組は行方不明になるのだけれど。
「なんで、それが“引越しを手伝って欲しい”になるの?」
「詳しい事情は、篠宮の虎郎伯父が流してくれたんだけど、七星小学校旧校舎、立て壊しが本格化しそうな感じらしい。
勿論、七不思議の件は篠宮はもとより、伊勢のお姫様も巻き込んで壊す怪異ごと壊すつもりらしいのよ。
それが来年度頭に正式に発足しそうなんだけど、十束一絡げだろうと突撃されるとあの子達も大変だろうし。」 あー、マジで頭痛してきた。
おっかしいな、昨日はオレンジブロッサムをジン一本分しか開けてないんだが、遅れて二日酔い来たのか。
一応、と言うか、人間の常識に当てはめるのならば、『ななせさまと七不思議』は、人殺しである。
詳しい人数なんかは、オレも本腰入れてないから解らないけれど、最低でも数年に一人二人。
此処三十数年で六十人以上は行方不明になって・・・“七不思議”に取り込まれている。
少なくとも、一般人よりはとはつくけれど、何があったのかぐらいは知っているし、その上でコスパの関係もあり、何もしないししないように態々忠告を貰っている。
少なくとも、人間としては、死んでるわな。
関わる理由がない・・・少なくとも、オレ以上に薄い彼女に、こう問うた。
「何故、関わるの?」
「・・・人で言う殺人犯だろうと、恩を返したいだけさ。」
さらりと、返答。
オレが、ついで何かを言う前に更にこう言う。
「それに、後から調べたんだけど、みっちゃんが帰らなかった理由を知りたい。
条件からすれば、私と一緒に帰って手もいい筈なのに。」
「わかった。
んじゃ、オレとお前・・・葉月のネコ姉さんとこのめか?」
断言した以上、オレが行かなくても確実にこいつは出向く。
そして、なんかあったら、精霊連中や後ろの連中が旧校舎を壊滅させるだろうしな。
自覚してないようだが、コイツは甘いというか自分の命を省みないレベルで身内には優しい。
それが、人に在らざる連中にとても、美味しそう・・・もとい魅力的に映っているのだろうね。
自分達に触れることはおろか、「みえない」人のほうが多い隣人であっても、彼らはオレらのことが大好きで。
怖がられても、拒否されても近付いてくる。
それをオレみたいに一線すら引かない雪乃ちゃんは、そういう意味を抜いても魅力なんだろうな。
多分、条件からすると、「ななせさま」をどうにかすると、校舎事潰れるんだろうが。
それと雪乃ちゃんの眷属が暴れて壊すのでは、意味が違ってくるし。
「いや、このめは一応、神属だろう?
木っ端でも、神様同士を同じ場所にやるって、『爆弾仕掛ケマス』と変わらないって。」
「んで、実際、どうすんの?」
「一週間後に忍び込むけど、その前に伊勢のお姫さんとお話し合いしてくる。」
「殴り合いの間違いじゃないのか?」
「・・・・・・否定できない、マジで出来ない。
とりあえず、明日明後日は伊勢に行って来るわ。
土産、何がいい?」
「松坂牛チップスと神山麦酒。」
有名な割には、近いせいもあり早々行かないんだよね、伊勢って。
何と言うか、ダンジョンアタックと変わらないね。