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58章  教会にて

 教会での会合を翌日に控えた夜。セティは涼風亭に戻ってきた。

 夜の食事をするため一階に下りたところ、ネイたちより一足早くテーブルに着いていた。

 ネイたちが下りてきたことに気付くと、軽く手を上げて片目を瞑って見せる。

「どうだった?」

 席に着くや否や、開口一番でネイがそう訊くと、セティは眉間にシワを作り口を尖らせた。

「ご苦労様とか、お疲れ! とかのねぎらいの言葉はないわけ?」

「ご苦労様、お疲れ。 ……これで満足か? いいから早く結果を教えてくれ」

 ネイがそう答えると、セティはブツブツと文句を言ながら紙を一枚テーブルの上に置いた。

 ネイはその紙を手に取ると、上から下へと視線を走らせる。

「三人か……」

「それが限界ね」

 そう言うとセティは両手で頬杖を突き、顎を少し上げて目を閉じた。

「三人とは?」

 横からアシムが口を挟む。

 セティは片目だけを開き、チラリとアシムを見ると再び目を閉じる。

「それらしい人物よ。時間が無くて、そこまで絞り込むので限界」

 セティはそう言うと、手を開いてヒラヒラと振って見せる。

 お手上げと言ったところだろうが、それでもアシムは感心したような表情をした。

「……これで充分だ」

 紙に視線を落としていたネイの口許に薄い笑みが浮かぶ。

「心当たりでもあるの?」

 セティが意外そうに問うと、ネイは首を左右に振った。

「心当たりなんてないが、三人なら何とかなるだろ。後は会ってからのお楽しみってやつだ」

 そう言ってネイはテーブルに紙を戻すと、腕を組んで椅子に身体を預けた。

「しかし、相手の名前が分かると何か違いがあるものですか?」

 アシムがそう疑問を投げかけると、ネイとセティは同時に目を見開いた。

「呆れたわね……」

 セティが緩く頭を振りながらタメ息をつくと、その隣でネイは肩をすくめていた。

「いいか。交渉っていうのは、いかに相手より精神的に優位に立つかが重要だ。相手が隠しているはずのことを一つでも掴んでいれば、それだけでも疑心を植え付けることが出来る。今回のような場合、自分がどれだけの情報を持っているかっていう事実より、どれだけの情報を持っているのだろう?と不安にさせるハッタリの方が重要になってくる。逆に言えばそれが出来ないなら、いくら情報を持っていようが無意味だ」

「要は腹の探り合いってやつね。まあ、森育ちのあんたには無理でしょうけど」

「そうだな。木が友達なんていう暗いヤツに、心理もクソもないな」

 そう言ってネイとセティは納得したように同時に数回頷く。

 二人の様子に、アシムは苦笑いをして頭を掻いた。

 その後、セティは三人の情報でも細かい部分に触れた。

 所有している私兵や財産、最近の行動、さらに言えば血族の構成等々と、セティの情報は留まることを知らないかのように語られていく。

 当初は真剣に耳を傾けていたアシムも、話も終盤に差し掛かった頃には呆れた表情に変わっていた。

「まったく……そこまでの情報をどうやって仕入れることやら」

「あんたバカねえ。人間なんて生きてるだけで情報を撒き散らしているようなものよ」

 当然のように言ったセティに、アシムは嘆かわしそうに緩く頭を振った。

 そのとき、ちょうどココが朝食を運んできたので、その話は一時中断される。

 自分が来たことによりネイたちが話を止めたことで、ココは疑わしそうに睨みつけた。

 その顔を見てネイがおどけて見せると、ココは鼻を一度鳴らしてテーブルを離れていく。

 その際、二回ほど振り返ったが、一回はルーナに視線を向けたものだった。

「何なの、あの態度の悪い子供ガキは?」

 ココの態度にさすがのセティも不愉快そうにするが、逆にネイとアシムは小さく笑った。

 そんな二人にセティは首を傾げた。

 

 

 

「もしかしたら、今日でこの街を離れることになるかもしれませんね」

 約束の時刻が迫り涼風亭を出る準備をしていたとき、誰にともなくアシムが呟いた。

 セティはそんなことを言い出すアシムを訝しげに見たが、ネイは淡々と荷物をまとめていた。

 そのネイの様子にアシムはタメ息をつくと、今度はハッキリとネイに身体を向けて言う。

「良いんですか?」

 ネイは一呼吸の間だけ手を止めると、視線だけをアシムに向けてくる。

「いいから早く荷物をまとめろよ」

 素っ気無い口ぶりだったが、再び荷物をまとめる手つきはどこか苛立たしそうに見えた。

 荷物をまとめて部屋を出ると、部屋の前でココがネイたちを待ち構えていた。

 少しふて腐れたような表情は、見ようによっては照れ隠しにも見える。

「もう行くのかよ」

 視線を合わせないでそう言ったココを、ネイは目を細めて見下ろした。

 そんなネイをココは上目遣いに下から睨みつけ、口を尖らせながら言葉を続ける。

「……おまえたち一体何者なんだよ」

「おまえが言ったとおりだよ」

 ネイが答えると、ココは眉間にシワを寄せて少し首を傾けた。

「おまえが言ったとおり、ただの悪党だ。それも小物の部類のな」

 ネイが片目を瞑ってそう言うと、ココは小さく舌を鳴らしてチラリとルーナに視線をやった。

「変なことに巻き込むなよ」

「はは、おまえ格好良い子供ガキだな」

 ココはもう一度顔を逸らすと、それ以上何も言わなかった。

 

 

 

「じゃあ行って来るぜ」

 涼風亭を出て広場まで来ると、一度周囲に警戒の視線を走らせてからネイは言った。

 それに対してセティも神妙な面持ちで頷き返す。

「ではユピをお願いしますね」

 アシムはセティの横に立つルーナの頭を撫で、その後でルーナに抱かれたユピの首元を撫でる。 

 これは昨夜のうちに決めていたことだが、待ち合わせの場所にはネイとアシムの二人で行くことにした。

 やはり相手の目的がはっきりしていない以上、ルーナを連れて行くのは危険だと考えてのことだ。

 その間、セティとルーナ、それとユピは別の場所で待機することとなる。

 ネイがルーナを見ると、ルーナはユピを胸に抱いたまま少し俯いてジッとしている。

 何か声をかけようかとも思ったが、結局はそれは止めることにした。

「気をつけろよ」

 代わりにセティに声をかけると、セティも同様の言葉をネイたちに返した。

 そしてその言葉を合図に、二組は背を向けて別々の路に向かった。

 

 

 

 ソエールの街・北西部。小高い丘の上。

 そこにある教会にネイたちが着いたのは、まだ陽が沈むには少し早い時刻だった。

 教会にはまだ人がちらほらと訪れている。

 アシムはその人の流れが途切れると、素早く教会の裏手に周り込み、そこに立つ木を軽々と登っていく。

「どうだ?」

 下から小さくネイが声をかけると、アシムが頷いて返す。

 先日教会の様子を見に来たとき、その場所が身を隠しながら、最も周囲を見渡せるだろうということで二人の意見は一致していた。

 アシムの返答に満足すると、ネイはその場を離れて教会の表に戻る。

 教会から不自然にならぬ程度に離れた場所。そこで一人待つ間、ネイは昨夜のセティの情報を頭の中で反復していた。

 そうしてしばらく待つと、次第に日が暮れて人の行き来もまばらになって来る。

 そして完全に日が暮れる直前、ネイの足元に小石が投げ込まれた。

 アシムからの合図だ。

 まだネイの目では確認出来ないが、どうやらそれらしい人物がやって来たらしい。

 街の方に目を向けてジッと様子を窺うと、教会に向かって来る人の影が徐々に姿を現す。

 どうやら一人だ。

 ある程度近付いて来ると、その人物の顔をネイの目で捉えることが出来た。

 兎の耳ラビット・イヤー……ラビだ。

 ラビもネイの存在に気付くと、軽く手を上げてそのまま丘を上ってくる。

 ネイの目の前まで来ると、ラビは一度周囲に視線を走らせた。

「一人か?」

 アシムは気配を消している。森で動物相手に近づいて行けるアシムにとって、人に気付かれない程度に気配を消すのは容易だ。それだけならアサシン並だろう。

「おまえの方は? 肝心のヤツはどうした?」

 ネイが訊き返すと、ラビは小さく笑った。

「心配するな、もうすぐ来るさ。まずは俺が様子見だ。まあ、おまえらが人を集められるわけがないが……一応な」

 そう言うとラビは街の方に目をやる。

 ネイも同じ方向に目をやった。

 そうして無言のまま二人で待つと、ラビに遅れることわずか、ラビが歩いて来た路に一人の人影が見えてくる。

 フードを目深に被っているようだが、さらに近づいてくるとそれだけでは無いことが分かった。

 口許にも布を巻き付けて顔を隠している。

「フン。相手はケガ人か?」

 その容貌にネイが皮肉を吐くと、ラビは肩をすくめた。

「おまえもすでに分かっていると思うが、相手はそれなりの人物だ。完全に信用出来るまでは顔を見せられない」

 ネイは向かってくる相手の歩調、身のこなし、その動きに全神経を集中させた。

 フードを被った人物が充分に近付いて来ると、その身体が思ったよりも大柄なことに気付く。

理由わけあってこんな格好で失礼する。枢機卿に追われているというのはキミだな?」

 身体から察したとおり男だ。低く重い、それでいて良く通る声だった。

 それともう一つ、相手の立ち位置が気になった。

 相手の立った場所はアシムから見て死角。ちょうど教会の煙突が邪魔をしていて、狙い撃ちが出来ない唯一の場所だった。

 そしてその位置はネイから見て正面よりやや左。

 その場所が自分の正面にならないように、ネイは向きをずらして立っていたのだが、相手はネイの正面に立つのではなく敢えてその場所に立ったのだ。

 そこが死角であると瞬時に判断した。そう感じた瞬間、ネイの脳裏にある一人の人物の名が浮かんだ。

 その名を頭に置き、もう一度相手を観察する。

 やや右足を前にするように身体を傾けた立ち姿。すきは感じられない。

 やはり戦闘に慣れていると感じたのと同時に、頭に浮かんだ人物で合っているという確信が持てた。

 セティが調べた三人。その中に一人だけ、生粋の武人で戦で武功を上げて成り上がった人物がいる。

 エインセ将軍――目の前にいる人物はその人だという確信。

「追われているというのはキミだな?」

 もう一度訊かれ、ネイは我に返り小さく頷いた。

 するとネイに向かい右手を差し出してくる。

「会えて嬉しく思う」

 その差し出された手を掴むことにネイは躊躇ちゅうちょしたが、その様子を見て肩を揺らす。

「用心深いな。安心したまえ、毒針などは仕込んではいない」

 苦笑混じりに言われ、ネイは相手を睨むと強くその手を握り返した。

 手の皮が厚い。その厚い手がネイの手を掴んで離さない。そして――

「銀髪の少女はどこに?」

 ネイの心臓が一度大きく弾んだ。

 ラビはルーナについて知らなかったはずだが、それはラビがそのことを聞かされていなかっただけなのか?という不安がよぎった。

 しかし、ネイはそれを表には出さずに薄い笑みを浮かべる。

「一体何のことだか」

 ネイがそう答えると、相手は再び肩を揺らして首を振った。

「それは隠さなくても良い。ラビに報告を受けたとき、私の客人が心当たりがあったらしく、その少女のことを教えてくれた。だが、なぜ枢機卿がその少女を追うのかが分からない」

 そう言ってネイの目を真っ直ぐに見据えてくる。手はまだ離さない。

 ネイはその眼差しに、初めて受ける種の威圧を感じていた。

 その威圧はオズマのように外的なモノとは違う。もっと内的なモノだった。

 逆らってはいけない相手だと、ネイの直感が訴えかけてくる。

 その威圧に飲み込まれそうになったとき、掴まれたネイの手は不意に放された。

「来たようだな」

「?」

「さっき言った私の客人だよ。彼も君たちに会いたがって着いてきた」

 それを聞いて街の方に目をやると、そこからさらにもう一人がやって来るのが見える。

 その人物の姿を目にしたとき、ネイの全身に嫌な何かが広がった。

 生理的に受け付けないものを目にしたような感覚だ。

 次の瞬間、ネイは背後に強烈な殺意を感じた。

 素早くその方向に視線を移すと、殺意の主を目にする。

 アシムだ。アシムが気の幹の部分で立ち上がり、向かって来る人物の気配を確かめるように顔を向けている。

 すでに身を隠すことすらせず、ただ怒りに顔を歪めていた。

「アシム!」

 ネイが呼びかけるが、すでにその声はアシムの耳には届かない。

「ファムートォォ!」

 アシムが怒りを露に咆哮を上げた……。

 

 

 

 つづく

 

 


 10月31月〜11月1日の間、PC版の方から投票をクリックしてくれた2名の方、ありがとうございます!大変励みになりました! 

 

 これは分かる人には分かる話になってしまいますが、短い名前、カタカナ名に出来そうな名前の人は注意です。

 私、パクります。

 名前を考えるのが苦手なんです……。

 パクったときは何らかの形で分かるようにするので、そのときは不本意なキャラでも許してください。

 

 では、次回も読んで頂けたら何よりです(11/1)

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