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2章   赤毛の男

 ベルシア東部。

 ネイは空を見上げた。

 不吉を示すような黒い雲が太陽を覆い隠そうとしている。

「雨か……」

 周りは荒野。身を隠せそうな場所もない。

 こんな場所で降られたらたまったものではない。

 そう思い歩調を速める。

 

 

 

 ネイは明け方街を出ると、南東方向に向かって移動を始めた。

 店主から得た情報である『金のふくろうに会え』という言葉に従うために。

『金』とはそのまま色を示す意味ではなく、『場所』を示す言葉だと考えたからだ。

 盗賊ギルドなどでは、よく別の言葉に置き換えて表現することがある。隠語と呼ばれるものだ。

 その中で『金』とはある国を指すために使われる。

 それが現在向かっている『モントリーブ』という国だ。

 モントリーブはバルト大陸の北東部に位置し、北に位置するベルシアからすれば南東方向に隣接する国となる。

 モントリーブがなぜ『金』と表現されるか。

 それはモントリーブと言う国が豊富な資源を持ち、財力により栄える商業都市だからだ。

 だからこそネイは『金』が指すのはモントリーブだと確信を持った。

 それにより、一路モントリーブに向かうこととした。

 

 

 

 ちょうど雨が降り出したとき、ネイはなんとか身を隠せる程度の岩陰に辿り着いた。

 荷物を置き、しばしの休息を取る。と言っても大した荷物があるわけでもない。

 手荷物は袋に入れた三日分の食料だけだ。

 三日もあればネイがいた街から、モントリーブの一番近い街まで楽に辿り着ける。

 その他の荷物と言えば、革のベルトに差した大小異なる二本のナイフくらいのものだ。

「やれやれ、まいったな」

 雨空を見上げながら腕を組んでボヤくと、自分の思考に意識が移る。

「梟に『会え』」と言うからには、おそらく梟とは人物を指すのだろう。

 しかしそれが誰なのかがさっぱり分からない。

 梟などという通り名を持つ人物には心当たりがない。

 しかし、梟に会って仕事の内容を聞かなければ話にもならない。

 しかも出来るだけ早くだ。

 もし遅くなれば、話を聞いたときにはすでに手遅れ……なんてこともありえる。

「問題は梟だな……。っ!」

 呟いた直後、人が近付いて来る気配を感じた。

 雨の中、バシャバシャと音を立てて向かってくる。

 その足音を聞いてネイは多少気を緩めた。

 もし自分に何かしらの悪意を持っているなら、こんな派手な足音を立てて近付いて来るわけがない。

 それでも完全に警戒を解きはせず、いつでも腰のナイフを抜けるように心の準備はしておく。

「うぉっ!」

 岩陰に飛び込んできた人物は、目の前に立っていたネイに驚き声を上げた。

 どうやら相手は全くネイの存在には気付いていなっかたようだ。

「っ! おまえは……こんな所で何してるんだ?」

 相手を確認してネイは呆れた声を漏らした。

「ほ、ホーク・アイ! お、お、おまえこそ何してんだっ!」

 相手からしてもネイは意外な人物だったらしく、不憫に思うくらい狼狽して見せた。

 

 

 

「モントリーブぅ?」

 赤毛の髪を逆立て、額にバンダナを巻いた男が素っ頓狂な声を上げる。

 腕を組み、右手の親指を噛みながら何やら考え込む。

「おいギー、おまえはこんな場所で何してるんだ?」

 ネイに『ギー』と呼ばれた男は、そう聞かれると横目でジロリとネイを見る。

 年はネイと同程度だろうか。背丈はわずかにネイよりも低い。

「俺もモントリーブに向かうんだよ」

 ギーはモントリーブの部分をゴニョゴニョと濁して言った。

「おまえもモントリ−ブへ?」

 眉間にシワを寄せ、今度はネイが考え込む。

(盗賊ギルドの人間が同じ時に二人も……偶然だろうか? まさか同じ仕事ということはあるまい……)

 基本的に盗賊ギルドの仕事は単独だ。

 手違いで二人が同時に同じ仕事を請け負った、ということもギルドに限っては考えにくい。

 一番早いのはお互い直接問いただすことだが、仕事に関しては『聞かない、言わない』がギルド内の暗黙のルールだ。

 二人はしばらく相手を探るように沈黙の中で見合っていたが、ギーが何かに思い当たったように口を開いた。

「テメえ! 今、俺をバカにしてやがるな!」

「?……なにを言ってるんだ?」

「同じモントリーブに向ってるのに正面から出くわすわけがねえ!」

「っ! ああ、そのことか。そんなこと考えちゃいないぜ」

 ネイは小さく笑って見せたが、その笑いをギーは勘違いしたらしく、見る々うちに顔を赤く染めていく。

「ちっくしょお! 絶対先に着いてやる!」

 そう叫ぶとギーは自分の荷物を荒々しく掴み、岩の陰から勢いよく雨の中へと飛び出した。

「お、おいっ!」

 ネイが咄嗟に引き止めようと声をかけるが、ギーは振り返りもせずに走り去ろうとする。

「今さら詫びるな! バカにしやがって!」

「いや、そうじゃなくて……」

 ネイが弁解をしようとするが、ギーはそれを聞かずに走り出した。

「っ! おい、方角が違うぞ!」

「ぐっ……」

 走り出したギーの足がピタリと止まり、背を向けたまま立ち止まった。

 赤毛の盗賊ギー。

 方向音痴の稀有けうな盗賊。

 元の場所に戻れないことから『赤い矢レッド・アロー』という通り名が付いた男。

 

 

 

 つづく

 

 


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