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28章  更に地下へ

 砂埃すなぼこりを上げながら姿を見せた、更なる地下へと続く階段。

 四人は頭を付き合わせるようにし、床に空いた穴を覗き込む。

「……暗くて分かりませんね」

 オツランが言うと、三人も諦めてその身を起こした。

「しかし、よくここに階段があると分かりましたね」

 オツランが感心したように頷くと、ネイは小さく笑う。。

「なあに、大したことじゃないさ。壁画だよ、壁画」

「壁画ですか?」

「ああ。天井と階段の壁は壁画が描かれてるのに、その他は一面が浮き彫り式になってるだろう?」

「ええ……」

「百歩譲って、天井は作業上の問題で浮き彫り式じゃないとしても、階段の壁はそんなことはないだろ」

 リーゼは興味が無いかのようにそっぽを向いているが、その耳だけはしっかりとネイに向けている。

「ここまで豪華に見せることに拘る人間が、そんな統一感の無いことをするか?」

「あっ!」

「だから浮き彫り式と壁画、この二つは違う時代に手を入れられたものじゃないか? そう思ったわけさ」

 オツランが合点がいったように頷いて見せた。

「階段の壁画を確認したら、案の定、絵が途中で途切れてた」

「それを見て、本来この階段はもっと深くに続いていたと考えたわけですね?」

「そうだ。もっとも、今まで調査隊で来ていた中にもそう考えたヤツはいたかもな」

「今までそんな意見が出たかなあ……」

 記憶を探るように低く唸ったオツランに、ネイは笑い声を上げる。

「そんなの当たり前さ。自分の意見で貴重遺跡の一角を壊して、もし間違ってたらどうするんだ? 責任なんて取れないだろ?」

 ネイの問いに、オツランは言葉を詰まらせて顎を引いた。

「だったら黙っておくのが一番さ。この国の人間なら尚更そう思うんじゃないか?」

「だったらあなたは良く平気で壊したわね?」

 呆れたようにリーゼが口を挟んだ。

 ネイはそんなリーゼを見て、ニンマリと笑う。

「オレはこの国の人間じゃないし、遺跡自体に興味は無い。何より、仮に違っていも責任を取らされるくらいなら逃げ出すさ」

 両腕を開いて当然のように言うと、リーゼは軽蔑を込めた目で睨んだ。

「所詮は盗賊ね。文化的建造物を大事にする知性も無ければ、それを壊す責任感も無い」

 リーゼの皮肉を、ネイは目を閉じて頷くだけで受け流す。

 反論する気などさらさら無い。

 そのネイの態度にリーゼの不機嫌さは更に増し、奥歯を強く噛んだ。

 二人の険悪なムードに、オツランが作り笑顔を浮かべて割って入る。

「とにかく、これからどうするか決めましょう」

「キメル? ……ドウスルカ?」

「そうです。この先は何があるか分からない。このまま戻るのが一番ですが……」

 言葉を切ったオツランに、ネイが鼻を鳴らした。

「ある程度の様子も確認しておきたい―――か?」

「ええ。そうじゃないと二度手間ですから」

 苦笑するオツランに、ネイは疑惑の眼差しを向けた。

 もっともらしいことを言うが、結局オツランも好奇心が優先するタイプなのだ。

「だったらそれは二人で決めてくれ。行こうぜビエリ」

 ビエリに声を掛けると、ネイはオツランとリーゼを残して祭壇に向かい離れて行く。

 ビエリはオツランとリーゼを交互に見て、その後で小走りにネイの後を追った。

 ビエリが離れていくと、取り残された二人は互いに身振り手振りを交えながら言い合いを始める。

 その二人の様子を、ネイはニヤニヤとしながら遠巻きに眺めていた。

 

 

 

 二人がネイたちの元に近付いて来ると、オツランが口を開く。

「決まりました」

 ネイは祭壇の階段に腰を掛けたまま、興味がないように顔を向けた。

「で?」

「やはり、多少様子を調べてから帰ります」

 ネイはガックリとうな垂れると、ポリポリと首筋を掻く。

 悩んでいる素振りを見せるが、その口許は笑っていた。

 もちろん、上から見下ろすオツランとリーゼは気付かない。

「やれやれ……仕方ないな」

 そう言いながら、さも重そうに腰を上げた。

 それに合わせ、ビエリも腰を上げる。

 実はオツランたちがいがみ合っているとき、ビエリにだけ言っておいたことがる。

 それは、必ずこの先に進むことになる、ということだ。

 早い話が、初めからこのまま帰ることは無いと分かっていた。

 オツランたちといて気付いたことだが、リーゼは一見すると我儘わがままに見え、我が強そうに見える。

 そしてそれをなだめるオツラン。

 外面上の二人はそういう役回りだ。

 しかし、実際は我を通すのはオツランの方だ。

 リーゼは何だかんだと言いながら、最終的にはオツランの意見に従う。

 初めてネイたちと出会ったときもそうだった。

 だからこそ、どうするかを安心して二人に委ねた。

 ネイ自身もこのまま帰るつもりは毛頭無かった。

 ネイはこっそり片目を瞑って見せると、ビエリは苦笑いを浮かべて毛の無い頭を掻いた。

「じゃあ、さっさと調べて帰ろうぜ。いつまでもこんな場所にいたくない」

 ネイがさも嫌そうに言うと、オツランは安堵の表情を浮かべる。

「よろしいんですか?」

「まあ、乗りかかった船だしな」

「ありがとうございます!」

 思わず『こちらこそ』と言いそうになり、ネイは慌てて口をつぐんだ。

「ルーナ……ドウスル?」

「あ……」

 ネイはすっかりルーナのことを忘れていた。

 ルーナを見ると、大人しく階段に腰を下ろしている。

 このまま置いていくと、いつまでもそのまま動かないようにも思える。

(ルーナを残しても、何かあったとき役立つわけじゃないしな……)

 ネイは顎に手を当て逡巡すると、大きくタメ息をついた。

「仕方がない。一緒に連れて行くか。どうせ役立たないなら、まだ目が届く所にいた方が安心だろう」

 ネイがそう言うとビエリが頷き、ルーナの手を取って立ち上がらせた。

 

 

 

「さあ、誰から行く? 誰も志願しないなら俺が行くぜ」

 ネイが全員を見回しても、ルーナはもちろん、他の者も誰も応えなかった。

「決まりだな。とりあえず下まで着いたら声を掛ける」

 そう言ってオツランの手からランプを取ると、ゆっくりと足元を確認しながら階段を降りていく。

「気を付けてください」

 オツランの声を受けて軽く手を上げて応えると、その身が完全に地下へと入る。

 ネイが思った通り、元々は地上への階段と一つで繋がっていた階段だったらしく、左右の壁には同じような壁画が描かれている。

 それに足場はしっかりしたもので、崩れ落ちそうな気配は無かった。

 注意を払いながら降りていくと、階段は思っていたよりも短く、ほどなくして階段下まで辿り着く。

 下まで来ると、そこは結構な広さを持った空間だった。

 おそらく、オツランたちがいる階と同じ広さなのだろう。

 上を見上げると、天井までは大した高さでは無い。

 どうやら、元々はこの場所から上の階の天井までが一つの広間になっていて、それを後から二つに分けたと考えられる。

「やはり上の階はおとりか……」

 ネイはそう呟くと、階段下から声をかけた。

 すると、三つの灯りが上下しながらゆっくり階段を降りてくる。

 どうやらオツランとリーゼ、それとビエリが上の階の燭台を外して持って来たらしい。

「どうです? 何かありそうですか?」

 下に着くなり、オツランがネイに声をかけた。

 知らず々の内に声が小さくなる。

「それをこれから探すのさ」

 ネイたちは余計な場所を触らぬように、足元に注意を払いながら固まって壁際を移動した。

 そしてそれはすぐに見つかった。

「扉……ですかね」

 階段がある場所からちょうど対極に位置する場所にその扉はあった。

 ネイはそっと扉の前に立つと、触れる前に注意深く観察する。

 扉と言っても取っ手の類はなく、どうやら分厚い石で出来ているようだった。

 かなり原始的な造りだ。

 かろうじて扉と判断出来る要素は、壁に縦長で四角の切れ目があることと、その切れ目の内側には細かく模様が描かれていることだった。

 切れ目がなければ、まるで壁に長方形の大きな絵が掛かっているように見える。

「回転式の扉ですかね?」

 ネイの横で、オツランもその石扉に顔を近づけて尋ねた。

「そうだと思うが……」

 ネイは途中で言葉を止めたが、その先はオツランにも分かった。

 罠か何かの仕掛けが施されている心配をしているのだ。

 しばらく観察してそれらしきものは無いと判断すると、ネイはビエリだけを近くに残し、他の者には一人一人距離を置くように指示をした。

 もし何かあったとき、全員が一箇所に固まっていては全滅する恐れがあるからだ。

「じゃあやるぞ」

 その言葉にオツランが喉を鳴らすと、ネイはビエリに小さく頷いて見せた。

 ビエリが恐る々に石扉に両手を伸ばす。

 そして両手がピタリと石扉に付くと、一度大きく息を吸い込んで力を入れた。

「ウググ……」

 ビエリの二の腕とこめかみに血管が浮き上がり、石扉が『ズズズ』と微かに音を上げる。

「グオオー!」

 ビエリが叫びと共に更に全身に力を込めると、不意にその抵抗が無くなり、ゆっくりと石扉が傾いた。

 そして予想外のことが起きる。

 石扉はドスンと重みのある音を立て、ほこりを巻き上げながらそのまま奥に倒れたのだ。

 そして新たな通路が姿を見せる。

「……アレ?」

 ビエリは、両手を前に突き出した格好のままでネイに顔を向けた。

「タオレタ……」

 回転式ではなく、ただ向こう側に倒れたことがネイにも予想外だったらしく、唖然として倒れた石扉を見下ろした。

 だがその直後、地下全体が『ゴゴゴゴォ』と不気味な音を上げ始める。

「な、なに? 何なの!」

 リーゼが悲鳴に近い声を上げながら、せわしなく周囲を見回す。

「あっ! 見てください! 階段が!」

 オツランの叫び声で、それぞれが手にした灯りを階段に向ける。

 その灯りの先、階段が上から一段ずつ崩れ落ちていくのが見えた。

 しかし、変化はそれだけでにとどまらなかった。

 天井がゆっくりと下がって来ているのだ……。

「ヤバいぞ! 早く来い!」

 ネイがそう叫ぶと同時に、オツランはルーナの手を掴んで走り出した。

 しかし、リーゼは呆然と天井を見上げたまま足が動かない。

「何してる! 早く来い!」

 新たな通路に入り再びネイが叫んだが、やはりリーゼは動くことが出来なかった。

 それを見てネイは舌打ちをし、オツランたちと入れ違いに通路から飛び出した。

 急いでリーゼの元に駆け寄ると、その肩を掴んだ。

 それに驚き、リーゼは一度ビクリと身体を震わせて我に返る。

「バカっ! 潰されたいのか!」

 リーゼが泣き出しそうな眼でネイを見上げると、ネイは強引にリーゼを引いて走り出した。

「早く!」

 通路からオツランが必死に叫ぶ。

 天井は、すでに身を屈めなければいけないほどに下がって来ていた。

 リーゼが通路まで近づくと、オツランが手を取り無理矢理に引っ張り込む。

 そして、ネイも通路に転がり込むように飛び込んだ。

 その直後、まるで糸が切れたかのように天井が一気に落ちた。

「くっ!」

 巻き上がった埃に、四人が一斉に顔を背けた。

 ビエリはルーナを抱き込み、背を向けて埃から守る。

 …

 ……

 ………

 埃が舞う中、オツランが呟くように口を開く。

「出口が……無くなってしまいましたね」

 オツランが言った通り、通路の出入り口は完全に塞がってしまっていた。

 しかし、悲観しているヒマも無く、再び『ゴゴゴゴォ』と不気味な音が響き始める。

「今度はなんだよ?」

 座り込んで呼吸を整えていたネイが顔を上げた。

「っ! 今度は下かよ……」

 ネイがうんざりしたように呟くと、三人の視線が足元へと移動する。

 足元が微かに揺れ出し、その揺れが次第に大きくなっていく。

「ビエリ! しっかりルーナを抱えてろ!」

 そう言われ、ビエリがルーナを引き寄せた瞬間、足元の床が突然崩れ落ちた。

「ひっ!」

 声を上げる間もなく、全員が足元の暗闇に飲み込まれる。

 直後、誰のものとも分からぬ悲鳴が地下に響き渡った……

 

 

 

 つづく

 

 


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