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23章  夜明けは幕開け

 金属を擦れ合う音。人の行き交う気配。

 それが次第に増していくのがはっきりと分かる。

 時間を掛けていては、より脱出が困難になるのは火を見るより明らかだった。

 建物の陰、身を潜めるようにした二人の影が浮かぶ。

「いいか。俺が合図するまでここにジっとしてろよ」

 ルーナに言い聞かせると、ネイは建物の陰から陰へと身を低くして移動した。

 すでに変装を解き甲冑を脱ぎ捨ててあるため、その動きも本来の身軽さを取り戻している。

 二つ目の建物まで進むと周囲を警戒し、振り返ってルーナに合図を送る。

「……」

 ルーナは合図を受けて立ち上がったが、その後でネイが顔を覆いたくなるよう行動を取った。

 堂々とネイに向かって歩いて来る。

「っ! あのバカ!」

 言うが早いかネイは慌てて駆け戻り、ルーナの身体を抱え上げると、そのまま元の場所まで再び戻り身を潜めた。

「おまえはバカか! 散歩をしてるんじゃないんだぞ! 堂々と歩いてどうするんだよ!」

 ネイが叱りつけるが、一向にルーナの顔色は変らない。

 俯き加減に一点をジッと見据えている。

 ネイは、頭をひっぱたいてやろかという気持ちを必死で押さえ、引きつった笑顔をルーナに向けた。

「いいかな? 出来るだけ身を低くして移動するんだよっ! 次はあそこまで行くからねっ!」

 先の建物を指差し、必死に笑顔を保ちながら歯を噛み締め、出来る限りに優しい口調で説明する。

 しかし、振り返って再び唖然とした。

 ルーナが今度は四つん這いの体勢で待機していたからだ。

 どうやら言われた通り、『出来るだけ身を低くして移動する』つもりのようだと解釈すると、ネイはガックリと肩を落とした。

「……分かった、分かったよ。けど残念だが、今はおまえに歩き方の講義をしてやる時間はないんだ」

 ネイは四つん這いになったルーナの横まで行き、その身体を脇の下へ抱え上げた。

「結局こうなるのかよ……」

 小脇のルーナを見下ろすと、大人しく両手両足をダラリと垂らしている。

「いいか? おまえはとにかく動くなよ。一気に城壁の上まで行くからな」

 そう声をかけると、その状態のまま建物の陰から陰へと移動を開始した。

 しかし、それを数度繰り返すと、さすがに息が切れてくる。

 いくら軽いとはいえ、人一人を抱えた状態で移動するのはなかなか骨が折れる。

 あと少しで城壁へ上るための城壁塔入り口に辿り着くが、そこからがまた大変だ。

 別の城壁塔を上ったばかりなので分かるが、おそらく中は螺旋階段になっている。

 ネイは一度呼吸を整えながら周囲を見回した。

 兵士たちは混乱し、今だ慌しい。

「休んでる場合じゃないな……」

 出来る限り早く城壁の上まで辿り着きたかった。

 遅かれ早かれミューラーが来れば、この程度の混乱はすぐにでも統率されると踏んでいた。

 そうなったらミューラーのこと、勘を働かせてこちらの意図などあっさりと見破るに違いない。

 だからこそミューラーが来る前に……。

 ネイは呼吸が多少落ち着くと、一度ゴクリと喉を鳴らす。

「一気に行くぞ!」

 ルーナに声をかけると同時に、自分の気持ちを奮い立たせるように小さく反動をつける。

 そして、一気に城壁塔に向かい駆け出した。

 今回は身を隠す場所もなく、ルーナを抱えている格好のため目立ちやすい。

 兵士の叫び声を耳にしたが、それが自分たちに向けて発せられた言葉なのかどうか、それすらも確認している余裕はなかった。

 立ち止まることも、振り返ることもなく、ただ目的の場所だけを見て駆け抜ける。

 そして城壁塔入り口に飛び込むと、その勢いのまま螺旋階段を駆け上がった。

 心臓が悲鳴を上げるように脈打っているのが分かる。

 城壁の上に通じる出口が見えてくるが、螺旋状になっているため、その距離が目にした感覚よりも恐ろしく長く感じる。

 それでも歯を食いしばり、決して速度を緩めることはしない。

 脚と心臓が限界に達しようとしたとき、やっと出口に辿り着くことが出来た。

「っ!」

 安心するのも束の間、出口まで来た瞬間、二人の兵士と出会い頭に顔を合わせてしまった。

 相手の二人も驚いたようで、慌てふためき後ろへ下がろうとバランスを崩す。

 ネイは考えるより早く体が動いていた。

 両手をルーナの脇の下に入れると、そこを支点にその小さな身体を下から上へと振り上げた。

 跳ね上がったルーナの足先が見事な角度で兵士の顎に入った。

 カコンと小気味良い音を上げると、一人の兵士はそのまま後ろに倒れ込んだ。

 もう一人の兵士が慌てて槍を構えようとするが、ネイとルーナはそのまま一回転し、今度はルーナを真横に振った。

 今度はルーナの足先が兵士の顎を真横から打ち抜く。

 顔が一瞬、高角度に傾く。

 激しく脳を揺らした兵士は、そのまま膝を突いて前のめりに崩れ落ちた。

「ハァ…ハァ…へへ、やったな」

 やったと言っても、ルーナはただ無抵抗で振り回されていただけだが……。

 ネイは呼吸を荒げながら相手を見下ろし、動かないと確認出来たところでルーナを地に下ろした。

 その直後、あまりの息苦しさに四つん這いになり、苦しそうに心臓を押さえた。

 バクバクと破裂しそうなほどの鼓動。

 突然動きを止めたせいか、目の前に鉛色の火花がチカチカと点滅する。

 しばらくその姿勢のまま空気を貪るように呼吸を荒げていたが、人の気配を感じてその呼吸を止めた。

「いや〜、凄い、凄い。だが、もう少し体力を付けた方が良いんじゃないのか?」

 ネイは四つん這いの体勢のまま、声の方向に顔を向けた。

 ネイたちが上がってきた螺旋階段。その出入り口に一人の男が立ち、ネイに向かい拍手を送っていた。

 男は左右の目が開き気味で黒目が小さく、口も大きめに左右に開いている。

 高さの足りない低い鼻との組み合わせで、その顔は爬虫類……蛇を連想させた。

 ネイは乱れている呼吸を強引に飲み込むと、口許を拭いながらゆっくりと立ち上がった。

 甲冑を着けずにいるその格好は、傍目から兵士には見えない。しかし……

「そんな恐い顔で睨むなよ。俺は同業者みたいなもんさ」

 そう言って男は両手を軽く挙げ、ニヤリと笑って見せる。

 そのときガシャンと大きな音が鳴り、城壁に何かが突き刺さった。

「ほお〜……それで脱出するのかい?」

 男が覗き込んだ先にはロープと滑車を結び付けた槍があり、その槍が城壁の上部、ネイの足元に深く突き刺さっていた。

 男は城壁下を見下ろして口笛吹く。

「あれ、あんたの仲間? こんな所まで槍を投げる腕力といい、向こうはあんたとは反対に体力自慢みたいだな」

 男の視線の先、城壁下ではビエリが心配そうにネイたちを見上げていた。

 ネイは男を睨みつけ、口許にのみ笑みを浮かべる。

「見たところ兵士じゃなさそうだが……用が無いなら行ってもいいか」

 男を見据えながらそう言うと、感心したようにビエリを見下ろしていた男がネイに向き直った。

「どうぞ、どうぞ」

 そう言いながら左右の掌を差し出してくる。

 ネイは男を警戒しながらしゃがみ込み、槍に固く結び付けてあるロープと滑車に手を伸ばす。

 ロープは、城壁から離れた場所に停まっている荷馬車まで伸びており、斜めに張られた状態になっていた。

「こい!」

 槍から滑車を外しながらルーナを呼ぶと、ルーナはネイの横まで来てしゃがみ込む。 

「いいか、俺にしっかり掴まってろ」

 そう言うと、ネイは滑車をロープに合わせるために男から視線を外した。

 その直後――

 

 

 

「来たわ!」

 筒状の望遠鏡を覗き込んでいたセティが声を上げた。

「ふむふむ、ルーナってあの子かしら? まだ子供……ん?」

「どうしました?」

 セティの様子にアシムが声をかけた。

「あと一人誰かいるわ……あっ! ビエリの槍も上手く刺さったみたいよ。ホントに凄い腕力ね」

 呑気なセティの口調に、アシムは苦笑いを浮かべる。

「それで、あと一人とは?」

「分からない。ここからじゃはっきり見えないわよ。揉めてる感じには見えないから、兵士とは思えないけど……」

「……」

 アシムの表情が次第に険しさを増す。

 この距離ではさすがに気配を感じることは出来ないが、どうしても一人の人物が頭に浮かぶ。

「もう滑り降りてくるわよ。……あっ!」

 突然上がった驚きの声に、アシムが弾かれたように顔を向ける。

「どうしました?」

「あいつ、背中から何か出した……っ! ネイ避けて!」

 しかしセティの声が届くわけもなく、男の腕が何かで震えたように見えた。

 アシムはセティの言葉を聞き終えぬうちに、荷馬車から飛び降り走り出していた。

 

 

 

「ほお〜……こりゃ驚いた」

 口笛混じりに男が感嘆の声を上げる。

 前に差し出した男の右手には、十字型自動弓クロスボウが握られていた。

 そのクロスボウから放たれた矢が、ネイがしゃがみ込んでいた場所に突き刺さって微かに揺れている。

 そしてネイは……

 ネイはルーナを抱え、矢が突き刺さった場所からわずかに横に転がり倒れていた。

 ルーナの無事を確認し、ゆっくり立ち上がる。

「よく避けたな。注意が逸れた瞬間を狙ったんだがな」

 男はニヤニヤと笑みを浮かべ、クロスボウに第二の矢をセットしながら話かけてくる。

「茶色の髪、顎の傷……ファムートか?」

 男は驚いた顔をし、顎を人差し指でポリポリと掻いた。

 そこには刀傷がはっきりと浮かんでいる。

 男は肩を揺らしながら低く笑い、その声が突然高いものに変化する。

「ヒャッハッハ! なんだよおまえ、オレを知ってたのか? それでわざと注意を逸らして誘ったってわけか?」

 ネイは高い笑いするファムートに向かい鼻を鳴らした。

「勘違いするなよ。例えおまえを知らなくても同じことをしたぜ」

「ほお……」 

「おまえみたいなつらのヤツを最初はなから信用なんかするかよ」

「ヒャッハッハ! 酷いヤツだな。おまえの御仲間も同じようなもんじゃないか」

 そう言いながら、ファムートはビエリに向かって親指を立てた。

 ネイは口の端を上げて返す。

「近くで見てみろよ。おまえより遥かにまともな目をしてるよ」

「……ああ、そうかい」

 直後、ファムートはニヤリと笑い、ルーナにクロスボウを向けた。

「くっ!」

 矢が放たれるのと、ネイがルーナに飛びついたのはほぼ同時だった。

 ぎりぎりでルーナを抱え込むと、ゴロゴロと敷石の上を転がる。

 ネイはすぐに立ち上がろうとしたが、左脚に痛みが走った。

 どうやらクロスボウの矢が太腿を掠めたらしい。

 しかし傷は深くはない。

「あんた……こいつを取り戻しに来たんじゃないのかよ?」

「そのガキを? フン、もちろんそのつもりだが、そいつを狙えば代わりにおまえが受けてくれると思ってね。仮にガキに当たっても俺は一向に構わないしな」

 ファムートは再び甲高い笑い声を上げた。

「いや〜、残念だ。本当に惜しかった」

 三射目の矢をクロスボウにセットし、ニタニタと笑みを浮かべながら二人に向けてくる。

 ネイはルーナを背後にまわし、しゃがみ込んだままファムートを睨みつけた。

 ファムートの指が引きがねに掛かった。

「あばよ……」

 その指に力が込められる寸前、風を切り裂く音が鳴る。

「がああぁ!」

 何かがファムートの眼前を通過し、それと同時に手にしたクロスボウを落とす。

 そして両手で鼻を押さえて獣のような叫び声を上げた。

 押さえた指の隙間から、鮮血が滴り落ちる。

 ネイとファムートは城壁下へと同時に視線を向けた。

『アシムっ!』

 二人の声が重なり、その名を口にする。

 城壁下、アシムは矢を放ち終えた格好のまま、ネイに向かって叫んだ。

「ネイ、早くしなさい!」

「ぐうう……」

 ファムートは鼻を押さえながら、悔しさに顔を歪ませてアシムを見下ろす。

 ネイはそんなファムートに向かい低く笑う。

「あんたが何したのか知らないが、よほどのことをしたんだろうな」

 ネイの言葉にファムートは向き直り、憎々しげにネイを睨みつけた。

「鼻ですんで良かったな。それ、わざと外したんだぜ。どうやら不意打ちじゃなく、堂々とあんたを撃ち抜きたいらしい」

 ネイが嘲笑するかのような笑みを浮かべ、ファムートは怒りでこめかみに血管を浮かべた。

 笑みを浮かべたまま、ネイはルーナを連れてゆっくりとロープまで移動する。

 その移動の途中、ネイはチラリと落ちたクロスボウを見た。

「動けないよな。今度はどこを射抜かれるか分かったもんじゃない」

「くっ!」

 ネイは滑車を掴かみルーナを抱きかかえると、その身を城壁の外に投げ出そうとした。

「逃げるのか? 俺が怖いか? 勝負して見せろ!」

 手で隠れて口は見えないが、ファムートの目元は笑っている。

 しかし眉間には深くシワが寄り、怒りの色がありありと見える。

 安っぽい挑発以外のなにものにも感じられない。

「しっかり掴まってろ……」

 ネイはルーナの耳元で囁くと、ファムートに向かって再び余裕の笑みを見せる。

「寝ボケたことを言うな! 逃げない盗賊なんているかよ!」

「っ! 貴様ぁっ!」

 怒りを露にしたファムート。

 ファームトに向かいネイは軽く手を上げた。

「じゃあな……間抜け!」

 最後の言葉と同時に、城壁の敷石を蹴ると空中に身を投げ出した。

 右手で滑車に掴まり、左腕でルーナを抱え、見る々内に城壁から遠のいていく。

 ファムートはただ見送ることしか出来ず、悔しさにこめかみをヒクつかせていた。

 そのファムートの視線が、ネイからアシムへと移動する。

 それを受け、アシムは人差し指を立ててファムートを指差した。

 そして、その手をゆっくりと自分に向け、今度は親指で首を切るポーズをとる。

 死の宣告だ。

 それを見せるとアシムは口許に笑みを浮かべ、踵を返してそのまま振り返りもせずに走り去った。

「ぐうぅ……ちくしょうっ、ちくしょうっ! 舐めやがってあの野郎!」

 ファムートは怒りの声を上げると、クロスボウを城壁下に蹴り捨てた。 

 

 

 

 馬車の荷台にまで伸びたロープが、残り少なくなっていく。

「くっ! 頭を下げてろ!」

 そう叫んだのと同時にルーナの腕に力が入り、ネイの胸に顔をうずめてくる。

 ネイは滑車から手を離してルーナの頭を押さえると、その勢いのまま二人の体は荷台の中へと突っ込んでいった。

 激しい音と共に、ルーナを抱えたまま荷台を転がっていく。

「ぐえ!」

 荷台の中に立て掛けてあった厚手の布にぶつかり、ネイの口から息の詰まった声が上がる。

 そして、敷き詰めてあったわらの上に、二人は頭を下にして状態でドサリと落ちた。

「う〜ん……」

 苦しそうに呻いたネイの顔を、凶悪な顔と毛だらけの小さな顔が心配そうに覗き込む。

「ネイ……ダイジョウブ?」

「キキッ?」

「う〜ん……」

 まだ苦しそうにしながら、自分の体の上からルーナを押し退けた。

 ルーナは無事のようだ。

「ルーナ……オカエリ」

「キキッキ!」

 一人と一匹は、すでにネイのことはそっちのけでルーナを歓迎する。

「上手くいったわね!」

 セティが、運転席から荷台に頭を突っ込み笑顔を見せた。

「へえ〜、このがルーナ……。あたしはセティ、よろしくね」

「……」

 満面の笑顔で右手を差し出したが、その手は宙に浮いたまま握り返されることはなかった。

「……まあ、いいわ」

 セティが手を引っ込めると、今度は別の影が荷台に飛び込んでくる。

「早く出ましょう。すぐに追っ手が来ますよ」

 アシムは荷台に飛び込むなり、セティに向かって指示を出した。

「オッケー!」

 アシムの言葉でセティが顔を引っ込めると、荷馬車はゆっくり、そして徐々に速度を上げて走り始めた。

 

 

 

 後方に意識を集中するアシム。

 追っ手がまだ館から出て来ないことを確認し、一息つくアシムの顔にも笑顔が戻る。

「おかえりなさい、ルーナ」

 そう言いながらアシムはルーナの頭に優しく手を置いた。

「しかし大したものですね。本当にあっさりと脱出してみせた」

 呆れたような表情をネイに向けて笑う。

「なあに、ああいう場所は入るのが困難でも、意外に出るのは簡単なものさ」

「なるほど」

 アシムが納得がいくように頷いて見せる。

「では私は前へ行きますよ。ここに四人はちょっと窮屈ですからね」

 そう言ってユピを肩に乗せると、荷台の中を移動してセティの横へと向かった。

「……」

 アシムとユピがいなくなると荷台の中が静かになり、ただガラガラと車輪の回る音だけ響く。

 ルーナの顔を何気なく見ていたネイが不意に何かを思い出し、自分の荷物をガサゴソと探り始めた。

 そして何かを見つけると、それを手に持ってルーナに差し出す。

「これ……ありがとよ。まあまあ役に立ったぜ。冗談みたいな話だが、実際これで命を救われた」

 ネイが差し出したのは少し血で汚れた『聖なる魔除け』だった。

「……」

「ほら、返すよ」

 そう言ってもう一度差し出すと、ルーナが俯いたまま小さく、そしてゆっくりと首を振った。

 ネイは驚いた顔でその動きを見ると、顔を伏せて小さく笑った。

「……分かったよ。じゃあ俺がもらっておく」

 そう言って再び『聖なる魔除け』を荷物に収める。

「アツイ……」

 そこで突然ビエリが呟いた。

 その言葉にネイは『聖なる魔除け』をしまう手を止めた。

「ん? 暑い? ……それもそうだな」

 三人とはいえ狭い空間の上、布で覆われていて風も入ってこない荷台。

 たしかに多少蒸れる感じがする。

「よしビエリ、この布を全部取っちまおうぜ」

 そう言うと、二人で荷台を覆っている布を外し始めた。

「ちょ、ちょっと何してるの?」

 馬を操っていたセティが、チラチラと振り返りながら口を尖らせる。

「風が入って来なくて暑いんだよ」

「まったくもぉ〜……あ、ちょっと見て! 陽が昇るわよ」

 セティが指差した方向を見ると、白み始めた空に朱の光が広がり始めている。

 ネイはその光景に目を細めるとルーナをそっと振り返った。

 少しクセのある銀髪が、風で心地良さそうに揺れながらキラキラと輝いている。

「初めて会ったときと同じだな……」

 そう呟き、小さく笑うと再び前を見る。

 次第に明るくなっていく空は、ネイたちの旅の幕開けを知らせているかのようだった。

 五人と一匹の頬を、陽の光が優しく照らし始める……

 

 

 

 つづく

 

 


 ランキグ投票をクリックしてくれた二名の、ありがとう!

 そう、あなたですよ、貴方! そこの貴方!

 本当に感謝しています!(7/20)

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