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1章   罪人の地

 バルト大陸。

 四方を巨大な渦の巻く死の海に囲まれ断絶された大陸。

 約千年ほど前、一人の者が大陸を統べる。

 しかし現在、大陸は七つの境界に分けられ争いを繰り返す。

 

 学ばぬ者。

 

 繰り返す者。

 

 罪深き者が住まう大陸。

 

 

 

「人の商品に何しやがるっ!」

「うるせえ! これは俺のだっ!」

 陽が沈みかけ、怒号が飛び交う通り。

 その通りの左右にはいくつものバラックが立ち並んでいる。

 ここは街の入り口から入って正面にある露店商通りだ。

 人相の悪い男たち。そしてそれを取り巻く肌を露出した派手な格好の女たち。

 そういった人間でごった返し、至るところに揉めている者たちがいる。

 その通りを片手に袋を持ち、涼しい顔で歩いている男に一人の年老いた商人が声をかけた。

「おい、ネイ! 良い物が入った。覗いていかんか?」

 そう言うとニヤリと笑い黄ばんだ歯が姿を見せる。

 ネイと呼ばれた男は足を止め、首だけを捻って老人に顔を向けた。

 年齢は二十代前半だろうか。中背で多少細身の身体。

 そして黒い髪を肩まで伸ばし、その髪を無造作に後ろに流している。

 年老いた老人に向けた顔は褐色で、その瞳の色は深い蒼だった。

 ネイと呼ばれた男は、片眉を上げてポリポリと右手で目尻の辺りを掻いた。

 その右目尻の下には、刀傷のような痕が見える。

「じいさん。あんたの『良い物』で良かったことは無いだろ?」

 苦笑しながらそう言うと、年老いた商人はケッと喉を鳴らしながら顔をしかめた。

「じゃあな」

 ネイはそう言って右手を軽く上げ、片目を瞑って見せるとその場を颯爽と去っていく。

 通りを行く途中に何度か女たちに声をかけられるが、立ち止まることなく軽く受け流して喧騒的な通りを抜けた。

 すると、さっきまでとは打って変わって陰気な路地裏に出る。

 さらにそこから路なりに進み、突き当たりまで行くとそこには扉が一つあった。

 扉の上には悪趣味な装飾をした看板が掛かっており、そこには『ようこそ楽園へ』と書かれてある。

 その看板を見上げ、小さく息を吐いてから扉を開けた。

 中に入るといくつかの丸テーブルとカウンターがあり、その奥にはお世辞にも上等とは言えない酒が並べてある。

 先客は丸テーブルに座った三人組だけだ。

 ネイがカウンターに座ると、体格が良い髭を生やした店主が近付いてくる。

 すでにその手には酒の入ったグラスを持ち、ネイの前に来るとそのグラスを置いた。

「おい……まだ頼んでないぜ」

 ネイがそう言うと店主は小さく鼻を鳴らす。

「注文なんざ聞いても聞かなくても同じだ。どうせそれしか置いてないんだ」

「なるほど……悩まなくて済むよ」

 ネイはそう言うと肩をすくめながら小さく微笑わらった

「で、どうだったんだ?」

 店主がカウターに両手をつき、顔を寄せて小声で訊いてくる。

 それに対してネイは何も答えず、カウンターに手荷物の袋を黙って置いた。

 店主はそれを受け取るとカウンターの奥へ隠し、中身を確認すると感心したような表情で口笛を吹く真似をした。

「さすがは鷹の眼ホーク・アイだ」

 店主はニヤニヤと笑って上機嫌だ。

 店主の確認が終わるのを見届けると、ネイはグラスの酒を一気に飲み干し立ち上がった。

「おい、なんだ。もう行くのか? もう少しゆっくりしていけ」

 その店主の言葉を聞いて、ネイはジロリと横目で店主を睨みつける。

「気持ち悪いな。何か裏がありそうだ」

 ネイが横目で不信な視線を向けると、店主は鼻の下の髭を歪めながら笑みを浮かべた。

「実はもう一つ仕事がある。Sランクの仕事だ。受けなきゃホーク・アイの名が泣くぜ」

「……」

 しばらく黙って店主の目を見据えていたが、タメ息をついて再び腰を降ろした。

「そうこなくっちゃな」

 店主はそう言って空になったグラスにもう一度酒を注いだ。

「次の仕事っていうのは……」

 

 

 

 この街――いや、この国には多数の『組織ギルド』がある。

 それも犯罪系のものばかりだ。

 盗賊ギルドに始り、極めつけは暗殺組織アサシンギルド

 なぜそんなギルドがこの国には多く存在するか。

 それは元々のこの地の存在意味に起因する。

 バルト大陸の北に位置するこの国は、その昔『流刑地』とされていた。

 重罪を犯した者が送られる地だ。

 平地ばかりで川も少なく、地は荒れ果て農作物も育たちづらい。

 そのため、とても人など住める環境ではなかった。

 しかし人間の適応能力とは大したもので、そんな環境でも人が増えれば生活する術を自然に身に付ける。

 それでも当初はあくまでも流刑地であり、国ではなかった。

 そこへ約二百年ほど前、最初のギルドが誕生する。

 当時のギルドは仕事内容によって何種にも分かれていることはなく、汚い仕事を一手に担っていた。

 おかしな話だが、当時のギルドの最も重点をおいたことは『信用』だ。

 仕事に失敗した者には死を。

 裏切り者には死を。

 口を割る者には死を。

 そうやって『絶対の秘密』を徹底した。

 それにより、信用を勝ち取ったギルドを各国は重宝した。

 自分たちの手を汚すことなく、また自分たちの名が上がることもなくルールを破ることが出来る。

 さぞや甘美の味がしたことだろう。

 しかし、その甘い誘惑には『弱み』という代償が付きまとうことを、まだ各国は気付いてはいなかった。

 そうしてギルド誕生から五十年ほど過ぎた頃には、ギルドは大半の国の『弱み』を事実上握ることになる。

 そうしてそれを各国への無言の圧力に利用し、流刑地を一つの国家として独立させることに了承させ、見事にそれを成し遂げたのだ。

 そうして流刑地は『ベルシア』という名の国となった。

 国としての独立を勝ち取った現在も『信用』と『絶対の秘密』、この二つは固く守られている。

 そして、各地域にいる『仲介人』がギルドの本部から仕事受け、その仕事の引き受け手を探す。

 引き受け手は仕事を受けるまで内容を知ることは無い。

 そこで考えられたのがランク制だ。

 A〜Dまでのランクがあり、Aに近いほど難しい仕事となる。そしてSは特例の最上級だ。

 受け手はそれを事前に聞き、引き受けるかどうかの判断材料にする。

 そうして仕事を受けた者は、だいたい三日程度が過ぎてから内容を聞かされるのだ。

 仕事を引き受けてから内容を聞くまでに時間が多少かかるのは、同じ仕事を同時に複数人が受けてしまわぬようにギルドに確認を取るためだ。

 これが出来る限り内容を漏らさないように考えられたやり方だ。

 そして受け手は仕事を無事終わらせると、ギルドの取り分を引いた報酬を受け取る。

 

 

 

 今回、店主が持ってきた仕事は盗賊ギルドのランクS。

 盗賊ギルドでランクSの仕事など珍しい。

 しかし、反対にそのことがネイの好奇心を刺激したのも事実だ。

 ネイがベットの上に仰向けになると、その拍子に埃が宙に舞う。

 ここはネイがいつも寝床に利用する寂れた宿の二階。

 そこで酒場での店主の言葉を思い返していた。

 酒場の店主はこの地域の『仲介人』だ。

 仕事を引き受けた日から三日後になる今日、店主から聞いたのは『金のふくろうに会え』という言葉だった。

 ただそれだけだ。

 仕事の内容は仲介人である店主すらも詳しく聞かされないという。

 もちろん今までそんなことは一度としてない。

「……」

 釈然としないものが胸に広がり、危険を知らせる警報がガンガンと頭の隅で鳴り響く。

 本来こう感じたときは出来る限り避けるべきだが、しかし……

 すでに仕事を受け、多少なりとも情報を受け取ってしまった。

 ベッドから起き上がると出窓を開けた。

 生暖かい風が肌にまとわりついてくる。

「金の梟か……なかなか面白そうじゃないか」

 そう口に出して言うと、手元に置いてあった果物ナイフを外に向かって投げつける。

 ナイフは空気を裂く音を上げ、フラつく足取りで外を歩いていた男の酒瓶に命中した。

 男は割れた酒瓶を持ち上げ目を白黒させる。

 しばらくするとやっと状況を飲み込めたのか、ネイに向かって手足をバタつかせて怒鳴り散らしてきた。

 ネイはその男に向かって笑顔で手を上げて見せた。

 

 運命は静かに動き出す……

 

 

 

 つづく

 

 


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