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111章 死者の顔

 弾む息を強引に飲み込み、喧騒を背に通路を駆け抜ける。

 地上へと続く通路だが、その薄暗さは他と大差はない。本当に地上へと向かっているのか、という疑念が頭をもたげる。

 背後の喧騒が遠のいていくと、代わって前方から人の争う声が聞こえて来た。先行させたビエリたちが帝国兵に出くわしたようだ。

「くそっ」

 ネイは短く吐き捨てると、足を速めながら腰の袋から吹き矢を取り出した。

 暗い通路の先、路が右に折れているのが見える。どうやら争う声はそのすぐ先から聞こえてくるらしい。

 案の定、右に折れたと同時に視界に飛び込んで来たのは、兵士と組み合いながら床を転がるビエリの姿だった。さらに、その近くではもう一人の兵士を必死で床に押さえつける少年たちの姿。

 少年たちが押さえつけた兵士の頭上、奪い取ったのであろう槍を振り上げるリムピッドの背中が見えた。

 

 

 

 少年たちが兵士に圧しかかり、手から落ちた槍をリムピッドが奪い取る。槍を手にしたリムピッドの瞳に激しい憎悪の炎が浮かんだ。その気配に、ユアが息を飲む。

「止めなさいっ!」

 ユアが制止しようと叫ぶが、その声はリムピッドの憎悪を消し去る効ことは出来なかった。

「あんたたちが来なければ……。あんたたちなんか……」

 リムピッドの震えた声に兵士は頬を引きつらせ、押さえつける少年たちから逃れようと必死の抵抗を試みる。

「リム、早くしろ!」

 暴れる兵士を必死に押さえつけながら、少年たちが口々にリムピッドを急き立てる。少年たちの声が

波のように押しよせ、リムピッドの中にある自制心という堤防を決壊させる。

「あんたたちなんかっ!」

 声を張り、震える両手で手にした槍を頭上に振り上げる。燭台の灯かりに照らされて鈍く光る穂先は、愕然とする兵士に冷笑を向けているようだった。

 喉許を狙って振り下ろされる槍。ユアとホーリィはきつく目を閉じ、同時に顔を背ける。

 ヒッ、と兵士の口から漏れた短い悲鳴。そのか細い声を最期に静寂が訪れた。

 ――静寂に耐えかねたかのようにユアとホーリィは恐るおそる目を開け、カラクリ仕掛けの人形さながらに、ぎこちない動きでゆっくりと顔を上げた。

 ユアの脳裏に血に染まった兵士と、それを見下ろすリムピッドの姿が一瞬映る――が、その光景は霧散し、槍を振り上げたままでいるリムピッドに姿を変えた。

 リムピッドが振りかざした槍。その柄を背後から掴んで止めている人物がいる。

「ネイ!」

 ユアが名を呼ぶと、リムピッドが振り返って背後に立ったネイを仰ぎ見る。

 ネイは槍を掴みながら、自身の手にしていたもう一本の槍を小脇に挟むと、空いた手で吹き矢を構えて兵士に吹きつけた。兵士が短いうめき声を漏らして動きを止めると、小脇に挟んだ槍をビエリに投げて渡す。

 もう一人の兵士に馬乗りになっていたビエリは槍を受け取ると、槍の柄で相手の喉を押さえつけて呼吸を止めにかかった。兵士はバタバタと足を暴れさせたが、ビエリの腕力に敵うわけもなく、その抵抗はすぐに止んだ。失神したのだ。

 二人の兵士が完全に動きを止めると、ネイが冷やかにリムピッドを見下ろし、その視線を受け止めたリムピッドはかたきを見るように睨み返した。

 ――どうして止めた? そういった不満がリムピッドの視線にはっきりと表れている。

 リムピッドが苛立ったように左右に槍を振るが、それでもネイは掴んだ手を離そうとはしない。

「離してよ!」

 尚も槍を振りながら甲高い声で怒鳴ったリムピッドにネイがタメ息を漏らす。

帝国兵そいつはしばらく動けない。逃げるにはそれで充分だ」

「だってこいつらは――」

 反論しようとしたリムピッドだったが、ネイの視線に思わず口をつぐんだ。怒ったような、憐れむような、様々な気配を浮かべた複雑な視線。

 少年たちが倒れた兵士からそっと身を離し、気まずそうに顔を見合わせる。うつむきながら怒りに肩を震わせるリムピッドと、それを静かに見下ろすネイ。二人の雰囲気に、どう対処していいのかが分からなかった。

「あんたは……ネイは分かってない……」

 うつむきながらボソリと呟くと、リムピッドは再び顔を上げてネイを睨んだ。

「ネイは分かってない! 帝国兵こいつらは、色んなものを奪ったんだよ。街を焼かれて、仲間だって虫けらみたいに殺された。ネイにはその気持ちは分からない!」

 リムピッドが燃えるような眼差しを向けるが、ネイは意に介さず眉一つ動かさない。

「それがどうした」

「それがどうしたって……」

 リムピッドが言葉を詰まらせる。

「おまえの気持ちなんて分からねえが、帝国兵がどういうつらしておまえの仲間とやらを殺したのかは分かるぜ。――さっきのおまえの面だよ。それと同じ面をしてはずだ」

 ネイが放った言葉に、リムピッドが驚いたように息を飲んだ。 

「同じ、じゃない!」

「同じだよ。おまえのさっきの顔と、怯えた兵士こいつの顔。どう見ても悪者はおまえだぜ」

「違う」

「仲間がどうのこうのと、死んだヤツに理由を押し付けて自分のやることを美化するなよ」

「そんなんじゃない……」

「敵討ちだろうがやりたきゃやれよ。でもよ、怯えたヤツをることが、おまえにとっての敵討ちなのか?」

「……」

 リムピッドの瞳に宿った炎は急速に火力を失い、力無くうな垂れて肩を落とした。そのとき不意に、ネイの耳元で低くささやくような嘲笑が聞こえる。

 ――おまえはどうなんだ。自分のしてることを美化してないか? 盗人なんて同じクズだろ。

 よく聞き覚えのある声。ネイは苦痛そうに目を閉じると、その声を振り払うように頭を振って再びリムピッドを見下ろした。

 リムピッドはうつむき、ただ何かにジッと耐えているようにも見える。その姿は、怒りに身を焦がしていたレジスタンスの姿ではなく、嵐の過ぎ去りをただ震えて待つ少女のようだった。

「――帝国兵こいつはしばらく動けない。逃げるにはそれで充分だろ?」

 静かに言い聞かせるように声をかけると、今度はリムピッドも逆らうことはせず、槍からそっと手を離して小さく首を縦に振る。

 ネイはうな垂れるリムピッドを見下ろしたまま小さく吐息を漏らすと、取り上げた槍を戸惑う少年たちの一人に投げて渡した。

 少年たちは気まずそうにうつむき、所在無さげに目を泳がせる。まるで叱られた子供のような態度だ。

 上目遣いに様子を覗ってくる少年たちの姿にネイは一瞥いちべつをくれると、そのまま何も言わずにビエリに歩み寄った。

 ビエリの足許、失神した帝国兵に向かって吹き矢を放つ。 

「一応、な。目を覚まされちゃたまらない」

「アウ」

 ビエリが満面の笑みを浮かべながらコクリと頷く。

 ネイとリムピッド、二人を心配げに見ていたユアが胸を撫で下ろすと、その隣で壁に背を預けていたラビが笑い飛ばす。

「帝国兵なんざ、どうなろうが知ったことじゃねえだろうに」

 言葉の荒さに反して声音は弱々しく、その声は隣に立ったユアにしか届かなかった。

「そうじゃない。そうじゃないわ」

「ああん?」

 ラビが片眉を上げてジロリと見ると、ユアは寂しげに笑い返した。

「レイが言っていたの。目を閉じると、殺めた人たちの顔が浮かぶって」

「……そんなもんかねえ。って、あいつって、そんなに人を殺してんの?」

 ラビが寝かされているレイルズを恐ろしげに見ると、ユアはクスリと笑いネイに視線を戻した。

 少年たちに指示を出しているネイ。その後ろ姿にそっと微笑みかける。 

 

 

 

 明け方近くの寒々とした風に吹かれ、二人の帝国兵がブルリと身を震わせる。それを真似るように、物陰に身を潜めた影も身を震わせた。

「まったく、何をやってんだよ」

 苛立った少年の声。少年は鼻の下を擦りながら毒づき、再び二人の帝国兵に視線を落とした。

 少年が身を潜めた場所は、ある建物の屋根の上、煙突の陰だ。

 少年が身を潜めた屋根から多少距離を置き、屋根と同程度の高さを持った壁がそびえる。収容所と、外の世界を区切る壁だ。その壁を挟み、二人の帝国兵と少年が同じように身を震わせた、というわけだ。

 少年が身を置くのが外の世界。二人の帝国兵が立つのが収容所の敷地内になる。

 収容所の敷地内には焚き火台が幾つか置かれ、その上で燃え盛る炎は周囲を明るく照らし出す。敷地内の様子を探るには充分な灯かりだったが、少年の位置から全てが見渡せるわけではない。むしろ死角の方が多い。

 それでも、少年がその場所に身を隠すことにしたのは二つの理由があった。

 一つは、先ほどの二人の帝国兵――正確には、その二人の背後にある地下への入り口――が見えるからだ。

 そしてもう一つ。それは、敷地内に建った見張り台が、ちょうど少年の目の前に位置するためだった――

「どうするんだよ。夜が明けちまうぞ」

 少年が不安げに天を見上げ、再び顔を戻したときに『それ』は現われた。

 地下への出入りを妨げていた鉄格子が突然吹き飛び、それと同時にいのししの突進を模倣したような大きな影が外へと飛び出してきた。

 大きな影が動きを止めずに面食らっている二人の兵士に体当たりを浴びせると、兵士の身体は鉄格子と同様に後方へと吹き飛んだ。

 荒々しく現われた大きな影とは対照的に、周囲の兵士は金縛りにあったように動くことが出来ないでい。奇妙な時間の空白――わずかな間を置き、そこかしこで怒鳴り声が上がる。

「どうして……」

 敷地内の光景を目にし、呆然とする少年の口から疑問の声が漏れた。しかし、立ち尽くしている時間など無いことも知っている。

 少年はすぐに自分の役割を思い出し、傍らに置かれたクロスボウを手に取った。クロスボウにはすでに矢が装備されており、発射のときを今か今かと待っている。

 少年は片膝をついてクロスボウを構えると、呼吸を止め、片目を閉じて見張り台に矢先を向けた。見張り台には、釣鐘つりがねを打ち鳴らそうとしている一人の兵士の姿。

 少年が充分に狙いを定めて引鉄を引くと、張られた弦がその緊張を解き、待ちわびた、と言わんばかりに飛び出した矢が夜空を切り裂いた。

 放たれた矢は一直線に見張り台の兵士へと向かう――が、狙いどおりにはいかない。矢は兵士の鼻先をかすめると、そのまま闇の中へと溶けて消えた。

 少年の口から思わず舌打ちが漏れる。

 見張り台の兵士は動きを止めると怪訝そうに眉を寄せ、顔をゆっくりと少年に向けてくる。それと同時に、少年の姿を捉えた目が大きく開かれた。

 ――見つかった。

 少年は、急ぎながらも慌てぬように第二の矢をセットし再び構えを取った。

 見張り台の上では身を隠す場所もない。兵士は顔を青くさせると慌てた様子で少年に背を向け、鐘を鳴らしもせずに見張り台から身を投げた。

 兵士は手足をバタつかせながら悲鳴混じりに落下していく。『見張り台』というくらいなのだから、当然ある程度の高さは確保してある。装備で重さが増している状態で飛び下り、それで無事に済むとは思えない。しかし、飛び下りた兵士にしてみれば、矢で射られるよりは、といったところだろう。

 見張り台が無人になると、少年は唇をすぼめて息を吐き出しながら肩の力を抜いた。

 顔には標的を失った無念さよりも、安堵の色が浮かんでいる。

「よし」

 狙いとは多少違う形になったが、少年は納得したようにあごを引き、次の行動へと移った……

 

 

 

 舞い上がる白煙。ネイは煙に巻き込まれぬように身を低くし、わずかに出来た煙の隙間から見張り台を確認した。

 見張り台の屋根では炎が揺れている。間もなく見張り台全体が炎に包まれるのは容易に判断出来る。

 ――上手くやったみたいだな。鐘は鳴らされなかったはずだ。

 満足げに口の端を上げると、すぐに背後の様子を窺う。

 ラビに肩を貸したユアとホーリィを先頭に、レイルズを背負ったビエリ、そしてリムピッドと少年たちが続く。

「急げ、弓で狙い撃ちにされるぞ」

 ネイが急かすと、後に続く者たちは軽く咳き込みながら首を縦に振って見せる。

 次にネイは前方に目を向けて門までの距離を目測した。

 手持ちの『煙玉』は残り一つ。舞い上がった白煙も風が押し流し、そう長くは姿を隠してはくれない。今は煙の中に帝国兵もいるため矢を放ってないでいるが、その煙が消えれば狙い撃ちにされるのは明らかだった。しかし、前進するより道はない。

 ネイは最後の一つとなった煙玉を取り出すと、前方に広がる煙の壁向け、さらに奥に飛ぶように放り投げた。

 煙で出来た壁の向こう側、慌てふためく兵士の声が上がり、その直後、玉が煙を吐き出す音が聞こえた。

 ネイは片腕で口元を覆いながら思い切り息を吸い込むと、腰に差したソードブレイカーを引き抜き、息を止めたまま前方に広がる白煙の中へと飛び込んだ。

 目が沁みるのを必死に堪えながら顔を巡らせ、咳き込んで動けぬ兵士の姿を捕捉する。素早く背後に忍びより、首筋にソードブレイカーの柄を叩き込む。呼吸を止めたまま、その要領で一人、二人と意識を奪っていく。

 後に続く者たちの邪魔になりそうな位置にいる兵士を倒し終えると、地に顔をつけるほどに身を低くし、貪るように空気を吸い込んだ。

 目がひどく沁みて、涙が勝手に流れ出る。

「くそ、こいつは効きすぎる。改善の余地有りってところだ」

 その場にいない製作者である女学者に愚痴をこぼし、涙で濡れた目を正面に向けた。

 先ほど門までの距離を目測したかぎり、今の兵士が門の前で待ち構えた一団だったはずだ。ネイは身を起こすと自分の感覚を信じ、再び煙の中を走り出した。

 白いもやのように広がった煙の壁が、徐々にその濃度を薄めていく。

 ――頼むぜ。

 更なる兵士の一団ではなく、門が在ることを祈りながら煙の壁を突き抜けると、ネイは慌てて踏み止まった。

 煙の壁を越えた先に在ったのは兵士の一団――ではなく、四角の網目になった分厚い鉄格子だった。

 その鉄格子が普段から門扉もんぴとして使用されているわけではなく、囚人の脱走など、緊急時に使用される物だ。通常の門扉では閉じるのに時間を要するため、緊急時は上から『落とすだけ』の形となっている鉄格子が使用される――

 ネイはゆっくりと鉄格子に近づき、そっと手を触れた。

 四角の網目は、その一つひとつが大人の頭が通る程度の大きさがある。厚みになると、指先から手首ほどもありそうだ。再び上に持ち上げるには、大人が二十人程度は必要になるのではないか、そう思わせる。

 しかし、ネイは悲観するのではなく、平然とした様子で鉄格子を眺めていた。

 この『臨時の門扉』の存在は、事前にエマとレイルズから聞かされていた。これだけ派手に脱出を試みれば、臨時の門扉が使用されるのは当然だ。ただ、あわよくばその前に脱出を、とも思ったが、そうそう上手くはいかない。

 ネイは気を取り直し、鉄格子の先に広がる『外』の様子を窺った。

 兵士の姿は見えない。それは、兵士の存在が無い、ということではなく、存在していても見えなかったのだ。なぜなら、収容所の敷地と同じように外にも白煙が広がっていたからだ。むしろ、外の方がその濃度は濃い。

 ――早く来い。

 祈るような思いでいると、外に広がる白煙の中に人影が薄っすらと浮かびあがる。

 ネイが目を凝らしていると、その影は次第にはっきりと輪郭を表し、ついには鉄格子を挟んでちょうど反対側、ネイの正面まで歩み寄って来た。

 小柄な身体――少年だ。少年は白煙を吸い来ぬように、顔の下半分に幾重にも布を巻きつけている。

「上手くやったみたいだな。よくやった」

 ネイが軽く労いながら笑って見せると、少年は口許を覆った布をズリ下ろし

「こんなに派手に出てくるなんて、何を考えてんだよ!」

 開口一番で文句を吐き出した。

 ネイは鉄格子から顔を離すと嫌そうに顔を歪め、労いの言葉をかけてしまった失態を激しく悔やんだ。

「こんな予定じゃなかったんだよ。文句なら自分の妹にでも言え」

 ネイが憮然とした表情を浮かべながら背後に親指を向けると、広がる白煙の中から、ラビに肩を貸すユアとホーリィが姿を見せた。その後にはレイルズを背負ったビエリが姿を見せ、涙目になりながら激しく咳き込む。しかし、その後が続かない。

 鉄格子の向こう側で少年が不安げな表情を浮かべ、落ち着きなく頭を動かしながら様子を探る。

 後の者が現われない。その不安に少年が口を開きかけたとき、リムピッドが煙の中からようやく姿を見せた。

「リム!」

 少年が安堵と歓喜の入り混じったような声を上で呼びかけると、リムピッドが足を止めて伏せていた顔を上げる。

「あ、お兄ちゃん」

 黒く汚れたリムピッドの顔に笑顔を浮かぶ。だが、それだけではない。リムピッドの片手が煙の中に伸び、誰かの手を掴んでいることに気付く。

 少年が小首を傾げていると、共に脱出してきたレジスタンスの仲間たちが煙の中から続々と姿を見せた。煙の中で離れぬように、それぞれが手を繋ぎ合っている。それを見た少年は言葉を失い、目に薄っすらと涙を浮かべた。

 格子の外にいる少年の姿に気付き、レジスタンスの一人が声を上げる。

「トゥルーじゃないか! おまえも来てくれたの」

 鉄格子の向こう側に佇む少年――トゥルーは目を潤ませネイを見上げた。

「ネイ、皆も一緒に連れて来てくれたんだな……」

 トゥルーが声を震わせると、ネイは嫌な物を見たかのように顔を背けた。

「仕方なくだよ、し・か・た・な・く。――そんなことより、手持ちの『玉』をよこせ」

 ネイが格子の網目から手を出すと、トゥルーが涙を拭いながら肩にかけていた袋を差し出す。

 ネイは袋を受け取るとリムピッドに投げて渡し、煙玉を四方にばらまくように指示を出した。その直後、リムピッドの背後に広がる白煙に二つの人影が浮かぶ。

「後ろだ!」

 ネイの声とほぼ同時に二人の兵士が白煙から飛び出し、背を向けたままでいるリムピッドたちに襲いかかる。

 ネイが動こうとするが、とても間に合わない。ネイよりも近かい位置にいたビエリも、レイルズを背負ったままでは振り返るのがやっとだった。

 兵士の存在に遅れて気付いたユアとリムピッドたちの悲鳴。その声に呼応するように、ビエリに背負われ、ぐったりとしていたレイルズが突如として頭を持ち上げた――

 レイルズはビエリの両肩に手をかけ、そのまま身を浮かすとビエリの肩を踏み台にして宙を舞う。怪我の影響を感じさせぬ跳躍。レイルズは少年たちの頭上を飛び越え、空中で身をよじりながら右へ左へと蹴りを放った。

 首許に蹴りを喰らい、喉を詰まらせたような短い声を漏らして倒れる二人の兵士。片膝を突いて着地したレイルズは、唖然としたネイたちに背を向けたままで身体を揺らしながらゆっくりと立ち上がった。

 ――どっちのレイルズだ。

 ネイの頭を不安がよぎり、緊張で身体が強張る。

 誰もが驚いて動けないでいると、レイルズが肩越しに振り返った。

「何をしている。早くその鉄格子をどうにかしてもらいたいのだが」

 紛れもない『レイルズの声』に、ユアが微笑み、ネイが短い笑い声を上げた。

「レイルズ、おまえ……」

「あの針は効いたぞ。まさか私が打たれるとは思わなかった」

 そう言ってレイルズは軽く頭を振ると、わずかによろけてバランスを崩した。

「俺も文句を返してやりたいところだが、今はそれどころじゃねえ。そこで兵士を食い止めてろ。――出来るか?」

「それは私に訊いているのか?」

 不満足な状態にも関わらず自信を見せたレイルズに、ネイが苦笑いを浮かべる。

「じゃあ任せたぜ」

「承知した」

 レイルズは背筋を伸ばすと軽く頭を振り、血に染まった白髪を背中に流した……

 

 

 

 つづく

 

 

 まず始めに、諸事情により、更新の間が半年ほど空いてしまったことをお詫びします。誠に申し訳ありません。


 更新が停止している間、評価、メッセージを送っていただいた方、大変励みになりました。ありがとうございました。

 大変遅くなってしまいましたが、少し前にまとめて返信させていただきました。ただ、メッセージに関しましては、当たり前のことですが、返信先が分かる方しか返信出来ませんでした(汗)

 尚、今回初めてメッセージというのを使ったので、もしかしたら上手く送れていないかもしれません。心当たりのある方、誠にすいません。


 次に、ランキングサイトのことですが、私は某ランキングサイトに登録していたのですが、前回の更新のときに間違えて削除を押してしまい(少し酔っ払っていたため)、登録削除になってしまいました(汗)

 その後、再登録しようかと思ったのですが、なんとなく再登録は間抜けっぽいので止めてしまいました(苦笑)

 すでに半年ほど前のことで今さらですが、そのランキングサイトの投票を押し下さったことのある全ての皆様、誠にありがとうござました。

 そこから読んでくれていた方、突然削除してしまい誠に申し訳ありません。


 もう少し書くことがあるのですが、かなり長文になってしまったので次回にし、最後にもう一つ。

 今後、今回のような長期更新がないように気を付けます(ある場合は事前に連絡いたします)。

 今回から、長期停止前と同じようなペースで更新したいと思います。

 最後にもう一度、大変申し訳ありませんでした。(09/02/23)


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