『扉』と彼女の狭間の話。
扉。
あちらとこちらを隔てるもの。繋ぐもの。管理するもの。
「あなたはどうして『扉』になったの?」
「いきなりどうしたんだ。そんなことが気になる?」
「多分、大体の人は気になると思うわ。ここに来られる人がそれどころではないだけで」
「そうかな。……どうして『扉』になったか、か。……もうよく覚えてないな」
「そんなに昔のことなの?」
「『扉』になってからは時間の感覚が曖昧だけど、多分ね。大昔って言ってもいいくらいじゃないかな」
「ふうん……そう」
「でも多分、なにか劇的なことがあったわけじゃなかったな。偶然が偶然を呼んだ、みたいな、面白みのない感じだった」
「そういうもの?」
「多分、だけどね」
そう言って微笑む顔を見ていると、彼が『扉』であることなんて忘れてしまいそうだ。
けれど彼は紛れもなく、この世界で唯一の『扉』であり、それ故に永遠に近く存在し続けることを運命づけられている。
「ところで君は、そろそろ向こう側に行く気にはなったかい」
「ううん」
「この世界はあまり君には居心地が良くないはずだけど」
「それはそうね。そろそろ命の危機を感じ始めたわ」
「だったらどうして?」
「私、それなりにこの世界が好きなの」
「それなりに?」
「それなりに。それに、私が向こう側を選んでしまったら、もうあなたに会えないでしょう?」
「まあ、そうだけど。それとこれと何の関係が?」
「私、あなたといるのが好きなの」
「――それは……ありがとう?」
「どういたしまして」
あなたが『扉』でないのだったら、私もこうまで向こう側に行くのを先延ばしにはしなかったのだけど。
思った言葉は口にしないでおいた。
永遠に近く存在しながら、その大半を他の何者とも関わらず過ごすことになる『扉』。
その存在は知っていたけれど、実際に会ってみて、なんて歪なシステムだろうと思った。
誰かを『こちら』から『あちら』へ向かわせる時にしか、人と触れ合えない存在。
だから、ギリギリまでこの世界にしがみつこうと思ったのだ。
それがたとえ自己満足でも、孤独を孤独と忘れてしまった、かなしい人間の果てのために。
お題:孤独な扉 制限時間:15分 で挑戦したもの。微妙に加筆修正済み。




