腐れ縁はヒーロー希望。
「……本気で言ってるの?」
「もちろん、本気だ」
数年来の付き合いで、こいつが冗談なんて言わないのはわかってたけど思わずそう問うてしまったのは仕方ない。それくらい、今耳にした言葉は信じ難かった。
「じゃあ、正気なの?」
「正気を疑われるようなことは言ってない」
むすっとした顔になる、今までもこれからも腐れ縁だろう友人を見る目がちょっとアレなことになったのもまた仕方ない。
「本当に? そう思ってる? ならもう一回言ってみてよさっきの」
自分でも意地が悪いと思うけれど、それだけ突拍子もないことをこいつは言ったのだ。
案の定自覚はあったのだろう、ヤツは「う……」とたじろいだ。居心地悪げにもぞもぞするのに、うっかり鼻で笑ってしまった。目前の顔が渋面になる。
一応ヤツにもプライドとか意地とかなんかそれ的なものがあったらしい。
気を取り直したのか真剣な表情になった腐れ縁が口を開く。
「……進路、『正義の味方』希望にした」
「ばかじゃないの」
おっとうっかり本音が漏れた。さすがに傷ついたような瞳を向けられて良心的なものが痛まないこともない。仕方なく付け加える。
「冷静に、客観的に、真面目に考えてだよ? 自分が『正義の味方』向きだと思ってんの?」
「……そ、れは」
なにか反論したいけれど何も言えない。そういう歯切れの悪さで途切れた先を追求するのはやめておいた。そこまでサドじゃない。
「落し物を拾って渡そうとすればスリ扱い、ぶらっと立ち寄った店で何も買わずに出ようとしたら万引きの疑いをかけられ、迷子を保護すれば誘拐犯扱い、極めつけは、ひったくりを捕まえたら暴力事件の加害者扱い。全部全部、その凶悪なツラが理由だよ? 問答無用で悪い奴にしか見えない外見だって自覚ある? ないわけないよね? それなのに『正義の味方』? どう考えても『悪役』が天職でしょ? ばかなの? 脳みそ入ってないの?」
「じ、事実だからってそこまで言うことないだろう……!」
「そこまで改めて言わないとわかんないのかなって。だってどう考えてもトチ狂ってるとしか」
私の意見に、一瞬「そうかも」みたいな顔をした泣く子も黙るむしろ気絶するレベルの凶悪ヅラに日々悩まされてる友人は、「だ、だが!!」と言い募る。
「『正義の味方』は顔出ししなくてもできるだろう? だったら俺にだってチャンスが」
「マスクとった瞬間にスパイ扱いされる展開持ってこられたい?」
「……そういうのがない世界に配属されるかもしれないじゃないか……」
「希望的観測は事前に叩き潰しとかないと」
「なんだそのありがた迷惑……!!」
「鬼! 悪魔!!」などと罵られつつ、心中でため息をつく。
ここで私が何を言っても、こいつは意志を翻さないだろう。
つまり後日消沈するこいつを慰めるのは確定なわけで。
全く仕方ないやつだな、と思うけど、懲りないこいつとの付き合いをやめるつもりもない自分も大概だろう。
とりあえず慰めの言葉だけは考えておこう、と私は説得を放棄した。
お題:希望の職業 制限時間:15分 で挑戦した代物。微妙に加筆修正済み。
凶悪ヅラとかけ離れた心根持ちの不憫属性とその腐れ縁の一幕。
『幼馴染は悪役志望』『夢を叶えるには資質も重要』と同世界の話。悪役志望の幼馴染と外見交換したら万事うまくいくだろうけど世の中はままならない。




