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物語の切れ端。  作者: 空月


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愛して殺して殺されて。


「あ、」


 朝の校門前。私と同じく登校中の彼の姿を見つけて、思わず緊張で体を硬くした。

 声をかけるかかけまいか、少しの間逡巡して、どちらでも変わりないだろうと結論付ける。

 再び口を開いて声をかけようとしたところで――彼が私に気付いた。


「……おはよう」


 なんと言うべきか迷って、一番無難で、下手するとそっけないくらいの言葉を選んだ。

 どんな挨拶をしたって同じことだとわかっているからだ。


「おはよう。今日も君の声は俺の耳を浄化してくれるほどに美しいねいつまでだって聞いていたいくらいなのだけどどうして俺と君は毎日別の家に帰ってこの学校という場でしか会えないんだろうか理由がわからないのだけど君は知っているかな知っているとしたらどうしてずっと一緒にいてくれないんだろうかそれにしても君は今日も変わらずとても可愛らしいね俺の目を潰してしまうつもりかなあまりにも可愛すぎて愛しすぎて、」


 彼は笑顔を浮かべたまままっすぐ私へ向かってくる。

 私はこのあとに起こりうることを知っていたけれど、避けるつもりはなかった。避けたらさらに面倒で、悲惨で、猟奇的なことになると知っていたからだ。


「――殺してしまいたくなる」


 いつも思うけれど、それをいうのなら「殺してしまった」の方がいい気がする。とはいえそうツッコミを入れる隙はさすがにないのだけど。文字通りの一撃必殺。即死である――私が。

 心臓への衝撃。一瞬のブラックアウト。

 感覚としては気絶に近い。一瞬で死ぬのが即死なら、一瞬で生き返るのはなんだろう。即生?

 凶器であるナイフを胸から引き抜いた私は、血まみれになった制服を見下ろして――悲しいかな、見慣れた光景でもある――ため息をついた。


「いつも言っていると思うのだけど、朝一で殺されると着替えが大変だからやめてほしい」

「着替えは用意してあるから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃない」


 と言ったものの、殺されるのを拒否しない時点でそういう問題な気もする。

 朝一で刺殺されようとバラバラ死体にされようと周囲にトラウマを刻み込むような手段で殺されようと、私は彼に殺されるのを許容してしまうだろう。というか現時点で許容している。抵抗しないほうがわりと再生が楽な殺され方になるので、特に抵抗もしない。


「お前ら朝っぱらから刺殺死体にしたりされたりすんのやめろよ。そーいうの大丈夫なやつらばっかじゃねえんだぞここ」

「でもこれ恒例になってきてるし……こういうのダメなひとはもう時間ずらすなりして対応してるんじゃないかなあ」

「そーいう問題じゃねぇよ。モラルとかマナーの問題だっての」

「クラスメイトが殺されたり殺したりしてるのをスルーしてる時点で、モラルも何もあったものじゃないと思うけど~」


 クラスメイトAが呆れたように諌める響きをもって言うのに、クラスメイトBがおっとりと答える。

 私は何も言えない。殺したり殺されたりなんて行為がよろしくないことだと理解しているからだ。

 けれど、彼にそういう判断基準はない――あるかもしれないけれどそれに全く重きを置いていないから、軽い口調で返答する。


「それについては仕方ないと諦めてもらうほかないな。なぜなら俺は彼女を愛しているからね」

「それが理由になるのはテメーだけだろ異常性癖」

「殺デレって珍しいジャンルだよねぇ」

「ジャンルとか言うな」


 彼は答えて、私はなにも答えない。それを気にせずにクラスメイトが会話するのもいつものこと。

 私は、彼の行動について何も言えない。なぜならそれは全て――私が原因だから。


 いつかの私の言葉のせいで、彼は歪んでしまった。

 歪んでしまったから、私を殺したがる。愛しているから。愛を伝えたいから。

 この生で出会ってから、私を不死にして、殺し続けるなんてことをしてしまうくらいに。


 私は覚えている。彼も覚えている。

 だからこれは、私の罰。


 彼が過去の呪縛から解放されるまで。

 彼が私を愛さなくなるまで。

 彼が私を、忘れるまで。


 私は――彼に、殺され続ける。


お題:私の罰 制限時間:15分 で挑戦したもの。

即興小説トレーニング仕様だったんですがミスで投稿されなくて記憶からサルベージしたもの。なので実質15分超えてますが初稿は15分だったので。


前世がどうのこうので愛の表現として殺す人と、その理由を知ってるから不死にされても殺されても殺されても殺されてもそれを許容するひとの話。

本当はもうちょっとコメディ寄りにするつもりだった。


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↑反応があると軽率に続きを書いたりするかも
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