それは幕引きの合図
――ああ、どうして。
それに最初に気づいたとき、ただ呆然した。
どうしてこうなってしまったのか、と。
そんな自分に彼は当たり前のように気付いて、「どうしたの?」と甘やかすように柔らかな声音で訊ねるものだから。
私はただ、何でもないと首を振るしかできなかった。
私と彼の関係は、恐らく傍目からは『仲睦まじい恋人同士』というものになるのだろう。
なるのだろう、と表したとおり、実際にはそうでないことを私は知っている。
けれど彼は私に「好きだよ」と日に一度は囁くし、過度にならない程度のスキンシップもする。愛していると言葉でなく伝わるような、そんな触れ方。
そうして私も、そんな彼に日に一度とはいかずとも、好きだと言葉にするし、同じように触れることもある。
だけれど、それは全てまやかしなのだ。
どうしてこんなことになったんだろう、と彼の居ない部屋の中で私は頭を抱える。
こんなはずじゃなかった。私と彼は、まやかしの恋人同士であるはずだった。
忘れたいと泣いた私に、じゃあ忘れさせてあげるよと微笑んだ、あの日の彼を覚えている。忘れることなどなく、鮮明に。
どうしてこうなったんだろう、ともう一度ひとりごちた。
脳裏に浮かぶのは優しい笑顔。甘やかな彼の声。期限付きの、愛。
忘れるための恋だった。
忘れたいなら忘れさせてあげると囁いた。
忘れて恋をすればいいと囁いた。
最初から、忘れるための恋だった。
忘れたらおしまいの、恋だった。
それだからこそ愛してくれた人に、この気持ちを気づかれたら、とじわじわと動揺が這い上がってくる。
それでもきっと、敏い彼は、近いうちに気付くだろう。
私が、彼を好きになってしまったことを気付くだろう。
どうすればいいの、と呟いて、私は強く頭を抱え込んだ。
お題:緩やかな動揺 制限時間:15分 で挑戦したもの。
ついでに「確かに恋だった(お題bot)」さんの『忘れるための恋だったのに』というお題の消化でもあったり。
尻切れトンボは仕様です。……仕様です。




