冷たい私と異世界のはじまり。
冷たい人間だと、言われ続けてきた。
どうにも情の薄い人間らしく、感情の起伏にも乏しかったので、事あるごとにそう言われたのも仕方なかったのだろう。
自覚は薄かったけれど、周りがそう言うのならそうなのだと思っていた。
学校で飼育されていたうさぎが死んだ時も、近所の懐っこい猫がいなくなって二度と戻ってこなかった時も、誰にでも分け隔てなく接する人気者のクラスメイトが転校した時も。
涙一つこぼさずに、それどころか悲しむ素振りすら見せなかった私に向けられたのは、非難の混じった視線と言葉だった。
でも、家族は――家族だけは、「そんなことはないよ」と、笑ってくれた。「ちょっと表に出にくいだけで、わかりにくいだけで、冷たいなんてことはないよ」と。
私にはどちらが正しいのかはわからなかった。共に過ごした時間からすれば家族が正しいようにも思えたし、絶対数としては私は冷たい人間だという評価が正しいような気もした。
でも、どちらでも何も変わらないから、どうでもよかった。そう考えることが、冷たいと言われる所以のなのかもしれないとは、思った。
――でもやっぱり、正しいのは家族以外の人間だったのだろう。
事故だった。酒気帯び運転の車に突っ込まれた、なんて、そんなありふれた事故だった。
私の誕生日。迎えに来てもらって、合流して、そのまま外食しに行く予定だった。
その道中、珍しくもない悲劇が、私の家族を襲った。それだけのことだった。
私の家族はいい人たちだった。彼らのために泣く人がたくさんいた。嘆く人もたくさんいた。
その中で、泣けない私は、異端だった。
――かなしいのか、かなしくないのかも、わからずにいた。
ふわふわして、現実味がなくて、夢なんじゃないかと、ずっと思っていた。
夢じゃないとわかっているのに、触れた温度のない体の感触を鮮明に知ってしまったのに、それでも泣けなくて。
私は、肉親の死にも涙を流さない、冷たい人間なのかと――そう、ぼんやり思ったのは覚えている。
――でもまさか、物理的にまで『冷たい』人間になるとは想像もしてなかった。
「――ほんっとうにごめん!! いや謝って済む問題じゃないんだけど! 本当ごめん! どうにかして君をちゃんと元の世界に戻すから! それまで申し訳ないけど俺の保護下に入ってくれるかな……!?」
「……故意でないのはわかりました。だから、そんなに謝ってもらわなくてもいいです。心配するような人も――いませんし」
「そんなことは! って何も知らない俺が言う事でもないけど! えっと、とにかく、あの、まずは君の体を元に戻して、それから元の世界に戻せるようにするから! そのまま帰したりもしないから!」
『誤って』私を、異世界に召喚し、その召喚の術式が『死者蘇生』の性質を帯びていたために、その術式の影響を受けた私をいわゆるアンデッド――死霊のようなものにしてしまったのだという男の人が地に頭を擦りつける勢いで謝罪してくるのに、ほぼ宥める形で返しながら、不思議な心地になる。
当人もまた死霊の一種であると告げたその人は、まるで普通のひとに見えた。『間違って』死霊状態となった私よりも――冷たいと言われ続け、ついには身も心も冷たいイキモノになってしまった私よりもよっぽど、温かみのある人間に思えた。
――これもなにかの縁なのかな、と心の中の家族に問う。人との出会いを、縁を、そこから得る物事を大事にしていた家族なら、きっとこの出会いもまた、大事な何かに変えたのだろう。
自分にそうできるのかはわからなかったけれど、このタイミングで起こった出来事に、理由を、意味を見出すくらいは――ゆるされるのではないかと。
そう、思った。
それが間違いではなかったのだとわかるのは、ずっとずっと後のことだった。
お題:冷たい私 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。
ネクロマンシー的なあれそれと絡めて、『冷たい私』がそうなったからこそ本当は冷たくなかったんだということを知る話、に続けばなるんじゃないかなーってネタです。
書きたい方向は決まってるけどいまいちうまく表せませんでした。




