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物語の切れ端。  作者: 空月


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凡人Aの非日常。




 ――間が、悪かったのだ。


 往々にして、そういう時は誰にでもあると思う。

 たまたま、夜中にアイスが食べたくなって。

 たまたま、いつもと違うコンビニに向かってみて。

 たまたま、帰りにその辺の路地をちらっと覗いた。

 それだけだった。

 それだけだったんだけど。



「あっちゃー。見られちゃった」


 にこり、と邪気のない笑顔で、茶目っ気たっぷりの口調で、その人は呟いた。

 『その人』とは、つまり、私が覗いた路地にただ一人立っていた人物で――。


「うーん、どうしようかな。仕事以外でやっちゃうのは自制が効かなくなるからやめときたいんだけどなー」


 黒い髪、黒い瞳、ついでに服も黒尽くめ。

 夜の闇に溶け込むようなその人は、手にしたものを弄びながら、私を見てにこりと笑った。

 路地から足を一歩踏み出した、その手の中で、銀色が煌めいた。


「……ええと、どっきり?」

「ブッブー。不正解」

「映画の撮影?」

「残念だけど違うよ」

「ドラマの、」

「違いまーす」


 くすくすと、その人は笑う。整った顔だな、と頭の片隅で思う。

 ……そんな場合じゃないんだけど。


「じゃあ、幻という線で」

「それならこれ、触ってみる?」

「お断りします」


 手にされた銀色の――いわゆるサバイバルナイフで指し示された先、地面に伏せる人影を見て、即座に首を振る。

 顔は見えないけれど、その背にある大きな傷は、否応なく目に入る。――明らかに、即死だろう、これは。


「ええと、帰っていいですかね。アイス溶けるし」

「帰すと思う?」

「善良……じゃないかもしれないけど、平凡な市民Aなので何もなかったことにして日々を過ごしたいんです」

「平凡を自称するなら、この光景を見て悲鳴の一つでもあげるべきだと思うよ?」

「人間って、自分の理解が及ばない場面に遭遇すると、正常な判断ができなくなるんだそうで」

「だから? 見逃せって?」

「そんな不穏当な感じじゃなく。何もなかったということでひとつ」


 自分が何を口走っているのか、正直よくわかってない。とりあえず帰りたい。アイス食べたい。


 けれど、現実は、まあそう上手くはいかないものだ。


「ふうん。……そうだな、なんか面白そうだし、――じゃあ、君の家に遊びに行っていい?」

「…………。は?」

「殺しちゃうのは俺もできればやめときたいんだよね。だから、ちょっと様子見? 一応上に判断仰いで、それから君をどうするか決めてあげるよ」

「……拒否権は?」

「あると思う?」

「……デスヨネー」

 

 そんな、日常に差し込まれた非日常的やりとりが――私と、夜の名を持つその人の、奇妙な共同生活の始まりだった。


お題:夜と凡人 制限時間:15分 で挑戦したもの。若干加筆修正済み。

日常に非日常が差し込まれて、非日常が日常になっていく話が好きです。

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↑反応があると軽率に続きを書いたりするかも
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