【派生番外】異世界人な彼女について。
『異世界人な私と儚げ遊女サマ。』の遊女視点……にしようとして何かズレたもの。
【特殊(?)用語】
楼=遊郭
倭伽=若衆(用心棒みたいなもの)
うちの楼には『異世界人』がいる。
どこからどう見てもそこらにいそうな平凡な少女だが、本人曰くの異世界人、そしてうちの信頼厚い倭伽曰く『何もない場所から唐突に落ちてきた少女』である。
異世界人だという本人の主張を丸ごと信じたわけじゃあないが、かと言ってそれを完全に否定することもできず、結果『暫定異世界人』としてとりあえず楼で引き取ってみた、という顛末があったりする。
少女は随分と古めかしい――というか完全なる古語を話すが、本人にはそのつもりはないらしい。幸い、うちの楼は楼の雰囲気作りで全員古語を混ぜた喋りをするので意思疎通はできた。
異様に流暢な古語を操るわりに本人には自覚がない上に聞き取りは方言だろうと異国語だろうと可能だったり、楼独特の決め事はともかく子供でも知っているような常識を知らなかったり、彼女の語る世界の話が出まかせや妄想で片付けるにはあまりに壮大だったり――いろいろと理由はあるが、ともかく楼は彼女の主張をひとまずは信じて、衣食住を与えることにした。
『売り物』にする話が出たことはある。少女自身には他に選択肢などなく、楼にとっては気まぐれで引き取っただけの話だ。どちらだって問題はなかったし、少女も薄々この楼がどういうものかを察していた。だから、その覚悟もしていたらしかった。
それを止めたのは、自分と、そして彼女と最初に接触した倭伽だった。
「あれは、多分、大事に大事に育てられてきたんだろう」
自分の幼馴染たる倭伽は、彼女に亡くした妹を重ねているようだった。楼で生まれ、客をとり始めてそれほど経たずに死んでしまった妹を。大事に大事に育てたかっただろう妹を。
彼女はとても平和な、恵まれた場所で育ったらしい。それを本人も自覚していたし、この世界が彼女にとって『平和ではない』世界だということもわかっていたようだった。
自分は別に、肉親を重ねたわけでも、同情したわけでもなかった。ただ、なんとなく、それじゃあ面白くなさそうだと思った。それだけだった。
「……それだけだったはず、なんだけどなぁ」
独りごちる。
彼女は決して馬鹿ではなかった。多方面に対して鈍いところはあれど、己の置かれた立場については理解していたようだったし、余計なことには首を突っ込まないだけの判断力はあった。
それをわかっていて、戻れないところまで踏み込ませたのは自分だった。
面白そうだと思ったから? ――否定はしない。
でも、きっと、自分はただ。
彼女のことが気に入った――それだけ、だったのだろう。
本人曰く「すごく混乱してたよー?」な時でさえどこかのんびりとしていて、自分の置かれた状況も制約も諾々と飲み込んで、けれど揺らがない。
男女問わずに効くはずの自分の呪いじみた魅了が何の影響も与えなかったから、異世界人だという主張は信じることにした。
それが嘘でも本当でも、どちらでも構わない。嘘であればいいとは、少しだけ思うけれど。
(だって、本当だったら、)
彼女はよく笑う。この楼の極秘事項を知った――実際には自分が知るように仕向けたのだが――ことにより、この楼から出られなくなっても、それまでと変わりなく笑う。
(あの子は、いつか)
彼女の世界、彼女が慈しまれて育った世界、その愛された『今まで』を礎に、――変わらない笑みを浮かべる。
(――かえって、しまうじゃないか)
それを愛おしいと思うと同時、苛立たしいと感じるその理由がなんなのかは。
せっかく得た『親友』の立ち位置にすら満足できなくなったら考えよう、とうっそりと笑んだ。
本編より長いとはこれ如何に。
書き始めではこんなヤンデレみたいな香りを醸し出す予定ではなかったのにどうしてこうなった。
実は軟禁状態は着々と囲われた結果だったんですよっていう……。




