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物語の切れ端。  作者: 空月


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死にぞこないと『理想郷』




 私はあの日、死にぞこなった。

 死ぬはずだったし、それを受け入れていた。だけれど、死にぞこなった。


 そうして、今、ここにいる。




「気分はどう?」



 訊いてくるのは胡散臭いキラキラした笑みを浮かべた美形だ。



「最悪」



 即答すれば、「元気そうでなにより」なんて皮肉ともつかない台詞を返される。この男が私を訪ねて来るときにはお決まりになりつつあるやりとりだ。



「損失していた足の方は再生が終わったみたいだね。他は、胴体の穴がもう少しで塞がるところだとか。経過は順調、か」


「おかげさまで」



 声音に皮肉をたっぷり塗り込めてやったものの、あっちはちっとも気にしちゃいないようだった。いつものことではある。



「君は大事な手駒だからね。早く万全な状態になってもらわないと」



 ……そんな、人を人とも思ってなさそうな台詞を悪意なく心から言うからタチが悪い。



「だからじっとしてる」


「うん、聞いているよ。君はとても模範的な患者だってね」



 ニコニコと笑いながら頷く。やっぱり胡散臭く見えるけれども。



「……で? そっちの計画はどうなってる」


「気になるかい?」


「あんた曰くの『手駒』で、気にならない奴がいたらお目にかかりたいね。全員、同じ取引をしたんだろう」


「その通りだけれども。君みたいに真っ向から訊いてくる人は少ないんだ」


「そりゃあ、一応あんたはお偉いさんだから、訊くのに躊躇する奴だっているだろうさ」


「偉い?」


「偉いだろう、旗頭」


「名目上はね」


「それは謙遜? 『手駒』なんぞに謙遜してどうする」


「……本当に、元気になったね」



 しみじみと言われて毒気が抜かれる。


 こいつと会ったのは、まさしく私が死にかけている瞬間だった。死ぬことを受け入れて、あとはもう、時間の問題だって、それくらいの。

 死にかけの人間を前に、こいつは自分が血で汚れるのも厭わず、私の前に跪いて言ったのだ。



『理想郷を、つくりたくはない?』



 そうして私は、朦朧とする意識の中で、それでもそれに頷いた。


 だから私はここにいる。

 私と奴の『理想郷』が同じであったから。

 その礎になるのなら、と、一度は諦めた命を拾い上げられたから。

 同じものを求める人間になら、この死にぞこないの命くらい、捧げてもいいかと思った。


 ただ、それだけの話だ。




お題:死にぞこないのユートピア 制限時間:15分 で挑戦したもの。微妙に加筆修正済み。


ファンタジーかファンタジーじみた科学が発達した世界の、レジスタンス的なものの裏での一幕。

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↑反応があると軽率に続きを書いたりするかも
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