闇に堕ちる
彼女は闇に堕ちたのだ、と誰かが言った。
やはりそうだった、全ては演技だったのだ、と誰かが言った。
彼女の漆黒の髪と瞳は、暗黒にも通じる色だったから。
「――それで? あなたは私を討つの? 勇敢な騎士様。――ああ、今は光の勇者様、だったかしら?」
嘲るようなゆがんだ笑みを貼り付けた彼女が嘯く。その身に闇を纏って。
「討ちたいのなら討てばいい。だけどただでそうさせるつもりはないわ。だって私は生きたいもの。闇の者だと、暗黒の使者だと言われても、生きて、そうしていつか還るの。私の世界に」
素性のしれない彼女への風当たりは強かった。ずっと。
彼女の人となりを知らなければ、その外見だけで断定された。闇に通ずる者だと。
そんな彼女に優しくない世界で、それでも彼女が必死に生きてきたのは、ひたすらに、還るためだった。
偶発的な異世界とのつながり。その余波でこの世界へと落とされた彼女の、唯一の希望がそれだったから。
「――もう、いい」
「……? 何を、」
「もう、演技は要らない」
「…………」
「君は闇に堕ちてなどいないし、狂ってもいない。最初から、闇の者でも暗黒の使者でもなかったように」
「……それが何を意味するのか、わかっていての言葉なの?」
「わかっているさ。――君をこうまで追い詰めたのは、俺たち、この世界の人間だろう」
彼女は笑う。瞳を揺らがせながら。
「裏切ったのは、あなたたちだった。だから私は、あなたたちにもう期待はしないと決めたの」
彼女を還すと約した魔法師が、彼女を利用していたと知れたのはつい先日のことだった。彼女が内包する、彼女自身は使い方を知らない魔力を、ひたすらに搾取し、それを己のものとしていたのだと。
彼女の希望と信頼は、裏切られた。
「あのひとだけが、悪い人なのかもしれないとも思った。だけど、そう考えるには、あまりに――この世界は私にやさしくなさすぎた」
「そうだな」
「だから、ねえ。もう、信じなくてもいいでしょう」
追い詰めた。追い詰められた。ゆえに彼女は闇に染まった。堕ちたのではない。そうあるべくして、そうなった。それだけの話。
そして、それは、俺たちの――この世界の罪だと。
そうと知ってしまっているから、今はただ、彼女を救うことだけを願う。
たとえそれが、世界への裏切りだとしても。
堕ちたのはきっと、彼女ではなく――俺だったのだ。
お題:暗黒の演技 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。
偶発的に異世界に来てしまった女の子と、闇堕ちした勇者様の話。




