かつての魔王と聖なる乙女が目覚めたら
――その昔、この世界には魔物と、それを生み出し統率する魔王が存在した。
魔物たちは人々を脅かし、時には国をも滅ぼし、少しずつその勢力を拡大していた。
このまま、人間の世界は滅びるのだと、誰もが思っていた。
しかしそんな中、神より遣わされし聖なる乙女が現れた。
彼女は、神官や、騎士や、魔法使いや――さまざまな立場の人々とともに、勇敢に魔物に立ち向かった。
そうしてその果てに、その身を賭して、魔王を封印した。
この世界の平和は、神の遣いたる彼女によってもたらされたのだ。
「うあああああやめてホントやめて恥ずかしいから黒歴史過ぎて死ぬ!!!」
「あはははは、おおげさだなあ」
「いやおおげさじゃないから! なにその『神より遣わされし聖なる乙女』って! 神とかいないよ!」
「その発言は一応聞かなかったことにしてあげるよ」
「誰も遣わされてないから! むしろアレだよどっちかっていうと立場的には魔王寄りだったよ? あと聖なるとか何をどうして聖なるなんて枕詞つけちゃったの。それと乙女とかちょう寒い」
「この伝承信じてる人たちの夢が崩れるから、魔王寄りとか言っちゃダメだよー」
「あんたが言うなよ魔王」
「いやもう『元』魔王な感じだから」
「え、そうなの?」
「お役目終了だからねぇ。いやあまさか自分が人間じゃなかったとか夢にも思わなかったなぁ」
「私も幼馴染が異世界産でしかも人間じゃないとは夢にも思わなかったよ」
「聖なる乙女サマのおかげで面倒な役割が終了して本当よかったよ。人外なのは変わらないけど」
「やめろ聖なる云々とか言うな口にするな!!」
「一応女のコなんだから、そんな乱暴な言葉遣いはダメだよ」
「じゃあおちょくるなっての! ああもうほんと、目が覚めたら百年経ってましたとかいばら姫じゃあるまいし。しかも当時のことが好き勝手脚色されてるとか……!」
「この伝承とか諸々、君のお仲間がやったんだろうねぇ」
「絶対誰か生きてるから問い詰める。意地でも」
「あはは、頑張ってー」
「あんたは気楽でいいよね……魔王のことなんてそういう存在がいたってくらいしか残ってないから」
「ほんとにねぇ。君については多分ありとあらゆるところに痕跡残ってそうだよね」
「やめてホントやめてもう黒歴史として消去する方向性でお願いしたいから心底」
「きっと絵姿だの銅像だのあるんだろうなあ」
「ほんとやめてよ泣くよ」
「あはは、かわいいなぁ」
「やめろこのSが!」
そんなかつての魔王と聖なる乙女が、運命も目的も役目も特にない、のんびりとした旅を開始するのは――割合すぐの話だった。
お題:恥ずかしい伝承 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。
幼馴染に召喚されてお願いされて形だけ敵対して諸々で気づけば百年経ってたという。
『智者と少女と異世界の話。』をコメディにしたら多分こんな感じ。骨子はほぼ同じだと思われます。




