どこが祝福なのか、とは彼らの言である。
――その少女のくちづけは、祝福そのものであるという。
この世界では稀に、神に祝福を与えられし者が生まれてくる。類希なる神力をその身に宿し、神に祝福されし『何か』によって人々に幸福をもたらす。
その中でも、特に祝福の強い者。
彼らは、他者にも祝福を与えることができた。その身に受けた強い祝福を、他者へと伝えることができたのだ。
故に彼らは、神の申し子と――そう呼ばれる。
「神の申し子がどうした。誰がキス魔になんてなるか」
「口が悪いよリーリア」
「うるさいよジェス。あんたはいいよねー、祝福の媒介、声だもんね。触んなくてもいいじゃん」
「まあそんなに強い祝福でもないし」
「あんたの祝福が強くなかったら誰が強いってのよ『神の申し子』のくせに」
「だって君がいるからね、リーリア」
言われ、リーリアと呼ばれた少女は心底嫌そうな表情を返す。
「君だって当代きっての『神の申し子』だろう? 最近じゃあ『聖女』だなんて呼ばれ始めたそうじゃないか」
「ねえ何? 嫌味? 嫌がらせ? 『おまえそんな器じゃねーだろ特に外見』とかそういうアレなの? ちょっと自分が美貌だからってやめなさいよ私だって傷つくわよ」
「被害妄想で勝手に傷つかれても困るよ。誰もそんなこと言ってないじゃないか」
「あんたのその顔で『聖女』とか口にされると馬鹿にされてるとしか」
「別に馬鹿にしてないよ。遅かれ早かれ君がそう呼ばれるのは予期してたことだし」
「しなくていい」
「そう言われても。君ほど強力な祝福を受けた『神の申し子』は過去にいないんだから」
「いや絶対いたよ。こーいう状況が嫌で隠してたんだよ。きっと私より頭よかったから察知して逃げ切ったんだよ」
「どうして君はそう、妄想が激しいのかな」
「それくらいしか現実逃避する材料がなかったからに決まってるでしょうが」
「そこまで堂々と現実逃避とか言われるといっそ尊敬の念を覚えるよね」
「尊敬はしなくていいから逃がして」
「嫌だよ僕一人で祝福伝播作業とか死にたくなるから」
「私は現在進行形でわりと死にたいよ! いっそ今すぐ祝福消えないかな!」
「それ多分祝福伝えられるまで延々口づけさせられるだけだと思うよ」
「……なんなの神様私に恨みでもあるの?」
「愛しすぎちゃってる可能性ならあるかもね」
「じゃあ嫉妬でもなんでもいいからせめて祝福の媒介変えてくれないかな……」
リーリアの媒介は『唇』である。つまり唇で触れることで、他者に祝福を伝播させることができる。
――つまり、多くの人へ祝福を伝える=キス魔、という図式である。リーリアが自暴自棄気味になるのも致し方ないといえる。
追い詰められすぎてうつろな目になり始めたリーリアに、ジェス――人外を疑うレベルの美貌の、『神の申し子』としてはリーリアの先輩的立ち位置である少年はそっと溜息をついた。
「……一応君も乙女だからね。交渉だけはしてあげるよ」
「え」
「そもそも未婚の乙女の唇を欲するとか変態じゃないのっていうのをオブラートに包んでね。欲にくらんだ神官どもでもちょっとは罪悪感覚えるだろ。本当に祝福が必要な人間に絞れば、とりあえず僕で回せないほどじゃなくなるはずだ。その間に、媒介で触れなくとも祝福を伝える方法を考えればいい」
「……。ジェス、私初めてあなたを尊敬できた気がする」
「一体君は今まで僕をなんだと……」
呆れたようにジェスが吐息混じりに呟く。
のちに伝説となる聖者ふたりの、望まぬ舞台に引っ張り出される前日のことだった。
お題:少女の接吻 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。
祝福云々については、例によって例のごとくふわっと理解して頂ければ。祝福を分け与えられるとちょっと才能が伸びたり身体能力が上がったり運が良くなったりするとかそんな感じです。
ジェスの表記を少年にするか青年にするかでだいぶ迷いました。正確には少年と青年の中間くらい。




