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物語の切れ端。  作者: 空月


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55/72

異世界人な私と儚げ遊女サマ。





 娼婦、というものをご存知だろうか。

 いわゆる春を売る女性のことである。名前は様々だが、まあ大抵どの国でもどの時代でもそういうものを生業にする人たちはいたようである。


 ……そしてそれは、異世界でも同じだった。



 異世界の高級遊郭街、というか何というか。とりあえず便宜上そう呼んでおく。

 私はとある日、そこに落ちた。

 落ちたという他ない。歩いていたら落下、浮遊感、衝撃。落下時間を考えたら不思議なほどに衝撃は軽く、怪我もなかったものの、精神的ショックは凄まじかった。昼中であったのだけが救いか。


 とある遊郭の真ん前に落ちた私は、そこの用心棒的存在のお兄さんに拾われた。

 お兄さんは目の前に私が唐突に現れた瞬間(落ちていたけど現れたのは着地の瞬間だったらしい)を見ていたらしく、「異世界人です!」という正気を疑われてもおかしくない主張をひとまずは信じてくれた。まあ、言葉が妙な感じにしか伝わらなかったのもあるのだろうけれど。伝わるには伝わるけど古語ってどういうこと。平安人が平成の世に紛れ込んだ的な?

 全く伝わらないわけではないけれど自由自在とはいかない言語の問題とか、着の身着のまま無一文だったこととか、常識がひとかけらくらいしかなかった(この世界基準で)こととか、いろいろ問題はあったものの、まあ過ごすうちにどうにかなった。人間やればできるものである。


 そうして私は、その高級遊郭街の中のひとつで、なんとなく養われる形になった。

 なんとなく、というのは、下働きというには甘やかされ、なんの含みもない養い子というには、まあ色々あったからだ。


 ともかくも、私は一応の生活基盤を手に入れた。


 そんな私の、一番の友人は、この遊郭一の遊女だったりする。遊女、というのはこの世界で通じない言葉であるので娼婦と呼ぶべきなのかもしれないが、何となくわかるようになったこの世界の言葉からすると、娼婦はちょっと直接的すぎる表現なのでこうしている。


 絹糸のような銀色の髪。薄い薄い青の瞳には、ちらちらと銀色の星が瞬く。肌は透き通るような白。

 儚げ系美少女――美女……いいややはり美少女だ。そんな『彼女』は、この遊郭で唯一、男に肌を許さない遊女である。

 それでいいのかと思うけれど、『彼女』と一夜同じ空間にいられるだけで、否、一目見れるだけで全財産注ぎ込んでもいい的な熱烈アプローチが後を立たないのでそれでいいらしい。

 確かに儚げ美人だけどそこまでするものかなあ、と私なんかは思うのだけど、それは私が異世界人だからなんだとか。

 魅了、ってやつだよ、といつか友人は笑った。


 ――そうじゃなきゃ、男の僕が、男相手に金なんて稼げないさ、と。


 そう。儚げ遊女サマは実は男である。

 男女問わないフェロモンダダ漏れの男である。なんかそういう呪いじみた魅了持ちらしい。何か厄介な事情とかもあってお金を必要としているらしいがよくは知らない。

 男と女だと例によって男のほうが稼いでいるので、がつがつお金を搾取するために男を相手にすることにしたらしい。合理的というかなんというか。

 ちなみにこの界隈一の稼ぎ手遊女サマが男だというのは、この遊郭のトップシークレットである。ほんの一部の人しか知らない、らしい。まあ肌を許さないどころか触らせもしないそうなので、こんな珍妙な秘密も隠し仰せているのだろう。おかげさまで私はこの遊郭から出たらさっくり殺されること間違いなしである。いや別に出るつもりも予定もないけれど。

 なんだかんだ、拾ってくれたお兄さんにも恩を感じているし、それなりにこの生活を楽しんでもいる。不満はないが――まあ、せめて一人でとは言わないからそろそろ外出を許可してくれないかなあ、などと思う今日この頃だった。




お題:儚い娼婦 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。


このプロローグで無理やり切った感……。しかし「儚げ遊女が男だったら面白くないかなー…お触り禁止的な」という思いつきネタは一応形になったのでよしとします。

狂言回し的に語ってる主人公さんはのんびりしてますが普通に監禁状態だっていう。

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↑反応があると軽率に続きを書いたりするかも
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