賢者な罪人の昔語り。
やあ、ちょっと昔話に付き合ってくれないかい?
大丈夫、そう長い話じゃない。でも、こうして思い返さないと、案外忘れてしまうものでね。
私のルーツとも言える話だから、まあ酒を飲む傍らにでも聞いてくれないか。
……ん? ああ、酒か。私は遠慮しておくよ。ここで過ごした年月を思えばとっくに飲んでもいい年齢なんだけどね――こう外見年齢が変わらないと躊躇してしまってね。
ともかくも、酒の肴になるかはわからないが――他愛ない昔話をはじめようか。
はじまりは――そうだね、私がこの世界に来たところからだろうか。
その日、私は帰りのバス――ええとそうだな、魔力で動く車……のようなものだと思ってくれればいい――でうたた寝をしてしまった。
そうして目を覚ましたら、見知らぬ部屋の一室にいたんだ。驚いたなんてものじゃなかった。
だけど悠長に驚く間もなく、その部屋に団体さんがいらっしゃってね。危うく魔王の配下だと思われて殺されかけた。
そう、魔王。私がここに来たのは、魔王が現存していた時代だよ。
……ふふ、そうだね。建国前の時代ということになる。
まあなんだかんだあって、私が魔王とはちっとも関係のない、世界すら違う異邦人だというのを認めてもらって――ああ、その団体さんは建国の勇者御一行だったんだ。私は彼らに拾われたことになる。
彼らは驚くほどお人好しでね。右も左もわからない、常識なんてあるわけない、足手まとい以外の何者でもない私に、この世界で何とか生きていけるようにと色々教えてくれたよ。
私に魔法の才があったのは幸運だった。勇者御一行の魔法使いによれば、界を越えたことで手に入れた力らしいけれど、その辺りのことはどうでもいい。ともかく、魔法が使えたことで、私がこの世界に馴染むのはとても容易になった。
それからは、君も知っているだろう? この国の建国神話。大体あれと同じ経緯を経て、彼らは建国の六賢人となった。私? 私はおまけのようなものだからね。賢人じゃあないな。
建国神話は大分柔らかい表現になってるが、当時はつまり反逆者扱いだったからね。腐った国を打ち倒すのはなかなか骨が折れたよ。
しかし月日が経ち、私と彼らは気付いた。私だけが年をとらないことを。これもまた、界を越えたことによる副作用だと言われた。
私だけを置き去りに、彼らは年を重ねる。魔法使いだけは少々反則的な方法で長く生きたが――それでも五百年くらいだったからね。
最後のひとり、魔法使いは、残される私を憂いた。憂いたゆえに、その知識の全てを私に渡した。だから私は賢者となった。賢人ではないが賢者ではある。
そしてね、彼らは私にひとつ頼み事をしたんだ。
いつか自分たちが作った国も、長い年月で腐っていくだろう。私がそれを察知したら、速やかに壊してしまって欲しいと。
つまりまた反逆しろということだ。仲間もいないのにね。
だが、恩人の言葉だ。私はそれを実行することにした。――その果てに、あなたを見出したということだよ、主。罪人として捕まっていたのは、まあ私の失敗からなんだけれどね。
地獄に仏というか不幸中の幸いというか――ある意味運命的に、あなたと出会えた。となればこれはもう、彼らの頼み事を遂行するしかないだろう?
私とあなたがあのタイミングで出会えたこともまた、運命だったんだろう。
大丈夫、勝てば官軍だ。あなたも建国の六賢人のように英雄として扱われることになる。断言してもいい。何せ私がついているんだからね。
……主? 眠ってしまったのかい?
おや、これは――そうか。この間魔法使いの秘蔵酒を酒蔵に突っ込んだんだった。魔法使いはザルを通り越してワクだったものな。主には強すぎたか。
出会いの日の再現にならないよう、酒精だけでも抜いておこうか。
ううん……なんというか、アルコールと言わなくなった自分に時の流れを感じるな……。
お題:反逆の運命 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。
『賢者な罪人と叛逆の英雄、そのはじまり。』と同設定。賢者さんの昔語りです。
賢者さん実は女の子なんだよ、とか勇者御一行のうちの神官が未来を予見してからの反逆依頼だったんだよ、とか加筆修正時に入れる予定だったんですが、いつかのリメイク時に本筋に入れ込むからいいかな、とばっさりカットしました。
それにしてもいまいちオチきれてない感……。




