賢者な罪人と叛逆の英雄、そのはじまり。
罪人を買った。
胸糞悪くなるような仕事を終えて、むしゃくしゃした気持ちをぶつけるように浴びるように酒を飲んで。前後不覚になるほどに酔った夜のことだった。
与えられた報酬はそりゃあ破格だったし、その道を選んだのも自分だ。文句を言う筋合いはなくとも、自分がやってることにどうしようもない疑念が浮かぶことだってある。
だから、なんだろう。
俺は帰り、得た金をほぼ丸々使って、罪人を買った。
この国では、一部の罪人を国が管理して売っている。
罪人であっても殺すには勿体無い、そんな能力の高い罪人を選んで、隷属の印を使って抵抗の術を封じてから売るのだ。その収益はそのまま国の財産になる。――まあ、国民に還元されるわけじゃあないが。
俺はその中で、一等高い罪人を選んだ。
国が管理する罪人たちのリストのその一番下、庶民じゃ一生かかっても買えないような馬鹿みたいな値段のついた罪人を。正直その時の自分が何考えてんたんだかわからないが、とりあえず買った。
そしてその罪人は、たった今、二日酔いに呻く俺を興味深そうに眺めている。
「やあ、主。どうやら気分が優れないようだが大丈夫かい?」
「……大丈夫に見えるか……」
「見えないな。見たところあなたは酒豪のようだけど、昨日は一体どれだけ飲んだんだい? 私を買ったときは案外に意識もしっかりしてそうだと思ったのだけど」
昨日の夜、こいつを買った記憶はあるが、その時の思考がさっぱり抜け落ちるくらいには飲んでいた。外見に表れない性質なのはよかったのか悪かったのか。
「まあ、どうしてそんな、限界のそのまた向こうまで飲んだのかは追々聞くとして。とりあえずは、正式にご挨拶くらいはさせてもらいたい」
この惨状――自分で言うのもなんだが、そう言うしかない――を前によくぞそんなのんきなことを言えたものだ。
だが、抗議の声を上げる前に、その罪人はにっこりと笑った。
「曲がりなりにもあなたは私の主となったからね。馬鹿高い金に見合う程度には役に立つということを見せてあげよう」
そう言ったかと思うと、何の詠唱もせずに――触れただけで俺の全身を覆っていたすべての不快感を消し去った。
「……!?」
「ふふ、驚いているね。下僕冥利に尽きるよ。――まあ私にできることは順次明かすので――まずは名前を聞いてもいいだろうか、主?」
そうやって人を食ったように笑った――その罪人が、かつて異世界から来た人間であり、賢者と呼ばれた人間であり――そうして国家反逆罪で捕らえられていたのだと知るのは、数刻後のことだった。
お題:高い罪人 制限時間:15分 で挑戦したもの。微妙に修正済み。
15分じゃ無茶なネタだったな、と途中で気付いたけど突っ走った代物です。
ネタとしては気に入ってるので中編くらいでいつかリメイクしたい気がしないでもない。




