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物語の切れ端。  作者: 空月


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36/72

『救世』の、その裏側で。




 泣き疲れ眠った少女の枕元に腰掛けて、その痛々しい寝顔を眺めていた青年は、背後に出現した気配に目を細めた。

 振り返り、『転移』という高等魔法を息をするように使用した人物をその視界に捉え、口元を歪めて笑う。

 

「……久しぶりだね。何の用だい」

「つれないこと言うなよ、『勇者』――『救世主』サマ?」

「君にそんな呼ばれ方をすると虫唾が走るね」

「相変わらず、俺には『麗しの騎士団長様』の仮面すら被ってくれねぇのな?」

「君にそんな上辺だけの演技をしても看破されるだろう。私は無意味なことはしない主義なんだ」

「――無意味なこと、ねぇ。んじゃあ、そこの『可哀想な異世界のオンナノコ』に帰還の術を教えないまま『救世』したのは意味のあることってワケか?」

「その答えを、君は知ってるだろう?」


 毒々しいまでに艶やかに、『救世主』となった青年は微笑む。

 長き時を生きる不老の魔術師は、それに呆れと感嘆を交えた溜息を漏らした。


「ああ、知ってるさ。お前が『偶発的に』この世界に来ちまったその子を『世界の贄』に仕立て上げたことも、それによってこの世界から容易に離れられない縁を結んだことも、――俺が親切で教えてやった帰還の術を隠し通したことも。……可哀想になァ。本当は『世界の贄』であったって、還れるはずだったってのに」

「そうだね」


 皮肉がたっぷり篭った言葉にも、浮かべられた笑みは揺らがない。

 その様にくくっと喉の奥で笑った魔術師は、滔々と詠うように語る。


「『救世』が終わればこの世界は完全に閉じる。だから還るなら『救世』が終わるまでが期限だった。だってのに、その術を教えられるお前が、それを隠匿したんだもんなぁ。しかもその動機が、『手放したくなかったから』だってのがお笑い種だ。お前みたいなの腐った性根の男に目をつけられて本当に可哀想だなぁ?」

「何とでも言えばいい。どうせ君は、『終わった』ことを蒸し返すことはしないんだろう?」

「そりゃあな。これ以上どん底に落としてなんになるってんだ? 誰よりも信じていた相手が自分をずっと裏切ってて、自分の都合だけで不幸に叩き落としてくれたって知ってなんになるよ?」


 だから言わないでおいてやるよ――それだけ言って、魔術師は消えた。

 『騎士団長』であり、『勇者』であり、そうして『救世主』となった青年は、ただうっそりと、昏く満ちた笑みを浮かべ、――絶望の淵、悲しみに暮れる少女の寝顔へと、視線を落としたのだった。



お題:腐った動機 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。


やんでれの執着いいよね!という勢いで書いたら、動機よりも性根が腐った感じになってしまったという……。

ある意味戀憐廻祈シリーズと表裏一体の話かもしれない。

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↑反応があると軽率に続きを書いたりするかも
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