それは途方もない裏切りだった。
「――その顔が、見たかったんだよ」
にっこりと、清々しいとさえ言える笑みを浮かべてそう言った目の前の人物を、どうして睨みつけずにいられただろう。
「それが、理由だとでも言うつもり?」
叫びだしそうなのを無理矢理に押しとどめて絞り出した声は、掠れていた。ショックでじゃなく――怒りによって。
「理由。理由か。……そうだね、多分それが一番の理由だよ」
もちろん、それだけではないけれど――。
愉しげな声が耳に障って、私は続く言葉を遮った。
「最低」
「君の口からそんな評価をもらえるとは。嬉しいな」
「歪んでるわ」
「そうかもしれないね。僕もまさか自分がそんな言葉に悦びを覚えるようになるとは思わなかった」
「……」
最低な上に変態とは救いようがない。何を言っても悦ばせそうな上、不快になるだけなので仕方なく口をつぐんだ。
彼は、私がこの見知らぬ世界で、共に旅をした仲間だった。
共に苦難を乗り越え、信頼を、心を、寄せ合った――そのはずの人だった。
けれど彼は、私にとって何よりの裏切りを――私の帰還の術を失くすという裏切りをした。
その理由が、『絶望に染まる顔を見たかったから』だなんて、何の冗談だろうか。
「君はいつでも、ほんのわずかでも希望が残っているなら、前を向ける人だったから。もしその希望が叩き潰されたらどんな顔をするんだろうって、ずっと考えてたんだ」
そんなふうに、滔々と語る――そんなかつての仲間の姿なんて、見たくなかった。
だけど、現実は残酷で、容赦ないから。
私はもう、彼を憎むことしかできないのだ。
ああ、なんて茶番だろう、と自嘲した。
お題:許せない愉快犯 制限時間:15分 で挑戦したもの。
うっかりシリアス続きになりました。本文そのままのワンシーンです。




