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物語の切れ端。  作者: 空月


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幸せな失恋



 ずっとずっと、好きだった人がいた。

 ずっとずっと、その幸せを願っていた。


 ――だから私は、笑顔で言ったのだ。「お幸せに」と。



* * *



 私は、『前世』というものを覚えている。

 前世の私は、とある人と恋に落ちたものの、所謂悲恋というやつで、結ばれることはできなかった。

 それでも私は、彼に恋をしたことで幸せを知って、恋をしたまま死ねたので、幸せだったと記憶している。


 けれど、相手は――彼は。

 結ばれることのない恋に傷ついて、苦しんで、不幸になった。――少なくとも、私からはそう見えた。


 だから、なんだろう。

 私は、彼を見たとき、すぐに――結ばれることのできなかった、不幸にしてしまったひとだとわかった。


 それから、少しずつ彼と仲良くなって。

 彼が『前世』を覚えていないことも知った。


 それを、さみしいと思ったことはある。私だけが覚えている。私だけが知っている。この『前世』は私の頭が作り出した妄想のようなものなのかもしれないと疑ったこともある。


 だけど、『前世』を彼が覚えていてもいなくても、――『前世』が本当にあったかどうかも。


 究極的には、私の目的を、願いを変えてしまうわけじゃなかったから。



 囚われないで。忘れてしまって。

 願うのは、『前世』の私。


 忘れているのが、覚えていないのがさみしい、と。

 そう感じるのは『今世』の私。



 前世の私は、彼を不幸にしてしまったことを悔やんで。

 私を忘れてしまって、と願った。


 だから、さみしいと感じるこの気持ちは、今の私が、ただ、記憶を共有できないことを不安に思っているだけなのだ。


 『前世を覚えている』なんて人が世に溢れていないということは、そもそもが余計な記憶であって、これは多分、『前世』の私の我侭な願いのせいなんだろう。



 幸せになって。しあわせになって。私のことなんか忘れて、幸せに。 



 そんなふうな、身勝手な願いを、どこかの誰かが叶えたから、私は覚えていて、彼は覚えていない。


 ただ、私が、『前世』を少しだけ引きずった私が、彼の幸せを見届けることができるよう。

 未練が消えてなくなるよう。


 この記憶には、きっとそれだけの理由しかないんだろう。


 だから、私は。

 性別を超えた親友とも呼べる存在になった彼が、可愛いかわいい女の子を隣に、笑っていればそれでいい。

 しあわせに、笑っていればそれでいい。



 一般的に、失恋というのは同情されるべきものだとされているけれど、――すべての失恋が、「カワイソウ」なものだとは、私は思わない。

 だって、私はこんなに幸せな気持ちだから。

 彼女と笑う彼を見て、こんなにも幸福な気持ちになれるから。


 だから私は、今度こそこの恋に終わりを告げられる。

 清々しい気持ちで、未来を想って――過去と決別できるのだ。




お題:気持ちいい決別 制限時間:15分 で挑戦したもの。加筆修正済み。

メモってたネタ消化にいいかなぁと思って引っ張ってきたんですが失敗した感。

本当はもっと少しの切なさと清々しさと同居した感じのネタでした…あんまりお題に沿った感じにならなくなったのが不思議で仕方ない。

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↑反応があると軽率に続きを書いたりするかも
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