世界を救った人達の話。
温かい食事と、和やかな空間。
暖かい部屋と、そこに在る笑顔。
それはきっと、平和であれば当たり前の団欒で。
だからこそ彼女は、それを遠ざけるのだろう。
「どこに行くんだい」
「どこでもいいでしょう。あなたには関係ない」
「関係あるよ。僕は君の騎士だ」
「もうそれは意味のないものでしょう。世界は救われた。魔物に脅かされる日々はもう来ない。だから、私とあなたの契約も無効」
「寂しいことを言うね」
「そう? 当然のことだと思うけど」
表情を変えない少女に、痛々しさを感じるようになったのはいつからだったか。
この、滅びゆくしかなかった世界を救うため、異世界から喚ばれた少女は、きっと自分たちを恨んでいる。この世界を。世界に生きる人々を。
「少なくとも、僕と君のつながりはまだ途切れてはいないよ」
「解除方法は見つける。だから放っておいて、『救国の英雄様』」
「それは皮肉かい?」
「事実でしょう」
口の端をつり上げる、その幼さすら残る顔に不釣合いな笑み。
「私は表舞台に立たない。代わりにあなたが全てを背負う。――あなたはそれを了承した」
「そうだね」
「だからあなたは『救国の英雄』。誰もがあなたを讃え、あなたと繋がりを持ちたいと必死になる。……私は面倒事はごめんなの」
だから放っておいて、と再び告げられる。
「だけど僕は君の騎士だ。君だけの」
「だから、――」
「僕がそう在りたいと願って、つながりは未だ途切れていない。だったら、僕は君のものだよ」
「いらないわ」
「君が嫌だと言っても」
「……理解できない」
「してくれなくてもいいよ。傍にいることさえ許してくれるのなら」
「それが嫌なんだけど」
「冷たいな」
苦笑する。それでも少女から離れる気は微塵も起きない。
理不尽な世界を恨んでも、自分勝手な人々を恨んでも、それでも彼女は世界を救った。
かえれないことに絶望して涙を流して、それでも。
当たり前の団欒すら、彼女が望むようには与えられない、こんな世界を。
だから、せめて。
ひとりにだけはしないと、少女の騎士は誓ったのだ。ただ、それだけの話。
お題:当たり前の団欒 制限時間:15分 で挑戦したもの。
異世界召喚で救世主やって、でも還る術はない女の子と、その仲間であり旅の中で特別な繋がりを得た騎士の話。




