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物語の切れ端。  作者: 空月


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23/72

世界を救った人達の話。





 温かい食事と、和やかな空間。

 暖かい部屋と、そこに在る笑顔。


 それはきっと、平和であれば当たり前の団欒で。

 だからこそ彼女は、それを遠ざけるのだろう。



「どこに行くんだい」

「どこでもいいでしょう。あなたには関係ない」

「関係あるよ。僕は君の騎士だ」

「もうそれは意味のないものでしょう。世界は救われた。魔物に脅かされる日々はもう来ない。だから、私とあなたの契約も無効」

「寂しいことを言うね」

「そう? 当然のことだと思うけど」


 表情を変えない少女に、痛々しさを感じるようになったのはいつからだったか。

 この、滅びゆくしかなかった世界を救うため、異世界から喚ばれた少女は、きっと自分たちを恨んでいる。この世界を。世界に生きる人々を。


「少なくとも、僕と君のつながりはまだ途切れてはいないよ」

「解除方法は見つける。だから放っておいて、『救国の英雄様』」

「それは皮肉かい?」

「事実でしょう」


 口の端をつり上げる、その幼さすら残る顔に不釣合いな笑み。


「私は表舞台に立たない。代わりにあなたが全てを背負う。――あなたはそれを了承した」

「そうだね」

「だからあなたは『救国の英雄』。誰もがあなたを讃え、あなたと繋がりを持ちたいと必死になる。……私は面倒事はごめんなの」


 だから放っておいて、と再び告げられる。


「だけど僕は君の騎士だ。君だけの」

「だから、――」

「僕がそう在りたいと願って、つながりは未だ途切れていない。だったら、僕は君のものだよ」

「いらないわ」

「君が嫌だと言っても」

「……理解できない」

「してくれなくてもいいよ。傍にいることさえ許してくれるのなら」

「それが嫌なんだけど」

「冷たいな」


 苦笑する。それでも少女から離れる気は微塵も起きない。


 理不尽な世界を恨んでも、自分勝手な人々を恨んでも、それでも彼女は世界を救った。

 かえれないことに絶望して涙を流して、それでも。


 当たり前の団欒すら、彼女が望むようには与えられない、こんな世界を。

 だから、せめて。


 ひとりにだけはしないと、少女の騎士は誓ったのだ。ただ、それだけの話。




お題:当たり前の団欒 制限時間:15分 で挑戦したもの。

異世界召喚で救世主やって、でも還る術はない女の子と、その仲間であり旅の中で特別な繋がりを得た騎士の話。


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