クロさんと私。
私は魔物と暮らしている。
黒くて、大きくて、怖い魔物だ。きっと、出会った人は一瞬で死を覚悟するだろうくらい強そうでもある。
そんな魔物は、私の保護者だ。
「クロさん、クロさん」
呼びかけると、小さく首をかしげて先を促してくれる。クロさんと私はうまく言葉での意思疎通ができないので、元々しゃべるのが好きじゃないクロさんは、よっぽどでないと口を開かない。
「ご飯を取りに行きたいです」
そう言うと、クロさんは少し考えるような間をあけて頷いた。目線だけで促されるままに、クロさんの首にしがみつくようにして捕まる。
怖いので目をギュッと閉じると、気持ち悪い感覚が襲ってきて、クロさんがぽんと体を叩いてくる合図でやっと安心して目を開ける。
そうすれば周囲は、なんだかよくわからない空間になっている。
価値がありそうなキラキラしたものも、廃棄寸前と言われても納得できそうなボロボロの何かもごちゃまぜにある、不思議な空間。
ここの一角に、何故か冷蔵庫がある。コンセントはどこにもつながってないのに、なぜか動いている不思議な冷蔵庫だ。
ここ一帯には、この不思議な空間で見つけた私の世界のものを集めてあるので、洗濯機とか電子レンジとかもある。やっぱりなぜか動く。テレビはあるけど流石に映らない。電話も同じだ。
ともかく、この冷蔵庫の中は、何故か開けるときに念じたものが出てくる不思議仕様になっているので、私は異世界らしいクロさんの元でも、食べ慣れたものを食べることができる。
よくわからないけど、これはクロさんがとても強い魔物であるから可能らしいので、ひたすらクロさんに拾われた幸運を感謝する日々だ。
首尾よく新鮮な野菜とウィンナーを手に入れた私は、何をするでもなくじっと私の挙動を見ていたクロさんを振り向いて「帰りましょう」と告げる。
クロさんはやっぱり何を言うこともなく、また視線で促してくるので、行きと同じように首筋にかじりついて、よくわからない移動を終えて、またクロさんと私の住処に戻る。
手に入れた食材で野菜スープを作りながら、しみじみと疑問に思うのは、クロさんはどうして私を拾ったんだろう、ということだ。
何度か聞いたけれど、クロさんはきちんと答えてくれなかったので謎のままなのである。
でもまあ、捨てられる様子はないからいいや、と、濃い味付けの苦手なクロさんのために味を調整する前に一部とりわけながら、私は今日も平和を満喫するのだった。
お題:私の魔物 制限時間:15分 で挑戦したもの。微妙に加筆修正済み。
お察しの通り、異世界トリップが好きです。強者に保護される異世界人が好きです。
クロさんが人型か獸型かは書きながら決めようと思ったら決まらなかったという。




