保護者な魔法使い様と異世界人。
「実は僕、君のことが好きなんだよね」
いかにも渋々といった体で紡がれた言葉に、まともな反応ができなかったのは仕方ないと私は思う。
「……え、何? どうしたの? 熱でもあるの?」
「僕が体調を崩すことがあると思うかい」
「いや思わないけど。人間やめてるし。でもそれくらいしか原因が」
「残念なことにいつもどおり超絶健康体だよ」
意味がわからない。
目の前の彼は元人間の人外だ。詳しくは知らないけどとりあえず不老不死みたいなものらしい。体も頑丈でよっぽどのことがない限りは外傷すら負わないとかなんとか。
その彼がなんでいきなりこんな奇妙な嘘を口にしたのかがさっぱりわからない。
「頭でも打った?」
「あいにくそんなドジはふんでない」
「変なもの食べたとか」
「せっかく食事する必要のない体になったのに?」
「じゃあなんで?」
「僕が言いたい」
……ダメだ、埒があかない。
これはいっそ空耳だったという説を推そう。
「念のため、なんだけど。さっきなんて言った?」
「『実は僕、君のことが好きなんだよね』」
……一言一句違わず、表情も再現して言われた。
空耳説は捨てるしかないらしい。
「頭でも沸いた?」
「何言ってるの?」
それはこっちの台詞なんだけど。
「じゃあ罰ゲーム?」
「……ねえ、さっきから明らかに僕を馬鹿にしてるよね?」
「いやだって何をどうしたらそんな奇妙な嘘をつくことになるのかと思って」
「嘘だって決めつけないでくれる?」
「だってあなた、私のこと絶対に好きにならないって言ってたのに」
知り合ったばかりの頃、間違いなくこの人はそう言った。だからこそ、私は彼の庇護下に入ったのだから。
異世界人であるという物珍しさとそこに付属する諸々の事情から、嬉しくない人生初モテ期体験中だった私はその発言に飛びついた。実際「希少生物だし保護してやるか」くらいの感じだったし。
「僕だって好きになるつもりはなかったよ」
「……正気?」
「言う気もなかった。その資格がないのはわかってたし」
「……」
「だけどさぁ、最近周りがうるさいんだ。ネタは上がってるんだとか裏はとれてるぞとか。挙げ句の果てには娶る気がないならもらっていいかだの」
「…………」
なんというか、もう言葉もない。
「煩わしいのは嫌いだし、そろそろ撤回しても許される頃合かなと思ったから言っただけ。言いたくなかったけど」
「あんな表情で言われたら罰ゲームか何かだとしか思えないけど」
「君の反応もわかってたし。君、僕に恋愛感情ないよね」
「うん」
まあ今現在誰にも恋愛感情はない。感謝はしてるけど。
「誰かに持ってかれるくらいなら、とりあえず牽制……違うな、釘を刺しとくのもいいかなって。これで君も少しは危機感持つでしょう」
「危機感も何も……」
最強と名高い魔法使い様を敵に回す人はいないだろうし、敵に回させたくもない。
つまり私は彼を好きになるしかなくなったって事なんだけど――その辺り、わかってるんだろうか。……わかってなさそうだな……。
また何やら面倒なことになりそうな自分の行く末を思って、私は小さく息を吐いたのだった。
お題:奇妙な嘘 制限時間:15分 で挑戦したもの。若干加筆修正済み。
王道気味でベタな異世界トリップを経ていろいろあったんだろうふたりの話。




