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魔法適性検査

「それでは皆さん、世界を救いたいという気持ちを強く持って、そのバッチに触れてください。」

先生の指示で皆それぞれバッチに触れた。私は少々躊躇ったが、やるしかないだろう。それに世界を救いたいという思いは誰にも負けない。


ええい、ままよ!


 青いリボンの中心に触れると、途端に辺りが七色に輝きだし、私の身体がふわりと持ち上がった。そして身体が宙でくるくると回る感覚があった。着ていた服がシュッと消えて、新しく衣装が構築される。

 念のため一つ補足しておくが、私はこの間片手で股間を押えていた。

恰好悪い?何を。あくまで紳士的な行為だ。

 しかし、結論から言うとそうする必要はなかった。何故なら全裸状態になるのは一瞬で、またその時、謎の光線が私の局部を隠してくれたからだ。

それは私だけでなく周囲の少女達にも言えることで、なんとうまいつくりになっているのだろうと感心した。


 気が付くと、私は青と白を基調としたフリフリの衣装を身にまとっていた。


「皆さん無事に着替えられましたね。今回は初めてだったということもありますが、無言で着替えているのはなかなかシュールな光景でしたよ。また自分自身のキャッチコピーは追々先生と考えていきましょうね。」


 そういえば、魔法少女は自分の変身の際、やたらベラベラ喋る。自分のキャッチコピーか……。これは確かに真剣に考えねばならない。


「すごいすごい!私魔法少女に見えますか?」

隣の綾香も私の色違いで緑の衣装を着ていた。可愛らしく頬を紅潮させて喜んでいる。


「この衣装は上級の魔法少女になるにつれ新しく変わっていきます。今の皆さんは見習いという事で、最も基本的な衣装です。」

と先生が補足する。成程、確かによく見ると色がチャチな感じがする。これならコスプレだと思われても仕方ないレベルだ。


 後ろを振り返ると、色とりどりの少女たちがお互いを見てキャッキャと騒いでいる。目がチカチカする。この光景を俗にいうオタクという者が見ればブヒブヒと鼻を鳴らすところであろうが、エリートの私はそんなやましい行為は一切しない。


「折角なので、この衣装のまま次は魔法適性検査をしましょう。皆さん、校庭へ出てください。」


 魔法適性検査?ほう、面白い。エリートである私がどれほど出来るのか確かめてみたいと思っていたところだ。

そして私たちは先生の後を続いて階段を降りて行った。




○○


 校庭に出席番号順に一列に並ばされた。やたらめったら広い校庭だ。同じように少し離れたところで他のクラスも並んでいた。


「では、早速ですが一之瀬さんから今自分が出来る範囲で何か魔法を使って下さい。」

そう言って先生はボールペンとボードを取り出し、胸に抱えた。体力テストみたいなノリだった。


 あれ?ちょっと待て。なんだこの最初から魔法ぐらい使えるでしょといった流れは。

出来る範囲でって……魔法なんて使ったこともないし、そもそも一切知らない。私は小中学校で国英数しか習っていない。もしかしてここに居る皆既に何かしら魔法が使えるという訳じゃないよな……?


「はい。緊張しますが頑張ります!」

そう言って綾香が一歩前に出る。そして……

緑の支配者(グリーンルーラー)!」

と叫び手に持っているステッキを一振りした。

すると、綾香の目の前にポンと一輪の可愛らしいピンクのコスモスが咲いた。


「すいません!私まだ慣れてなくて……この程度しか出来ないんです。」

綾香が顔を赤らめて一歩後ろに下がった。周囲からクスクスと笑い声が聞こえ、「かわいい~」だのといった声も聞こえた。



 いやいやいやいや、ちょっと待て。私の目から見るとものすごい事なんだが。種も何もまいていない地面から急に花が生えてくるなんて、普通に異常事態ではないか。神の所業だ。それがこのクスクス笑いだと!?私はそれすら出来ないぞ!


 一筋の汗が額から流れる。一難去ってまた一難。どうしよう……。何も出来ないとなっては更に笑われる。偏差値45と正直ナメていた。まさかこのエリートが笑われる日が来ようとは……。

そんな私の気持ちも知らず、テストは次々と進んでいく。

天使の光(エンジェルブレイズ)!」と言ってフラッシュを起こす者もいれば、

炎の守護神ファイアーガーディアン!」と突然炎を身にまとった者もいる。


 そしてとうとう私の番が回ってきた。ごくりと唾を呑む。落ち着け。横文字…そうだ横文字だ!適当に横文字を叫べば何かが起こるに違いない!

私は頭をフル回転させて、思いつく限りで一番長い横文字を口にした。


「マルクス・アウレリウス・アントニヌス!!」


 シン……と辺りが静まり返る。何も起こらない。しまった!ついうっかりローマ五賢帝最後の皇帝の名前を口にしてしまった!いくら長いとはいえ、ストア派の哲学者でもあり『自省録』を著したマルクス・アウレリウス・アントニヌスを出したのはマズかった。

エリートが仇となったか…くっ!


 周りの少女らは笑うこともせず、ただポカンとしていた。おそらくまだ彼の名前を知らないのだろう。大丈夫、すぐに習う。


 先生は笑いをかみ殺したような困ったような表情で、「今日は調子が悪いのかな?また練習しましょうね。」と私に言った。


 こっそりと綾香が、「やっぱり緊張しますよね!大丈夫、そんな日もありますよ!」

と慰めてくれた。胸が痛い。


 妙に嫌な空気が流れていたが、私の次の少女が「マジック・マッシュルーム!」と某覚せい剤の名前を口にしたお陰で、すぐにその場は盛り上がった。そのネーミングはいかがなものか……と思ったが、実際その魔法の威力は洒落ではなく、その場にいる全員が何かしら幻覚を見た。どちらかといえば魔法少女ではなく敵寄りの魔法だと思う。


 そんなこんなで適性検査は終わった。結局クラスで魔法を使えなかったのは私だけという何ともみじめな結果だった。


「今日は入学式なのでこれまでです。また明日から平常通りの授業が始まりますので、教科書を忘れないように。」

と先生が言った直後、不思議な音色のチャイムが鳴り、この日の授業が終わった。


 後は寮に帰るだけだ。私はプライドを傷つけられたショックでその場からよろよろと立ち去ろうとした。すると、


「秀美さん!」

と綾香が駆け寄ってきた。

「なんだ。私は寮に帰るところだ。」というと、綾香はにこやかにそのまま着いてきた。

「秀美さんもこっち方面なんですか?もしかしたら私と一緒の寮かもしれませんね!」

なんだと……。

「ムーンライト荘ですか?」

その通りだ。この学園には数々の寮がマンションのように立っている。ムーンライト荘はその中でも割と校舎に近い。そうか、綾香も同じだったのか……。


この子との付き合いは割と深くなりそうだな。と思いながら、私は綾香と共に寮へ帰った。


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