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入学式

 名前:佐藤秀忠(さとうひでただ)

 性別:男

 年齢:15

 志望校:女子魔法学園


今日は担任と最後の面談だ。明日はいよいよ試験当日。とうとうこの日がやってきたか。己の進路実現の為、私は最後まで人事を尽くす!


「いや、ちょっとまて!佐藤!この志望校はどういう事や!?」

目の前に座る担任が、私の進路ワークシートを平手でバン!と叩いた。


「……先生(ティーチャー)、なにか問題でも?」

私は冷静(クール)に前髪を掻き揚げ、冷ややかな視線を教師に向けた。

……やれやれ。このGorilla(ゴリラ)は良い歳をして何をそんなに取り乱しているのか。

少しは落ち着いたらどうだ。お茶でも飲みたまえ。


私がステンレスの水筒から注いだお茶を、担任は手で払いのけた。

「取り乱すわ!今めっちゃビックリしてんねん!お前つい前日まで将来の志望大学は早稲田大学の法学部や言っとったやないか!そのために学区でトップの高校に入る予定やったやん!それがなんでここにきてマホジョ?女子魔法学園ってお前女子ですらあらへんやん!」


関西出身のこの教師は関西弁で次々とまくしたてた。了解(オゥケイ)。一度ここまでの話を整理しようか。


「何を!?はっ!まさかお前願書は……?」

「もう出願は完了しています。先生。泣いても笑っても試験は明日です。諦めて天命を待ちましょう。」

私は優雅に水筒のお茶をコップに注ぎ、ひとくち口に含む。そしてコップをこれ見よがしに教師に振って見せた。


「うわあぁぁぁ!しまった!まさかお前がマホジョに行くなんて!!お前みたいな優秀な生徒がそんな偏差値45の学校に行ってどうすんねん!?悪いことは言わん。魔法を学びたいならせめてこっちの『男子魔法学校』にすればどうや?」


目の前に叩きつけられたパンフレットを一瞥して、私は溜息をついた。

「いいえ。先程申し上げた通り、出願はもう済んでいます。何より、私の将来の夢である『魔法少女』になるための勉強が出来ません。ホグワーツには興味ありません。」

「あぁ……弁護士になって弱い人を助けたいって言うとったんも嘘やったんやな!?お前のこと信じとったのになぁ……。」


あからさまにしょんぼりとする担任を、私は別に可哀想だとも思わない。私は自分の信じた道を進む。

「先生、一年間ありがとうございました。それに全てが嘘だったわけではありません。私は、魔法少女になって弱い人々を悪の組織から守りたい!」

狭い教室に私の声がわんわんとこだました。


一筋の涙が、担任の頬を濡らす。

「そうか……。そこまで考えとるんやったら、俺もお前を全力で応援する!頑張れよ!」

担任が私の背中を思い切り叩いた。心地良い痺れが私の中を駆け巡る。

この一年、色々な事があった。しかし、こんなに信用できる担任と巡り合えて私は幸せ者だったのだ。


「頑張ります。」

我々は固い握手をして別れた。廊下に出ると、ひんやりとした空気が私の頬を撫ぜた。

私は大きく深呼吸すると、これからの自分の未来へ向かって、一歩踏み出した。




○○


「……あいつも成長したんやなぁ。」

椅子に深く座り直し、しみじみと教室に残った佐藤の担任は呟いた。

そしてふと、重要な事を思い出して立ち上がった。


「あいつ……、どうやって女子高に入学するつもりや……!?」




○○


「これをもちまして、答辞とさせて頂きます。三月一日、佐藤秀忠」

卒業式、生徒会長である私は朗々と答辞を読み上げた。ふと教師席に目をやると、担任を含む教師陣が皆私の方を向いて泣いていた。その涙に込められた意味など、私は知らない。

ちなみに、試験の方は完璧だ。間違ったところが思いつかない程だ。


そしてまもなく、私の元に一通の合格通知書が送られてきた。




○○


月日が経つのは早いもので、つい先日卒業式かと思えば今日はもう入学式だ。

待ちに待ったこの日がやってきたのだ。


いつもより早めに起きて、髪をセットする。まず、ウイッグを頭に固定し、次にリボンで二か所結ぶ。あっという間に腰まで届くツインテールになった。

水色の髪色に合わせて、青いカラーコンタクトをいれる。最後に適当にファンデーションをしてリップを塗れば完成だ。

全身が映る鏡の前に立ち、くるりと一回転する。どこからどう見ても立派な魔法少女だ。しかも水系の。

そう、私は女装するのが得意なのだ!これは私の知られざる特技である。あの女の子特有の微笑みも完璧に再現出来る。一人称は元から『私』だから無理に変える必要もない。


「行ってきます」

誰もいない、数週間前に引っ越してきた寮の部屋に向かって1人呟いた。


寮から徒歩5分で私は学校の講堂に着いた。下調べの通り、この学校は立派だった。凝った彫刻があちこちに施され、ここまでの途中にいくつもの噴水の間を通った。現実世界からかけ離れた、まるで別世界だった。

講堂の入り口の看板には、『女子魔法学園入学式』と大きな文字が書かれている。ひとつ大きく深呼吸して、私は講堂の中へ足を踏み入れた。



私は常に10分前行動、5分前集合を心掛けている。そして記念すべき今日、入学式には1時間前に集合していた。

講堂の中にはパイプ椅子が敷き詰められ、私はあらかじめ指定されていた椅子に腰を下ろした。


……誰もいない。そして誰も来る気配がなかった。

ふぅ……とため息をつき、静かに目を閉じる。時間がくるまで瞑想でもしていようと思ったのだ。

それから10分後ぐらいのことだった。


「……あのぅ…。」

と控えめで可愛らしい少女の声が聞こえた。

ゆっくりと目を開けると、そこにはおさげの、緑色の髪をした少女が立っていた。

やはり偏差値45の学校だな…。こんな清楚そうな少女までもが奇抜な色に髪を染めている。

私はあきれてその少女を見つめた。


そしてしばらく考えて、自分も水色の髪だったことに気づいた。


少女は申し訳なさそうに椅子を指差して言った。

「そこ……私の席なんですけど…。」

私はバッと立ち上がって椅子の裏のシールと自分の手の中にある白い紙きれを見比べた。

私の座席の数字は4377。そしてここは4371の座席だった。


「すまない。見間違えていたようだ。すぐに移動する。」

私はあわてて彼女に背を向けて歩き出した。


「あっ!待ってください!」

少女が引き止めるので振り返ると、彼女はにっこりとほほ笑んで自己紹介した。

「私、一之瀬綾香(いちのせあやか)です。あなたも同じ新入生でしょう?宜しくお願いします。」


私も彼女に負けず、上品な笑みを湛えて答えた。

「私は佐藤秀…秀美ひでみだ。宜しく。」

念のため偽名を伝えておいた。

綾香はまじまじと私の姿を眺めた。怪しまれたか…?何かマズイ部分でもあっただろうか?私もつられて自分の身体を再確認する。


「私、ちょっと張り切りすぎて…。早めに来ちゃったんです。でも秀美さんがいてよかった~。1人だったら心細かったです!」

どうやら怪しまれてはいないようだ。私は胸を撫で下ろした。


それからは綾香と他愛無い話をしていた。良かった。入学早々、学校でぼっちになるかは今日でほぼ決まるのだ。いきなり友人が1人できたのは心強い。やはり入学式当日は早めに行ってメアド交換しておくのが望ましい。


「私、幼いころからずっと魔法少女になるのが夢だったんです!」

と、綾香が目をキラキラ輝かせながら語る。

「奇遇だな。私も同じことを思っていた。」

フッと口角を上げて私がほほ笑むと、綾香は苦笑いで返した。

「いや……ここに居る時点でそれは分かっていた事ですけどね?」


30分ほど経っただろうか。講堂の周りがザワザワし始め、次々と少女が中に入ってきた。

それぞれがカラフルな髪をなびかせながら、椅子に座っていく。

あっという間に私の周りも女の子で埋まった。

少女達の甘い香りが私の周囲を満たす。

その中に、私は完全に違和感なく混ざっていた。


やがて時間になり、入学式が始まった。学園長の挨拶が終わり、その他諸々の挨拶があった後で、最後は首席である私の生徒代表挨拶だ。


皆の視線が私に集まる。エリートである私はそれに臆することなく、堂々と挨拶を終えた。

拍手が講堂に鳴り響く。


入学式が終わり、クラス毎に席を立つ。確か私のクラスは1-Cだ。先ほどの一之瀬綾香も同じクラスだ。



先頭に続き、講堂から学園本館に移動すると、その内装の立派さに目を奪われた。流石は魔法少女を育てる学校だ。大理石の床が輝いている。高い天井を見上げるとそこには天使が羽ばたく宗教画が描かれていた。

真っ赤な絨毯が敷かれた螺旋階段を上がり、1-A、1-Bの教室前を通過した後、自分たちの教室に入った。

出席番号順に席に着く。出席番号1番の一之瀬の隣に、たまたま7番だった私が座った。

「改めて宜しくお願いします、秀美さん。」

律儀に綾香が頭を下げる。それよりも私は、今自分の身体を包むふかふかの革張りソファが気になっていた。いくらエリートの私とはいえ、中学までは全員共通で木の椅子だった。

しかし、この学園ではそれぞれに1人掛けソファが支給されている。ダークブラウンの長机の上には、すでに羽ペンや万年筆等の筆記用具が完備されていた。


「すごく豪華ですね!テンション上がっちゃいます!」

という綾香の意見に激しく同意した。


まもなく、教室の教卓に茶色いセミロングの1人の若い女性が立った。

「皆さん、入学おめでとう。私はここC組の担任をする川瀬なずなと申します。」

この人が担任か……。と思いながらぼんやり眺めていると、川瀬先生は足元の箱からなにやら小さいバッチとステッキを取り出した。


「早速ですが、皆さんに変身用のバッチと魔法ステッキを配布します。」

きた。私はこれが楽しみだったのだ。この学園では在学中に任務をこなすこともあるので、最初から本格的な指導をしてもらえるのだ。


先生の手からバッチとステッキを受け取った。周囲の生徒も嬉しそうに受け取っている。私は手の中の青い派手なリボンがついた金色のバッチをしげしげと眺めた。

これで本当に変身できるのか……?


「では、早速魔法少女のコスチュームに変身してみましょう。皆さん、起立して下さい。」


これからの学園生活を想像すると胸が高鳴る。時折自分が男だということも忘れそうだ。


……待てよ。変身の際、もしかして一瞬全裸になるんじゃないだろうか?

嫌な予感が頭をよぎった。これでもし私が男だとバレたら……?

先生に言われるまま、周囲の女子が立ち上がる。

私は入学早々退学の不安を抱えながら、そっと立ち上がった。


感想、アドバイスなど貰えればとても嬉しいです!

定期的に更新できるよう努力します。

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