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ジャンの物語  作者: N・クロワー
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バートマンはハイキングがお好き?




 ジャンはすぐさま立ち上がると、残りの昼食をかっ込み食堂から駆け出した。


 兵舎前に到着すると、バードマンは既に仁王立ちで待ち構えており、足元に置いた物を指し言った。


「着替えろ、1分以内だ!」


「はい! サー」ジャンはバードマンの足元に置かれた着替えを手に取ると、最高速度でそれに着替えた。 


 深緑にコートに白いズボンを履きベルトを締めた。『付属幼年学校(予備士官候補生)』の制服で有る事はジャンにも分かった。最後に置かれた背嚢を背負いバードマンを見た。


「着替え! 終わりました! サー」気をつけの姿勢でその場に立つ。


「これから『クソ(貴様)』に与えるのは俺の愛だ!」そう言うとマスケットをジャンに渡した。


「それは何だ!」


「はい! サー! リコイル・フィールド社製! N14騎兵銃で有ります!」イグノス軽騎兵の正式採用銃だった。


「そうだ! それはお前の相棒で有り恋人だ! お前の恋人(N14)の名前は何だ!」


「…え?」急に振られ頭が真っ白に成った。


「避妊したのに生まれた『クソ』なのかお前は! 俺がお前を殺す前に恋人(N14)の名前を答えやがれ!」


「はし! サー! クイン(N14)であります!」何故か口から出た。


「それが貴様の『マス』を手伝った女か! 安心しろ! 今頃他の男がそいつ(クイン)の『ケツ』に『ナニ』を突き刺してる! 貴様はそれ(N14)(銃口)に突っ込めばいい!」


「はい! サー!」地獄では感情など要らない。


「良い返事だ! 俺のお袋とファックしてもいいぞ!」それらしく成ってきたジャンの顔に機嫌良く言った。


「光栄で有ります! サー!」ファックを許可されてもジャンはそれを知らなかった。知っていたら嘔吐しただろう。




「気をーつけ!」一瞬有った人間としての顔を、鬼畜のそれに変えバートマンは声を上げた。


「休め! 今から、行軍訓練を始める! 目的地はカラヒー山の頂上だ!」言うとバートマンは遥か先に見える小高い山を指した。


「はい! サー!」ジャンは抵抗と言う言葉を消去することにした。


「正規兵は6時間で往復する、貴様に与えるのは8時間だ! それを超えたらウジムシのクソの餌にするぞ!」


「はい! サー!」これ以上の『クソ』に成るのは嫌だった。


「駆け足ー! 進め!」

 バードマンの声を背にジャンは駆ける、ジャンの中で敵はもはやバードマンでは無く自分を今の状況に追い込んだ大人達だった。無事に『シャバ』に戻り、一泡吹かせる! ジャンは決意を胸に山に向かって駆けた。




「はぁ――はぁ――」勢いだけで駆け出してみたがカラヒー山の頂は遠く、ジャンは胸に込上げる昼食を抑える事に必死だった。


「うげぇ――」暫く走ると、ジャンは喉元に上がるそれを我慢出来ずに、走りながら吐き出した。赤い唾液とスパゲッティがジャンの口から飛び出し道を汚した。


「口から出すのは『クソ』だけにしろ! 今度食い物を出したら、それを貴様(クソ)の餌にするぞ!」バードマンはジャンと並走しながら余裕の顔で罵声を浴びせた。


「申し訳ありません! サー!」袖で口を拭うと前を睨んだ。 手に持つN14()は銃身を詰めたカービンとは言えジャンが持ち走るにはかなりの労力が必要だった。背負う背嚢のベルトが肩に食い込みジャンは投げ捨てたい気分で一杯だった。





 5時間を掛けジャンは慢心創意ながら何とか頂上まで走りきった。山頂の岩に手を付き自分の健闘を称える。


「よし……」汗を拭い小さく呟いた。


「何休んでるんだ! ケツにそれ(N14)突っ込まれたく無かったらさっさと動きやがれ!」


「はい! サー」コイツは鬼だ! 鬼爺だ! 今だジャンの鼻先で叫ぶブルドック(バートマン)を見て思った。


「今、5時11分後三時間も残ってないぞ! 飯は食いたく無いのか! 『クソ』は自分のクソを夕飯にしたいのか!」


「申し訳ありません! サー!」飯抜きはキツイ。


「自分の『クソ』を食えると思うな! 貴様が食うのは俺の『クソ』だ!」


「はい! サー!」そんなプレイはゴメンだった。






 ジャンは歩むバードマンと並走しながら走り、日が落ちて幾分か経った頃兵舎に戻った。


「気をーつけ!」疲れきり今にも泣き出しそうなジャンを睨みつけた。


「時間内の帰還は出来なかったが、貴様なりによくやったと思う。誇りに思え!」犬歯をむき出しにして始めて笑顔をジャンに見せた。


「有難うございます! サー!」『クソ』を食わずにすんだ! ジャンはほくそ笑んだ。


「いい返事だ! 俺も『クソ』の成長を見れて嬉しく思う! それでは腕立て100回の後解散とする! 腕立てよーい!」笑顔で言い放った。


「さ、サー!」一瞬夢だと思った。こんな残忍な人が世に居て良いのか! バードマンにも等しく精霊の加護が有ると思うと、やり切れなくなった。


「1――!」無慈悲にも死へのカウントが始まる。


「ムゥゥ……」軋む腕に構わず身を下げた。

(限界を超えろ! 俺!)苦痛に歪む顔に不気味な笑みが毀れた、ジャンは新しい何かが自分の中で芽生え様としている事を感じた。 




 結局の所、ジャンは自らの力で一回も腕立てを完遂する事なく、バードマンに背を摘まれ100回の試練を終えた。『クソ』は食べずに済んだが、夕飯は食べれなかった。




 そしてジャンは途方に暮れた……





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