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ジャンの物語  作者: N・クロワー
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二丁拳銃




「中佐殿、お聞きしたい事が……」スミノフは小声でファンジオに話しかけた。


「何だ?」


「いえ、あの、甥子様のお名前に、いや、聞き間違いかもしれませんが……『A』が入って居た様な気がしまして……」自分の耳を信じれない様子だった。


「聞き間違いでは無い、ジャンはウィストン王と杯を交わした」


「ウィストン様が!さすが、優秀なんですね」言うと妙に納得した顔でジャンを横目見た。



 店内に一瞬、静寂が漂いウィルキンソンはおもむろに奥の棚から革張りの黒い箱を取り出し、ガラスケースの上に置いた。


「これが、そうだ」短く言った。


「何これ?」自分の目の前にそれを置かれ今一状況が分からなかった。


「ウィストン王が卒業と任官のお祝いとして君に容易したそうだ」ファンジオが状況を伝えた。


「オヤジが!?」ジャンの言葉にスミノフは驚愕しウィルキンソンは肩を揺らし笑っていた。


 ジャンは『オヤジ』と言う言葉に二人が反応して要る事に気が付いていたが、説明が面倒なのでスルーした。


「見てもいい?」今だ笑うウィルキンソンに言った。


「もちろん。君の物だ」笑いを堪え真面目な顔をした。


「それじゃ……」


 ジャンは一瞬ファンジオに視線を移し、すぐ目の前の箱を睨みつけると、肌触りの良い牛革の箱をゆっくりと開放した。


「これは……」箱の中には、黒々とした二丁の美しいピストルが入っていた。フレームは塗装されてる訳でも無いのに、見た事も無い程黒く光る木で造られており、描く曲線はしなやかで細く、まるで女性の裸体の様に見えた。対して銃身は鏡の様に光っていて、ジャンは自分の顔が映って見えた。


「コルク・ピースメーカー……?」とりあえず記憶を探り、ウィルキンソンを見上げた。


「正解!っと言いたい所だが、これはコルク社製じゃ無い、ティンバー社の物だ」


「これがティンバーカスタム……」ジャンも聞いた事は在った。

 

 オリジナルのピースメーカーよりも数段上の素材を使い最高の職人がそれを造る。元々はイグノス唯一のライフルメーカでそれの仕上がりの良さに感激したコルク社の役員が自分様にと友人であるティンバー社の社長にピースメーカのコピーをオーダーしたのが始まりだった。今でも一般に販売される事は無く『ピースメーカー・ティンバーカスタム』と言えばお金持ちガンコレクターが金を積んでも買えない銃として、有る意味有名だった。


「しかも、これはライリーン・ビンセントが組み付けを担当した一品だ」驚きに戸惑うジャンに追撃する様にウィルキンソンが言った。


「ライリーン・ビンセント!!」彼の名前を聞きジャンの瞳が一際大きく輝いた。ユーリア圏で最も有名なガンスミスをジャンが知らない筈は無い。


 ウィルキンソンは一丁取り出し、ジャンに見えるよう持ち、口を開いた。


「フレームは最高級のエボニーを使いオイル仕上げ、グリップは鼈甲を使っている。トリガー、込め矢の金属部品はステンと言う古代金属、装飾はプラチナ、発火はパーカッションロックを用いる。銃身はライリーン自身の手に寄るステンミラー仕上げ、40口径の三条右回り、ライフリングピッチは--」そこまで言うとジャンの声に邪魔をされた。


「ライフルなの!!!」想像を絶するスペックに、もはや興奮の玉手箱である。


「……そうだ」自分の御託を邪魔した人間を見つめ短く答えた。


「すごい!……でも」一抹の不安がジャンを襲った。


「僕の力で装填出来るかな……?」美しい銃にハンマーで弾丸を叩き込むなんて事はしたく無かった。


「はは、それなら大丈夫、ミニエールの新型弾丸を使う」言うとドングリの様な形の弾丸をカウンターに転がした。


「丸く無い!何!このコルク!?」弾丸の底部に有るコルクを奇妙に眺めた。


「その弾丸の底部には窪みが有ってな、発射するとコルクが圧力で押し込まれスカートの様に底が広がりライフリングに弾丸を食い込ませるんだ。だから弾丸の大きさは銃身の内径より小さく済む」


「なんてこった!」世紀の発明を目の当たりにしたジャンは使った事も無いセリフを叫んだ。


「心配は無くなったか?」喜びを隠せないジャンを微笑みながらウィルキンソンは見ていた。


「うん!」言うと箱の中に有るもう一つのピースメーカーを手に持った。エボニーと鼈甲、金属がジャンの体温を奪い心地よい感触をジャンは感じた。


「さすがに似合うな、ほれ」ウィルキンソンは自分の持っていたそれをジャンに渡した。

「その二丁は対でな、今渡したのが『エレノア』始めに持っていたのが『ノアール』って名前だ」


「へぇ、名前あるんだ、区別付くかな……」


「微妙に違うから大丈夫さ」

「後はこれだな」言うとパトロンに包んだ弾薬が詰ったケースをカウンターの上に置いた。


「すごい量だね」


「すぐ無くなるさ、無くなったら自分で包むか、此処に獲りにくればいい」ウィルキンソンは言うとジャンに黒い物を手渡した。

「これは俺からのプレゼントだ」


「有難う、ウィルキンソンさん」

渡されたホルスターを腰に付けピースメーカーを収めた。(やばい!俺カッコイイ!!)妄想の中へダイブしたジャン止める術を三人は知らない。



「それにしても短期間でよくそんな物準備できましたね」ファンジオが関心した様に言った。


「そうだな」言うとフッと笑い続けた

「彼の為の物だからな、皆喜んで協力してくれた」優しい目で一人はしゃぐジャンを眺め、当たり前の様に呟いた……





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