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ジャンの物語  作者: N・クロワー
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『連合の赤い奴』の息子



「やっぱりさ……」訪れた静寂を破りジャンが発した。


「やっぱり、なんだ?」遠くを見ていた店員の瞳は既にジャンに照準を合わせていた。


「やっぱ、その赤い馬は3倍速かったのかな?」真剣な顔で店員を睨んだ。


「なんだそりゃ!?って何で3倍なんだ?」意味不明な質問に驚きで返した。


「だって赤いんでしょ?」もはや理由にすら成らない。ジャンの中で赤は何故か3倍だった。


「色で速度が変わるなら、皆馬を赤く染めるさ」店員は下らない質問を冷静に返した。


「普通3倍だと思うんだけど……」否定されたそれをジャンは諦めなかった。






「ジャン!待たせたな」勢い良く扉を開け入って来たファンジオが開口一番に言った。


「全然待ってないよ、今『連合の赤い奴』のお話を聞いてたんだ!伯父さん知ってる?」ジャンがグリーンの瞳を輝かせ笑顔で答えた。


「連合の……」ファンジオは驚いた顔を見せ、店員を睨みコメカミに青筋を立てた。


「貴様……いったい何の権利で--」そこまで言うと店員に言葉を遮られた。


「クレーガ中佐!!ご無沙汰しております!」店員は今までのジャンへの態度と180度違う姿勢で、ファンジオに敬礼した。カウンターに隠れ見えない踵を揃え、額に添えたゴツゴツした手の平はプレスした様な揃い具合だった。


「……誰だ?」見た記憶の無い顔に怪訝に返した。いつもジャンに見せる優しい目は、まるで別人の様に冷たく、瞳の色がそれを加速させていた。後ろに流した金髪が風も無い店内で何故か靡いた。ジャンはポッケのモルの様子がおかしい事に気付き精霊を感じた。


「自分は!一昨年まで中佐殿の率いられて居た、第4軍古参戦列歩兵第8大隊に所属していたスミノフ予備役二等軍曹で有ります!」一息で言い切り、潤んだ瞳でファンジオをスミノフは見た。


「そうか……スミノフ予備役二等軍曹、久しいな。その後変わり無いか?」思い出せない代わりに溜飲を下げ、まるで思い出したかの様に、笑顔で返した。


「はい!昨年、中佐が部隊を去られた事を機会に、自分は!予備役に退き、実家の店を手伝っている次第であります」


「そうか!二等軍曹はウィルキンソン殿の次男だったな」ファンジオの記憶の糸が繋がった様だ。


「はい!再び、この様な形では有りますが!中佐殿にお会い出来た事、大変光栄に思います!」まるで初恋の人に遇った様な態度を見せるスミノフに、ジャンはドン引きした。


(まさか!そっち系の人だったとは……)勘違いし、噂に聞く性同一性障害を冷静に考えた。


「そうか、元気そうで良かった」ファンジオは熱烈なスミノフに冷静に返した。


「有難う御座います!」言うと、やっと手を額から下げた。


「それで……本日のご来店の目的は……?」さすがに自分に会いに来ただけ、とはスミノフは思わなかった。元々会いに来た訳でも無いが……


「ああ、今日来たのは、私の甥の為でね」言うとジャンを見た。


「!!中佐の甥……まさか!!」言うとスミノフは瞬き一つせず、『連合の赤い奴』の忘れ形見を凝視し、自分が犯した罪の深さを知った。

「中佐……申し訳在りません、自分は……」肩を落としファンジオに頭を下げた。


「過ぎた事は気にするな、ジャンはもう大人だ」ファンジオはジャンのポッケに有る赤いリボンを思い出した。


「どうかしたの?」様子のおかしい二人にジャンは言った。


「何でもないタダの昔話さ」ファンジオはライバルのジャンに冷たく返した。


「そっか」深くは聞かなかった。聞くと自分もそっち側に参加させられる!ジャンはそう思った。





「それでウィルキンソン氏は?」不意にファンジオが言った。


「親父ですか?今工房でして、今すぐ呼んできます!!」スミノフはカウンターの奥に有る扉を開けると、中に消えていった。


「仲良かったの?」探りを入れる、未だ疑惑だがはっきりさせたかった。伯父がそれならば自分も覚悟を決め、アンやミリーに伝えなければいけない。


「いや、普通だと思うが」


「へぇ……」尻尾を出さない伯父を恨めしく思った。




 スミノフが奥に消えて数分、ジャン達の前に丸い眼鏡を掛けた男がカウンター越しに現れた。


「待たせたな、クレーガー」皺の深い褐色の肌に切れ長の黒い瞳、伸びた白髪を後ろで縛り、横柄な態度でその男はファンジオに声を掛けた。


「いえ、お忙しい所申し訳ない」それが当たり前の様に返した。ジャンはファンジオがこの男とも、その関係なのかと鋭い目で睨んだ。


「その子か?」ジャンと目が合った。


「そうです。ご存知で?ウィルキンソン殿?」


「王から大体の事はな……」意味深にファンジオに視線を移した。


「預かって来たんだろ?此処に来たってことは旨く事が運んだって事か」


「はい、無事ジャンはウィストン王と杯を……」言うと、預かっていた紙をウィルキンソンに差し出した。


「確かにそのようだ」受け取ったそれを一目見ると再びジャンを見た。


「私は、この店の店主ウィルキンソン、君の名を教えてもらえるかな?」


「僕は!ジャン・リュック・A・ウォーカです!」恐怖を払う様叫んだ。ジャンにその趣味は無い。


「はは、懐かしい感じだなクレーガー。お前と奴が始めて店に来た時を思いだすよ……」影の有る笑顔で言うとジッとジャンを見据えた。




「Aってまさか……」『連合の赤い奴』の息子に、イグノスでは王族だけが付ける『A』の文字が有る事をスミノフは聞き逃さなかった……






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