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ジャンの物語  作者: N・クロワー
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王と卵




 窓際のデスクから外を見ていた男は振り返るとジャンに微笑んだ。


 グレーのフロックコートを着込み髪はまだ黒く頬は痩せて居るものの瞳は黒々と光っていた。


「ご無沙汰しております。ウィストン王」踵を揃え敬礼をした。


「本当にそうだなクレーガー、今は中佐らしいな、契約者付き大隊を率いていると耳に挟んだが」王は立ち上がるとファンジオの元まで行き、返礼をした。


「はい、昨年から中央古参軍団、騎馬擲弾兵第13大隊を預かっています」敬礼を解くと王の出した手を強く握り返した。



「13大隊とは、運命とは面白いものだな……まあ私としては君がリリステルに居てくれて心強いよ」

 ウィストンはそう言うと歯を見せて笑った。


「お二人とも、国王近衛騎馬擲弾兵連隊の出身なんですよ」

 二人の会話を不思議そうに聞いていたジャンにピスタが耳打ちした。ジャンがピスタの言葉に耳を傾けていると、ウィストンがジャンに歩み寄ってきた。


「少し待っていてくれるかい?」ウィストンは優しく微笑むとジャンに言った。


「はい」

 ジャンは頷くとピスタに案内されフカフカのソファーに腰を降ろした。ファンジオとウィストンが仲良く会話する様をジャンは不思議に思った。


 ピスタから熱い紅茶を貰い、スプーンに山盛りの砂糖を入れるとジャンはそれを口に含み目の前にある箱に目を奪われた。


 四角の銀色の箱は、不気味に光り、得体のしれない異様な雰囲気を纏っていた。ジャンは吸い寄せらえる様それに近づいて行った。


 30インチ四方程の箱は角々がまるで面取りされた如く綺麗な曲線を描き、ジャンが隅々を見ても継ぎ目など見当たらなかった。箱の天板には菱形を四つ花弁の様に模った模様が書かれ、その下に見慣れた文字が目に入った。


「よ・つ・び・し・じ・ゆ・う・こ・う……」見慣れた文字だが見た事の無い綴りに思わず口を動かした。


「小竜の卵だよ」言いながらウィストンはジャンの肩に手を掛けた。ジャンはビックリして一瞬肩を揺らしたが、振り返ってウィストンの表情を伺うと、落ち着いた様子を見せた。


「小竜の卵?これが?」ジャンは言葉使いも忘れウィストンに問うた。


「ああ、見るのは初めてかい?」ウィストンはジャンに視線を合わせる様に屈んで見せた。


「うん……はい、初めて見ました。中身は有るんですか?」不意に目の前の人物を思いだした。


「恐らく。未だ生まれていないからね」顔を動かさず卵を横目みた。


「何時生まれるか分からないんですか?」今すぐ生の小竜が見たかった。


「さあ……今日かもしれないし、100年後かもしれないこの国に来て120年、発見されたのは1500年程前らしい」


「そんな昔に!」ジャンが目を丸くした。


「驚く事は無い。世界には孵化して居ない小竜の卵が300以上はある」ジャンのリアクションにウィストンは嬉しくなった。


「無理やり割るとか?」手っ取り早い処置を提案してみる。


「卵を?我々の力じゃ傷一つ付かんよ」ウィストンが笑って言った。


「触っても?」孵化を諦めたジャンがウィストンを見上げた。


「もちろん」


 ジャンは天板の模様をなぞる様に卵に触れた。ひんやりと指に伝わる感触は見た目以上に無機質でまるで鉄の何かに触れている様だった。ジャンにはこれが卵だとは思えなかった。


「この模様って……?」見慣れた文字が意味無く綴られている事が不思議だった。


「ああ、それか。我々が使う文字と同じ物だな。綴り方は違うが」


「誰かが書いたんですか?」


「太古の人々らしい。それもバビロが生まれる3000年も前に彼らは小竜の卵に文字を入れる高度な技術を持っていた……」意味深に言う。


「すごい!でも綴りがおかしいです……」ジャンの習った物とは違いすぎた。


「我々の使うそれとは違うが……君は東の果てに有る『島京』と言う国を知っているかい?」


「トウキョ--聞いた事ないです」鳥の鳴き声じゃ有るまいし、素っ頓狂な国名に、かの国の趣味の悪さを考えた。


「まあ無理も無い、イグノスからは遠すぎる国だからな。だがその国の言葉が小竜の卵に刻まれているそれに最も近いとされている」


「そんなに遠いのに同じ文字を使うんですか?」最もな疑問だ。


「いや、そうじゃ無い。彼らは独自の文字を使う。ただ刻まれた文字の発音が『島京』のそれに近いと各国の学者達は言っている」


「発音……何て書かれているか分かっているんですか?」態々なぜ違う文字を使う!そう思った。


「うむ。まず『よ・つ・び・し』とは上に書かれている、その花弁を表す言葉らしい」


「これですか」確認する様指した。


「そうだ。『よ・つ』とは数字の4を表す。『び・し』その花弁の形を表すらしい」指で数字を表しジャンに説明する。


「意味は!?」


「太古において『び・し』は『ダイヤモンド』っと言った意味があり、恐らく『光り輝く物』の比喩では無いかと言われている。それが四つ集まっている。意外に君には身近だと思うんだが……」


「まさか……精霊ですか!」光り輝く四つの物!それしか思いつかなかった。


「そうだ。あの四つの花弁は4大精霊を表している。所謂、火、水、風、土、だな」


「そうしたら、『じ・ゆ・う・こ・う』はどう言う意味ですか」


「はは、好奇心旺盛だな。まず『じ・ゆ・う』は数字の10を表す。そして『こ・う』はそのまま『公』位の高い人間、恐らく貴族又は皇帝を意味する言葉と考えられている」


「皇帝……」


「そして全てを繋げると一つの結論が導きだされる」ウィストンが得意げな顔でジャンを蛇の様に睨んだ。


「……」ジャンは蛙になりそうだった。


「それは、十人の皇帝が四大精霊の力を使い小竜を生み出した!っと言う事だ」ウィストンは拳を握り締め言い放った。


「全てのつじつまが合います!」全てを理解した訳では無かったが、この返答が無難だと思いジャンは声を上げ言った。


「まだ仮説だがな」行き成り冷静さを取り戻したウィストンが肩を窄めた。


「中に居る小竜に聞けば分かるんでしょうか?」


「そうかもしれないな」言うとウィストンはジャンから視線を卵に移し、それを眺めた。






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