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ジャンの物語  作者: N・クロワー
19/32

王の元へ

ご覧頂有難うございます。




 ジャンが試験を受けた次の日グランの秘書がファンジオの家に訪ねてきた。彼はもっていた手紙をファンジオに渡すと帰っていった。


「ジャン、謁見の日取りが決まったぞ、明後日だ」受け取ったそれに目を通し言った。


「明後日か……緊張するな」ジャンは顔を強張らせた。


「そんなに緊張しなくてもいい、別に獲って食われる訳じゃない」あっけらかんとファンジオが言った。


「そうだろうけど……」能天気な伯父を恨めしく思った。


「何話せばいいんだろ?」考えを巡らせる。


「ジャンはいつも通りでいいさ」


 適当なファンジオの言い草にジャンは考える事を諦めた。


「成るようになるか……」子供とは思えない一言を呟きジャンは応接間を出て与えられた部屋に帰った。




「ジャン!起きなさい!」ミリーが勢い良く、ジャンの上掛けをまくり上げた。


「もう朝なの?」いきなり温もりを奪われたジャンは体を丸め、薄目でミリーを見上げた。


「そこに今日着る服置いてあるから、着替えて降りてきなさい」


「わかったよ」

 嫌々ベットから這いづり出ると、机に置かれた一張羅を着込んだ。

 濃い緑色の上着をフリルのついたシャツの上から羽織り、唾で髪を整えると鏡の前に立った。


「行くぞ!おー!」とりあえず叫び気合を入れた。


「今日は緊張して無いのかい?」支度を整え、煙草を片手にコーヒーを飲んでいたファンジオが言った。


「寝たら治ったよ」まるで風邪でも引いていた様な言い草にミリーは噴出した。


「今朝は食べるんでしょ?」


「昨日の分もね!」ジャンがお腹を擦りながらテーブルに着いた。

 籠に入ったパンを全て食べつくすと、ファンジオの分のスープまで飲み干し、それでも足りない素振りを見せた。


「リンゴでも剥きましょうか?」

 ミリーの発言にジャンは激しく頷いた。


 三つ目のリンゴにジャンが取り掛かった時、玄関の叩き金が鳴る音がダイニングにも聞こえた。


「迎えが着いた様だな」


「もふいごお?」口いっぱいにリンゴを詰め込んだジャンが言った。


「ああ、残りは帰ってからだ」新聞を脇に挟むと、ファンジオは席を立った。


 ジャンは口に含んだリンゴをミルクで流し込み、机の上のモルをポッケに入れるとファンジオを追った。



 二人が乗り込んだ馬車は、街の中心を通りすぎ外れの川を渡った。川を越えると急に建物が少なくなり、大きめの屋敷がポツポツ見えるだけだった。

 石畳の道は小高い丘に向かって伸び、丘の頂上に一際大きい建物が見えた。


「あの大きい家?」ジャンが車窓から顔を出して近づいてくる建物を指した。


「ああ、あれがイグノスの王宮だ」



 王宮の門の前には、赤いチュニックに純白のサッシュを肩から掛けた衛兵が立っていた。


 馬車はそこまで行くとゲートに阻まれ門の前で止まると、詰所から名簿を持った兵が出てきた。


「久しぶりだな准尉、いや今は中尉か」ファンジオがそう言うと中尉と呼ばれた兵が敬礼し、ファンジオが返礼した。


 中尉がゲートを開く様指示すると、馬車の前に在るがっしりとした柵が上がり、馬車は王宮へと入った。


「知り合いだったの?」ジャンがファンジオを見た。


「ここの衛兵は国王近衛擲弾歩兵連隊が勤める事が代々の習わしだからな、昔の部下さ」


「へー」ジャンは関心した様に頷いた。


 馬車は噴水を囲む様に伸びる石畳の道を走り、白亜の城とも呼べるそれの前に乗りつけた。白い石灰岩の石柱が幾つも聳えるそれは宮殿と言うよりは神殿にジャンは見えた。



「すごい建物だね」馬車を降りたジャンは石柱を見上げ言った。


「国王の家だからな。国として虚勢を張る事も必要なんだ」


「どーいう事?」


「見栄を張らなきゃ舐められるって事さ」


「学校と同じだね」ジャンが唇を突き出し考え深く言った。


「そうだな」聞いたファンジオは目を細めジャンを見た。


 二人が石柱の奥に見える黒く浮かび上がる扉に向かうと、脇から黒いモーニングコートを着た男が出てきた。白髪を髪油で綺麗に後ろに流し、プレスされた縦縞のズボンには皺一つ見えなかった。コートのポケットから銀の鎖が着いた懐中時計を取り出し、一目置くと口を開いた。



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