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ジャンの物語  作者: N・クロワー
17/32

卒業試験は突然に

いつもご覧頂有難う御座います。



 翌日の朝ジャンが目を覚まし、ダイニングに降りるとファンジオは出掛けた後らしく、ミリーが朝食をテーブルに並べていた。


「お早う。良く寝れた?」


「うん伯父さんはもう居ないの?」


「5分ほど前に出て行ったわ。私達も食べたら出発よ」捲った袖を下ろしながらミリーがテーブルに着いた。


「教育庁って遠いの?」目玉焼きを突きながらジャンが聞いた。


「私も行った事は無いけど、契約者統括庁の近くなんですって」


「今日、試験なんでしょ?大丈夫かな?僕、勉強していないけど……」ジャンが落ち着かない様子を見せた。


「何とか成るわよ。試験なんて建前なんだから」

 ミリーは他人事の様に言ってみせた。


 ジャンは出された朝食を平らげると、ミリーが選んだ服を着て家を出た。


 家の門の前には御者が馬車の前で二人を待っていた。ミリーが行き先を告げると、軽く頷きミリーをエスコートした。ジャンが乗り込むと御者はドアを閉めすぐに馬車は走りだした。


 ジャンは車窓から見える早朝の街を興味深く眺めた。


「あの人達はどこへ行くんだろ?」手弁当を下げた作業着の一団が二人を乗せた馬車とすれ違った。


「あの子、僕と同い年くらいかな……」ジャンは帽子を被ったグレーの上着を着た少年を指差した。


「そうね、川沿いの工場に行くのよ。ジャンと同い年くらいの子も沢山働いているわ。小さい体が機械の隙間に入るのに調度良いみたい」


「立派だね」ジャンが虚ろに言った。


「ええ……」ミリーはこれからのジャンを思うと、工場で働く子供の方が幸せだろうと思った。


 馬車は暫く走ると、華やかな街の中心を横切り、レンガ造りの建物が立ち並ぶ通りに入っていった。


「到着です。ミス・クレーガー」

 御者台から振り向きそう告げると馬車を止めた。

 二人は馬車から降りミリーが御者に待って居る様に、と頼んだ。


「二人とも!こっちだ」

 グランが建物の入り口で手招きしていた。


「おじさま、お久しぶり」ミリーはグランに駆け寄ると頬にキスをした。


「お早う御座います」ジャンが続いた。


「ああ、お早う。ぐっすり寝れたかい?」

 そう言うとグランはジャンを撫でた。 ジャンは頷いてみせた。


 グランを先頭に三人は屋内に入った。ロビーでは役人と思われる男達が煙草を片手に談笑していた。


 グランは男達に主賓の到着を知らせると二人を連れ建物の奥へと足を向けた。


 三人は綺麗に磨かれたピカピカ光る廊下を歩いた。一つの扉の前でグランは立ち止まると、それを開け二人を誘い入れた。

 扉に応接室と書かれたその部屋には沢山の黒い革張りのソファーがコの字状に配置してあり、左端の席にはすでに男が座っていて、ロビーに居た男達も続いて部屋に入って来た。


「その子かい?」

 初めから部屋に居た男が口を開いた。


「そうだ」

 グランは二人をソファーに座らせると、自分もジャンの横に腰を預けた。


「その人が教育庁の長官、ダイス氏だよ」銀髪を横分けした男を指しグランが言った。


「そしてこっちの若いのが、幼年学校の校長シャープ大佐」


「若いって、私は今年46ですよ」苦笑いを浮かべシャープが返した。


「一番怖い顔のあの人が、国軍省の教育管理官」グランが最後に入って来た軍服姿の男を指した。


「よろしく。グルップだ」言うと表情を崩さずジャンを見つめた。


「ジャン、皆さんに自己紹介を……」ジャンの膝に手を当てミリーが言った。


「初めまして、ジャン・リュック・ウォーカーです」立ち上がり言い、頭を下げた。


 部屋中の目の、品定めする様な視線がジャンに刺さった。


「うむ、さっそく始めるのか?」

 グランは一同を軽く見回してから、グルップに視線を移した。


「そうですね、時間が勿体無いので早速始めましょう」

 そう言うとグルップは横にいた従者に目で合図した。


「ウォーカー君、こっちへ」従者に案内され、ジャンは隣の部屋に移動した。


 長テーブルを椅子が囲み、壁には大きな黒板が架けられていた。部屋には既に二人の軍服姿の青年が待っていた。

 ジャンは席に着く様指示されると手近にあった椅子に座った。青年の一人がジャンの前にビッシリと黒いインクで文字が書かれた用紙を置いた。


「分からなかったら言っていいぞ」不安そうなジャンの顔を見て従者が気を使った。


 ジャンはコクリと頷くとテスト用紙をまじまじと眺めた。

 

 ゆっくり一通り目を通しジャンは悟った(これは……あれだ……無理、全然意味分かんない)


 武器の扱いの問題は何となく理解出来たが、他の数学や戦術、兵站に関しての問題はさっぱりだった。


 ジャンは腕を組み暫く考える振りをした後、おもむろに顔を上げ従者の目を見た。従者は目が合うとジャンの横に座り最初の問題から答えをジャンに教えた。

 他の二人の青年はジャンから白々しく目を逸らし、窓から見える風景を楽しんでいた。


 従者の力で全ての問題に正解を埋め込んだジャンは複雑な表情で席を立った。


 すぐに二人の青年は答案の採点を済ませ、ジャンが応接室に戻って一息付くと結果を持って来た。


「どうだ?」それを受け取ったグルップにグランが聞いた。


「満点ですね」表情を崩さずグルップが答えた。


「さすが、ジル・ウォーカーの息子だな」ダイスが小さく呟く。


「では、幼年学校については解決したな」グランがシャープに目を向ける。


「そうですね、ただしウォーカー君には、視察の名目で暫く幼年学校に通って頂きますが」シャープはジャンに視線を移すと薄い笑顔を浮べた。


「よしよし、後は王と『杯を交わす』だけだな」グランは満足気に蓄えた髭を撫でると煙草を摘みだした。


「謁見はいつ頃なんだ?」ダイスがグランが銜えた煙草に火を向けながら言った。


「今週の予定なんだが」


「それにしても、ウィストン王がこのような事をなさるのは初めてじゃ無いですか?」シャープがダイスを見て言った。


「ああ、ベニスコーの誓いの日から王は小さい事でも国政に関わる事に口を出した事は無い。今回が初めてだ」


「まあ、これがギリギリと言った所でしょう」グルップがジャンを横目に言う。


「そうだな。私は十分、王に感謝しておるがの」

 グランはそう言うと席を立った。ジャンとミリーもグランにつづいた……





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