グランの思惑
ご覧頂有難うございます。
「ウィストン王がジャンを養子に!?」ファンジオは興奮した様子を隠そうともしなかった。
「ああ、ジャンの家族が好いなら是非にとまで、言ってくださっている」
「……アニエル皇太子の事故のせいでしょうか?」少し考える様子を見せ,直ぐに言う。
「それも否定は出来んがな」
アニエル皇太子はウィストン王の一人息子で8年前に新規契約時の事故で無くなっていた。8歳だった。
「煙草を吸っても宜しいでしょうか?少し落ち着きたいので」ファンジオが言った。
「もちろん、この部屋で君は何も私に気兼ねする事は無い」
ファンジオが煙草入れを取り出そうとポケットを探るとグランが自分の煙草入れを差し出した。
「二級品だが……」
「いただきます、少将」
ファンジオは飾り気の無い両切り煙草を一本つまんだ。
「私はこれが好きでね、この武骨で荒々しい味わいが、昔の戦場の……血と草と硝煙の匂いを思い出させる。君やジルと駆け回っていた頃のな……」
グランはそう言い深く煙を吸い込んだ。
「しかも税金が安い!」言葉の終わりと同時にグランはジャンに微笑んで見せた。
まさにその通りとジャンが頷いた。
それを見たグランがジャンに煙草入れを差し出し勧めた。ジャンは横目に映るファンジオの目がアンのそれに見え怖くなり丁重に断った。
「禁煙中です!」
聞いたグランは大声で哂った。
ファンジオが俯き、肩を細かく揺らすそれをジャンは見逃さなかった。
(この恨み晴らさずに置くべきか……)
「ジャン,君はそれでいいか?」思考に耽るジャンにファンジオが唐突に振った。
「養子の事?僕、母さんの子じゃ無くなるの?」
「いやそうじゃ無い、この国じゃ昔から有る習慣なんだが……ジャンはイグノス4大騎士団は知っているかい?」ファンジオが聞いた。
「もちろん!」それ系マニアのジャンには愚問だ。
「代々4大騎士団の団長には、その息子に継がれる事に成っていたんだが、時代のせいか,選り優秀な団長を求める風習が出来てね、現団長は自分の子息が相応しく無いと判断すると、他の優秀な者に引き継がせたんだ。その時にしたのが養子縁組さ」
「ふーん」頷き返すがジャンの頭は爆発寸前だった。
「元々は東洋の文化でね、通常の養子縁組と区別する為に彼らは『親子の杯』と言う言い方をするんだが」
「何となく分かったよ」二人の小難しい会話に、いい加減面倒に成ったジャンが投げ遣りに言った。
「ジャン、悪い話では無いと思うんだが」神妙な面持ちでグランが言った。
グランと視線を合わせたジャンは、とりあえずファンジオに視線を移した。
「これに関しては君の意見を尊重するよ、私も悪く無いと思うが」ファンジオは真面目な顔をしていた。
「母さん怒らないかな?」ジャンは急にアンが恋しくなった。
「それは私が説明出来るが、正直これしか今は安全な道が無いんだ。君が断ると国外に逃がすしか方法が無くなる」
グランは申し訳なさげに言った。
ジャンは考え込む様子を見せ、暫くして口を開いた。
「分かりました。僕、養子に成ります!」
勇ましく放ったが、実の所半分しか理解していなかった。
「よし!決まったなら、すぐに使いを王宮に出そう」
ほっとした様子を見せるとグランは戸口に居た秘書を呼び寄せ、耳元で何か囁くと部屋から送りだした。
「謁見は何時頃でしょうか?」冷静を取り戻しつつファンジオが問うた。
「今週か遅くても来週中には出来ると思うが……」
「そうですか、至急準備した方が良さそうですね」
「そうだな」グランが頷いた。
「では、我々はこれで失礼致します」
ファンジオが目で促すとジャンもすぐにソファーから腰を上げた。
「ちょっと待ってくれ!」
グランは立ち上がり自分の机に向かうと引き出しから何かを取り出した。
「支度金の足しにしてくれ」そう言うとグランは中身の詰った牛革の袋をファンジオに押し付けた。
「いえ!!私にも蓄えはあります、それにこんな大金を頂く訳には……」袋の重みにファンジオは言葉を失った。
「取って置いてくれ。これでも少将だ士官に金が掛かるのは知っている」
そう言ってグランはジャンの頭に手をやった。
「有難うグランおじさん!」ニーナを3年は養える金額がそこに有る事をジャンは知る由も無い。
グランは満足げに笑みを浮べた。
「そ……それでは有りがたく使わせて貰います」二人の様子を見たファンジオが言い、それを上着のポケットにしまい込んだ。