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ジャンの物語  作者: N・クロワー
13/32

グラン・E・ブレンダー

ご覧頂有難うございます。




 ファンジオの家から5分も馬車を走らせると疎らだった建物が密集した様子を見せ始め、店先から香る何とも言えない美味しそうな匂いがジャンの鼻をくすぐった。


「これ何の匂いかな?」堪りかねたジャンが言った。


「ん、きっと子羊の串焼きだな、甘辛いソースで焼くんだ」


「へー、村じゃ食べた事無いや!凄く美味しいんだろうな。伯父さん食べた事ある?」ジャンの卑しい顔がファンジオの視線を横切った。


「帰りに買って帰ろう」ファンジオはこの場を収める最善の答えを知っていたようだ。


「うん」ファンジオにはジャンの笑顔が一瞬歪んで見えた。


 町の中心から少し外れた場所に精霊契約者統括庁は在った。一帯は役所が立ち並ぶ地域らしく、同じようなレンガ造りの建物が幾つも並んでた。

 

 ファンジオは馬車を止めると建物の一つを指した。

「ここだ、少将が首を長くして待ってる」

 ファンジオはそう言うと綺麗に切り出された石造りの階段を昇りながら入り口に立つ歩哨に目をやった。


 マスケットを抱えた歩哨はファンジオが階段を上り終えると敬礼して迎えた。

 ジャンは軽く会釈して入り口を通り過ぎた。


 受付と思われる所でファンジオが一言二言会話すると奥からメガネを掛けた男が出てきた。


「こっちだ」

 ファンジオがキョロキョロと辺りを見回していたジャンに声を掛けた。


 ジャン達はメガネの男の案内で三階の一番奥にある部屋に案内された。


「ここでいい」そう言って男を下がらせた。


 飾り気の無い重厚な扉がジャンの目の前にあった。銀で出来たネームプレートには長官執務室の文字が在りその下には、グラン・E・ブレンダーと彫られていた。


「ファンジオ・クレーガーです」ドアをノックしてファンジオが言った。


 すぐに秘書と思われる人物がドアを開け二人を迎え入れた。


「おお、無事に来れたか」

 恰幅の良い紳士が奥に見えた。丸い顔で髪の毛はお世辞にも沢山とは言えなかった。立派な口髭を蓄え、ジャンは髪の毛より髭の方が多いと思った。


 見ていた書類から目を放し眼鏡を外すと二人をソファーへと促した。


「お久しぶりです。グランおじさん」

 微かな記憶だがジャンはグランに見覚えが在った。


「よく来たな。長い事遇っていなかったが、益々アンに似てきたと思うのは私だけかな?」


「よく言われます」そう言うとジャンはグランに近づき頬にキスをした。


「母さんからです」ちょっと緊張しながら言った。

 グランは満面の笑みを浮かべジャンを抱き寄せた。


「君に精霊の加護が有る様に何時でも私は祈っているよ」

 グランはジャンの顔を見つめた。


「僕もおじさんに精霊の加護有る様願っています」


 二人のやり取りを見終えるとファンジオが口を開いた。


「少将、ジャンのこれからの処遇なんですが……」


「ああ、今話すよ」

 グランはジャンの頭を軽く叩くと、対面のソファーに腰を下ろした。


「国軍士官学校の精霊契約者学部に入学の件だが……少々面倒な事に成ってね」


「と、言うと」ファンジオの表情が硬くなる。


「精霊契約者学部は士官学校内に在るが、それ自体が士官学校から独立した学部なのは君も知っているだろう?」


「ええ、もちろん」ファンジオは何を今更、と言う顔をした。


「精霊契約者学部は創立から今まで全ての生徒は士官なんだ。それも君は分かるな?」


「はい、18歳未満の精霊契約者がこの国に存在して居ないのは周知の事実です。それに士官学校の卒業が18歳ですから、精霊契約者学部に入学するのは、現役士官の新規契約者しか居ません」


「そこが問題なんだ!」グランが指を立て言った。


「ジャンが士官では無い事……ですか?」

 ファンジオの口調が問い詰める様な物に変わった。


「ああ、契約者学部は士官しか入学を認めないそうだ」


「そんな……」


「それでは今更、軍や州の契約者訓練所にジャンを入所させろと言うんですか?」


「それすらも無理だ。どこも引き取ってはくれんよ。幼い契約者の扱いは良く知られていないからな。責任を負う事に訓練所は弱腰だ」グランが煙草を持った手を振った。


「それなら……」ファンジオが言葉を詰らせた。


「誤解するな、私は面倒だと言ったんだ。入学出来ないとは言ってない」


「どういう事です?」


「精霊契約者学部は士官で有るなら年齢は関係無いと言っておる。実際あそこの生徒は50歳の大佐から20歳の少尉まで幅が広いからな」


「それは分かりますが、今から幼年学校と士官学校に通わせては、ジャンが精霊契約者学部に入るのは18歳です。それでは全ての意味が無くなります!」

 ファンジオの言う事ももっともだ、と言う風にジャンが頷いた。


「どうやってです?」グランの回りくどい言い方に、もどかしくなったファンジオが眉間に皺を寄せた。


「これでも契約者統括長の長官だ。方々に顔が利く。軍教育庁の長官に話しは通してある。幼年学校の校長も納得済みだ。君の甥でしかも、ジル・ウォーカーの息子でとても優秀だと言ったら二人とも納得したよ」


「どういう事です?」


「幼年学校を卒業させる」


「どうやってです?」小出しされる情報を洩らさない様拾う。


「卒業試験だけ受けさせ資格を与える。前例もあるからな」


「前例と言うのはフィリップ様の事ですか?」

 フィリップは前国王の次男で病弱なため幼年学校に通う事無くそこを卒業していて病床のまま士官学校も卒業。18歳で少佐にまで成ったが20歳を前に床から出ること無くこの世を去った。


「そうだ」


「しかし、例えそれで卒業出来たとしても幼年学校の卒業生に与えられるのは曹長相当の、見習い士官です」


「ああ、私もそこが壁だと思って居たんだがね、然る方がジャンを養子に迎えたいと言って下さっておる」

 聞いたファンジオの声色が変わった。


「まさか王族の方ですか!?それなら納得がいきます。彼らは幼年学校を卒業したら少尉に任官されますから」

 グランはソファーに背を預け、笑うと頬を上げた。


「その--まさかだよ」


「一体、どなたが?」


「ウィストン・アーサー様だ」


 ファンジオの顔から血の気が引いて行く様子がジャンにも面白い程分かった……






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