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ジャンの物語  作者: N・クロワー
12/32

リリステル

ごらん頂き有難うございます。

 

 馬車は通り過ぎる町で馬を換え休む事無く走り続けた。ジャンは買って貰ったお弁当を目にすると、まるで人が変わった様に何時もの様子に戻った。


(やはりここはアンに似たのか)ファンジオは弁当に夢中に成るジャンを見て思った。


「伯父さん」ファンジオの分までペロリと食べたジャンは指に付くパン屑を舐めながら口を開いた。


「どうした?」未だ足りないのか!?一瞬思う


「士官学校って僕と似た様な年の子たちもいるの?」足りていた様子だった。


「ああ、沢山いるよ。いや、正確には違うんだが、リリステルの王立国軍士官学校には、国軍幼年学校も併設されているからね」少しホっとしたファンジオが優しく答えた。


「幼年学校?」ジャンが興味深そうな顔をする。


「幼年学校は10歳から入学出来るんだ。15歳位までの子達がそこで学ぶ。卒業したら国軍士官学校に晴れて入学さ」


「僕もそこに?」


「いや、君は契約者だからね。幼年学校には契約者を育てる学部が無いんだ。そんな幼い契約者はいなかったからね」


「ふ~ん。そんなに僕、変なの?」

 そう言うと、ジャンは上着のポケットからモルを取り出し、その毛並みを味わうように撫でた。


「いや、変では無いさ。極少ないが稀に君ぐらいの年で契約者になる人もいる。ただ……」そこまで言い、言い篭った。


「ただ、何?」ジャンが身を乗り出し問う。


「殆どの子供の契約者は、契約時か、その時じゃなくても、すぐに事故を起こして死んでしまうんだ」

 意を決した様に言うとファンジオの顔が暗くなった。


「精霊を呼んでしまうって事?」ジャンにも聞いた事は合った


「そういう事だ。イグノス連合王国で、ここ50年18歳未満の契約者は5人、その内、契約時の事故で死亡したのが3人、2日以内の事故が2人だ」ファンジオが指で数を表し言う。


「じゃあ生き残ったのは僕だけ?」驚いた顔を見せた。


「そうだな。運が良かった、契約時は上級契約者医師が居たし、君が契約後、精霊を呼ばなかったのはアンの処置が正しかったからだ」言うとポケットからウイスキーの小瓶を取り出し一口含んだ。


「家に閉じこもって居た事?」思い出した様に目を開いた。


「初めは何気ない会話で精霊を呼んでしまう事も有るからな」頷くとジャンを見た


「でも、あれから一回も精霊が集まった様子は無いよ」モルを指し言う。


「それが少し妙なんだが……」


「契約破棄されたとか?」閃いたとばかりに言った。


「いや、それは無い。一度した契約は死ぬまで有効なはずだ」記憶を辿る様な顔を見せた。


「ふーん」ジャンは少しホッとした。


「まあ学校で契約術を教われば大丈夫さ」


「僕の精霊は何かな?」気になっていた事を聞いた。


「契約時の事故から考えると風系だろうな」


「何か地味だな。伯父さんは火でしょ?」やっぱりジャンとしては派手に決まる火系が好みだ。


「ああ、俺は火と風が少しだな。おかげで3級上だ」ファンジオは襟章を見せる様に襟を正すと自慢げな顔をジャンに見せた。


「いーな!7級ってグーレでしょ?早く色付きに成りたいよ」ふて腐れた様に頬を膨らました。


【グーレ】はイグノスの最小通貨単位である。十枚でやっと飴玉が一個買える鉄色のそれは7級の襟章と似た物で、役立たずの比喩が込められていた。


「気が早いな、まだ貰っても無いのに」ファンジオが笑いながら言った。


「グーレじゃ格好悪くてニーナに合えないよ!」笑い事じゃない!切実な悩みだ。


「まあ、頑張るんだな」ニーナの名前を聞いてファンジオの笑顔が優しく歪んだ。


「せめて5級ぐらいじゃないと……」ブツブツ呟きながらジャンは思考の闇に入って行った。







 林を抜けた小高い丘の頂上からリリステルの町が見え始めた。


「あれ、リリステルでしょ!?」車窓から身を乗り出し、ジャンは近づいてくる大都市を興奮した様子で見ていた。


「ああ、あと30分程で家に着くだろ」


 暫くして馬車が止まったのは、庭に咲く薔薇が綺麗な邸宅の前だった。


 庭の芝は青々としていて綺麗に刈り込まれており、門から玄関までは20ヤード程で、石畳の小道が続いていた。

  

 ジャン達が門から入っていくと、黒く短い毛並みの光る細身で大型の犬がファンジオの足元に擦り寄ってきた。


「良い子にしていたかい?」ファンジオが頭を撫でながら犬に話しかけた。


「それ伯父さんの犬?」


「ああ、ジルって言うんだ」


「父さんと同じ名前なの?」言うとジャンも撫でようとしたが、犬に避けられた。


「アンが付けたんだ、まだ家に居る頃にね」その様子を見てファンジオが微笑んだ。


「僕が生まれる前?」


「もちろん!アンがまだ16の時だ」


「ふーん、ジルは僕より一つ年上か」横目でジルを見つつ、撫でようとしたが再び避けられた。


「可愛くない奴だな」ジャンが口を尖らせる。


「君より年上だからな」言うと笑った……






 分厚い樫で出来た扉を開けると白い大理石で造られた床が眩しかった。ホールの真ん中に走る階段は踊り場で二股に別れ、左右の廊下に繋がっていた。

 

 左右の壁には沢山の絵画が掛けられ、一つはアンの様に見えた。


「階段を昇って右側三つ目の部屋だ、荷物を置いてきなさい。すぐにブレンダー少将の所に行かなければならない」

 ファンジオが右上を指した。


「うん」入った部屋は客間ではなく誰かの部屋の様で、アンの香りを微かにする様な気がした。

 ジャンは鞄を置くと部屋を見回しそれから部屋を出た。


 ファンジオは玄関で煙草を片手にジャンを待っていた。


「ここから近いの?」


「そうだな、馬車で15分って所かな」


 庭で寛ぐジルを横目にジャン達は再び馬車に乗り込んだ





街の名前を間違えていたので直しました。

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