リボン
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マダムとニーナに見送られ馬車はメンフィの町を発った。
ジャンはしばらく暗い表情だったが、渡された朝食がサンドイッチなのに気が付くとご機嫌な様子で食べ始めた。
ペロリと全てを腹に収めると、ジャンは首に巻かれたリボンを見つめた。その様子をファンジオは何か言いたげな様子で眺めていた。
「どうかした?」ファンジオの視線に気付いたジャンが問いかけた?
「……いや、そのリボンの事なんだが……」
「うん、ニーナに貰った。お守りだって」クルクルとリボンを指で遊びながら答えた。
「それも有るんだが……それの意味というか……だな」チラチラとリボンを横目見ながら言った。
「意味?リボンに意味なんてあるの?」キョトンとした顔でファンジオに返した。
「いや……何と言うか、普通のリボンには意味は無いんだが彼女達が男の首に巻くリボンには意味が有るんだ」何か考える風な顔で言った。
「へぇ--初めて聞いた、どんな意味が有るの?」指を止めファンジオに問う。
「それは--」一拍置き、真剣な表情を作り続けた。
「そのリボンは彼女の告白なんだ」目に力を込め言い放つ。
「告白?校舎裏でする様な?」眉間に皺を寄せ答えを出した。
「そんな軽い物じゃない、彼女達がリボンを渡すのは普通一生に一回だけだ。俺だってまだセシルから貰っちゃいない」ファンジオは自分が貰えないそれをジャンが持っている事が羨ましかった。故に言葉に熱が入る。
「……え?」自分は弟だった筈だ!昨夜の記憶を辿る。酔ったせいで記憶は曖昧だが。
「そのリボンにはそれだけの重みが有るんだ」畳み掛ける様に言った。けしてジャンを妬んでいる訳では無い筈だ。
「僕どうすればいいの?」弟から想い人に昇格したジャンはこれからの人生に思いを馳せた。
「それに法的な効力は無いから、ジャンが嫌ならリボンを外せばいい」タバコを取り出し火を点けると投げ遣りに返す。
「嫌じゃ無かったら?」伯父の心甥知らずと言った所か。
「まあそれは人それぞれだが、ニーナを養えるぐらいには成らないとな」キリっとした目で言った。小僧の稼ぎで女なんか養える訳無かろう!!目がファンジオの気持ちを語っていた。もはやライバルと言ってもいい甥に、塩を送るの止めようと彼は心に誓った。
「そっか、僕頑張るよ!」彼女を養えば今朝の様な幸せな朝が毎日続くんだ!バラ色に輝く道の先を想像し、握る拳に力が入っていた。
ファンジオは『これから士官学校に入る人間が国の為では無く、女性の為に頑張るとは何事だ!!』っと叫びたかったが、自称プレイボーイのプライドがそれを邪魔した。これは妬み等では無いと自分に言い聞かせ、優しく微笑んでジャンを睨んだ。
「あ!」
ジャンは不意にクインの事を思い出し、ニヤリと子供らしからぬ笑みを見せた。『両手に花とはこの事か!』何時か聞いた事の有る言葉が少年の道徳を蹂躙して行った……
ファンジオは不気味に笑うジャンをチラリ見ると、ジャンの父親であるジルと過した青年時代を思い出した。そして、フっと笑うと優しい目で、何かを必死に考えるジャンを見つめた。