夢一夜 夕刻
ホラー風味になってしまいました。
外に出たかった。
何故外に出たいかと聞かれればそこに明確な理由があるわけではなく
出られない、という縛りに抗いたかっただけなのかもしれない
田舎に居を移すサラリーマンのように
校則を目の敵にする高校生のように
ひたすらに自らを束縛する物の、その外を目指した。
夕暮れが近づいていた、だから急がなければと思った。
門には鍵がかかっていることは知っている。では、別の道を探さなければならない。
私はいそいで廊下へと出た。
薄暗くはあるが、まだ灯りをつけるほどではない微妙な時のために
窓のないこの場所は酷く暗い。
何かに引っかかって転んでしまわないように、
躓いて音を立ててしまわないように慎重に玄関へと辿り着く。
ゆっくりと扉を開くと赤い光が溢れた。
外はまだ空が赤い。
桃から橙、赤と見事なコントラストだ、白く走る雲は羽のようだし神々の世界だなと見とれてしまってから、自分のすべきことを思い出した。外に出なければ。
ふと、白い猫が目の端を横切り振り返った。私はその猫を知っていた『白雨・・!』
白猫はまるで私を誘導するかのようにさっさと先へ行ってしまう。
私は猫を追いかけて歩く。草を折る音も、砂利を踏む音も立てぬよう細いコンクリや土の上をつま先立ちで右の手を壁に伝いながら。
バランスを崩しませんように。小さな頃落ちれば大海原だと遊んだことを思い出した。あのころは現実からすぐに脱出できる異世界を持っていた。
進むと庭に出た。白猫は見失ってしまったようだ。
やや手入れの遅れた芝と、ざんばらの高い木が三本。
猫が木に登っている、1.2.3.4.5..皆、後ろを向いているからこちらには気づいていないのだろう。よかった。
猫はしばしば集会を開くのだという、よく通る道でも様々な毛色の猫が3匹も4匹も固まっていることがある。狼などよりも一匹行動の多そうな彼らが一体何を話しているのか、なわばりの分け前だろうか。やつら災害や病気の生き物に対する感も凄いらしい、日長一日寝ているだけにも見えるのだがそれなりに考えていることもやっていることもあるのかもしれないな。それとも獲
・・目を見開く
踏んでしまった。
微かだが音が鳴った。
猫が・・
聞こえていないかも知れない
聞こえてもこちらのことなど気にしないかもしれない
鳴き声などあげられるとやっかいだ。
猫が・・
ドクドクという音ばかりが耳につく
猫が・・一斉に振り向くと・・
皆、酷く大きな顔面をしていた。
目に焼き付けてしまって1秒遅れた。
動かせるものがなくて2秒遅れた。
3秒目でやっと勝手に叫びそうになる自分の口を塞ぐ
必死で堪える。
頭の中だけで吐き出す。
足に力を入れられる余裕。
全身全霊を使って両の足を後ろに引き下げる。
ずる・・ずる・・
建物の角に隠れる頃にやっと冷や汗が吹き出した。
震える手とよろめく両足で玄関へ向かう。
かき消そうとしても何度もフラッシュバックする。
幾度も飛び出しそうになる声を塞いだ。
「アレ」は一斉に振り返った。
体は普通だった。頭がその倍以上だった。
現実味がない。よくあんな細い首であの頭を支えられるなとか、どうやって重心をとるのかとか意味のないことばかり考えた。脳内が迷走している。
追っては来なかった。
逃げなければならなかった。
裏に行けないのであれば、表の門から出る他に方法がない。
家の中に静かに戻った。
居間から人の声が聞こえた。うっすらと扉が開いているから中が見える。
白い防護服とガス用のマスクを着ていて、手には何かの計測器を持って5、6名で話し込んでいる。
内容は知っている。
だが、ここから逃げなければならないのだ。
陽はもう沈んでしまったから廊下は目を凝らしても闇しか見えない。
家の中は当たり前だが熟知しているので、それでも進むことはできる。
たしかお風呂場だったはず。
目の前が黒に塗りつぶされていて、歩いている感覚がしない
一歩一歩歩いていることを確かめるようにして進んでいくと
微かだが光が反射してそれが洗面台の鏡だとわかったが、怖いので見ないようにした。
手探りで目的の物を探した。
カチャリと触れる物があってほっとした。回収されていなかったらしい。
急いで、しかし間違いの無いように廊下を戻る。
途中防護服の人達を脇目で見ながら通り過ぎ、すらりと玄関を抜けた。
満点の夜空だった。
私はわくわくしながらその鍵で門を開いた。
目が覚めて、隔離されていた理由を思い出した。
初めて小説を書ききりました。元ネタが大分前からあったので楽だったというのもありますが、書いていて楽しかったー。ですが、読む方にとっては読みにくかったと思います。書くの楽しいなしかし。