心の底から(1)
こちらをのぞきこむ君を見て、悪い夢から覚めたのだと、私は思った。ベンチから飛び起きればふらつき、君に抱えかかえられる。優しさに触れて安堵すると同時に、蹴られた箇所が痛み出した。
残念ながら夢ではなかった。
落ちこんですぐ、甘い香りが鼻腔をかすめた。視界がはっきりとしてくると、周囲の景色が花金鳳花の咲いていた公園にそっくりだと気づいた。だから、確信の意を込めてつぶやく。
「ここが、天国……」
「……」
「勝手にいなくなるなんて反則だよ、東真」
「時間がなくて……。いちおう手紙は残したんだけど」
と、申し訳なさそうな表情で私をおろし、ベンチに座らせてくれた。
「手紙じゃ足りないよ! でも、よかった。やっと会えた」
「ぼくもそう、……だけど。ここに長居しないほうがいい」
「どうして? 私、死んじゃったんじゃないの?」
君は首を振る。
「星奈は、まだ生きてる。だから早く戻るんだ。今ならまだ間に合う」
「東真といっしょならね」
「それは無理だ」
「じゃあ私も無理」
「星奈!」
鋭い語気と強い眼差しから逃げるように、君の胸に顔をうずめた。君の首に手を回して密着しても、体温を感じなくて。風が吹き、花の香りに包まれてもロマンチックだと感じられなくて。それどころか、私たちが死に向かっているのだと実感させられてしまう。
「生きている人間がいるべきところじゃない。それはわかってほしい」
頭をなでてくれるその手は、あまりにも優しい。
「東真が言ったんだよ、未来で離れたくないって」
「それは……」
「あの告白、本当にうれしかった」
もっとなでられていたい。私を必要だと思ってほしい。
だから枷をつけさせてもらう。
私はベンチから立ち上がり、君のほうへ詰め寄る。
「私のこと好きだよね? 大好きだよね!?」
「せ、星奈?」
「好きって言ってくれたら誰が相手でも、神様でも戦うよ! それなのに、この手を取ってくれないから、冷めた態度とられるから立ち向かえない。戦わせてくれない」
涙で目の前の君が歪んでも、止めてはいけない。
神様との約束よりも重いのが、私と君が生きることを諦めない理由が、ほしい。
「帰らないなら私も死ぬ、っ……ひっく……」




