悪役令嬢だったのに、…え?こういう時幼女になるんじゃないの!?
名前を借りました
私には婚約者がいた。
過去形なのは、浮気されて婚約破棄されたからだ。
私はスピネル・レッド。
浮気相手は義妹のルベライト・レッド。
婚約者ペリドット・グリーンは私に婿入りして、私がレッド伯爵家を継ぐ予定だった。
だが、ルベライトとペリドットが浮気して、あろうことか、ルベライトが伯爵家を継ぐ事になった。
父の後妻は、家を乗っ取る計画を立てていたらしい。
ニヤニヤ笑いながら、私とペリドットの婚約破棄を父に勧めていた。
スピネルじゃなくてルベライトが継いでも良いじゃない?
と言っていた。
ルベライトは、後妻…つまり私の継母の連れ子。つまり、伯爵家の血は流れてない。
正当な後継者は私なんだけどね?
…ルベライトもペリドットも、領地経営の勉強をしていないけど、継がせて大丈夫なのかしらね。
ルベライトは社交界に、私がルベライトをいじめていると噂を流した。
頭空っぽの婚約者から、
「ルベライトをいじめたな!」
と、言われた。
「そんな醜い女とは婚約破棄だ!私はこのルベライトと婚約する!」
頭空っぽで、顔しか取り柄のない婿入り予定の男が、強気だな?
でも、ルベライトには婚約者がいたはず。
「貴方には、私の婚約者をあげるわ」
ルベライトは、王都に憧れている。
辺境に嫁ぐのは嫌だったのだろう。
だから、ペリドットを奪ったんだろうな。ペリドットのグリーン侯爵家は、王都の近くの領地だし。
「辺境伯は、女嫌いで、女には冷たいらしいわ」
そうですか。ルベライトはチヤホヤされたい人だからね。
結局私は、悪役令嬢にされて、婚約破棄されて、辺境に嫁ぐ事になった。
もう、これ以上は、何事も起こらないでほしい。
と思ったのが、フラグになったのか。
辺境へ向かう途中で、ふいに馬車が止まった。
何事かと思ってカーテンの隙間からこっそり覗くと、そこは崖の上だった。
反対を覗くと御者達が、崖から私が乗っている馬車を…落とした。
私、ここで死ぬのか…と思った。
思わず、つけていたペンダントをドレスの上から握りしめた。
ペンダントが光った。
光は大きくなり、私を包んだ。
馬車の扉が開き、私の身体は馬車から放り出された。
覚えているのは、そこまでだった。どうやら気絶したらしい。
私、馬車の事故に見せ掛けて殺されるとは思わなかったな。
そんなに私の事が邪魔だったの?
わざわざ辺境伯と婚約させたのに?
※※※
私は知らせを聞き、馬車の事故現場に向かう。
婚約者が乗っていた、辺境である我がバイオレット領に向かっている途中の馬車が、崖から落ちたらしい。
隣の領地から知らせが来たのだ。
鬱蒼とした森の中、落ちた馬車を見る。
かなり高い所から落ちたので、馬車は壊れている。
乗っていた婚約者は、助からないかもしれない。
馬がいない…
御者もいない…
誰も乗ってない…
馬車の中にカバンが1つだけあった。カバンを拾う。
色々と疑惑があるが、とにかく、乗っていたはずの婚約者を探さなければ。
我が領地に来るはずだった令嬢のプロフィールを思い出す。
グリーン侯爵家に押し付けられた、悪女の噂のある伯爵家の令嬢。
本来の私の婚約者の、義姉。
男遊びが激しく、義妹を虐げ、侯爵家の三男が婿入り予定だったが、領地を継ぐのが面倒になって、婚約者共々義妹に押し付けた。
それで仕方なく、義姉を私の婚約者にした、とグリーン侯爵家とレッド伯爵家から手紙が来た。
それが本当かはともかく、何故、馬車の事故に?
道は広く、間違っても馬車が落ちる事はない。
考えながら婚約者を探していると、馬車から少しだけ離れた所で、倒れている女性を見つけた。
でも、婚約者の年齢より、かなり上のような気がする。
保護して、自分が乗ってきた馬車に乗せる。
一緒に来ていた部下に捜索を続けさせ、領地に帰る。
…どこかで見たことあるような?
邸に着くと、女性を客間のベッドに寝かし、医者を手配し、婚約者が馬車の事故で行方不明になったと、婚約者の実家へ知らせる。
が、その後、実家からは誰も来なかったし、手紙すら来なかった。
私は、部下を使い、婚約者と婚約者の家族を調べさせた。
※※※
目を覚ますと、知らない部屋のベッドに寝かされていた。豪華な部屋である。貴族の誰かに拾われたのか?
私が目を覚ました事に気付いたメイドさんが、医者を呼んだ。
医者の診察が終わると、男性が部屋に入ってきた。
かなり顔が良い貴族の男性である。
「寝たままで良いよ。具合はどうかな?」
男性は、ベッドの傍のイスに座り、優しく問いかけた。
「身体が、痛いです…」
「そうか…。私は辺境伯領を治めるアイオライト・バイオレット。貴方の名前をお聞きしても?」
男性は、私の婚約者の辺境伯様だったのか。
どうしよう…
きっと私を義妹を虐げた酷い義姉だと思っているよね?
私が黙っていると
「…ところで、貴方は何故、森に倒れていたのだ?」
森に倒れていた?馬車から放り出されたからかな?
「馬車を見なかったかな?私の婚約者が乗っていたはずなんだ」
辺境伯様が言った。
婚約者?私じゃなくて?
「ごめんね…少しでも手掛かりが欲しくて…馬車に乗っていたはずの婚約者が、行方不明でね」
ん?行方不明?
私、行方不明なの?
首を傾げる私を見て
「知らないなら仕方ないよ。起きたばかりなのに、無理に聞いてごめんね」
と、言い、それから
「お腹すいた?ご飯食べる?それともまだ休む?」
と心配そうに聞いてきた。
「お腹すきました」
私は小声で言った。
「用意するね」
辺境伯様は後ろに控えているメイドさんに指示を出した。
お粥を食べ、少し寝て、起きた時にメイドさんにお風呂に入れてもらった。
その時、鏡を見た。
…誰?
鏡にうつるのは私のはずなのに、目の前の女は、30…いや、40代くらいの女性だ。
あ、もしかして、私が推定40才の女性に見えるから、私と思われなくて、行方不明になったのか?
待って。こういう時、幼女になるんじゃないの?
よくある小説では、断罪された悪役令嬢は、幼女になってピンチを乗り越えて、幸せになっていたよね?
私だけ何で年上になった?
私は18才。年齢約2倍?
何なの?呪い?こわっ…
…じゃなかった。それはともかく。
どうしよう…私が生きている事を知られたら、義妹にまた殺される?それとも義母かな?どの道、殺される?
私は、メイドさん達に身体を洗われた後、全身に美容液を塗られ、ジュースを飲まされ、ベッドに寝かされた。
「ごゆっくりお休みください」
メイドさんに優しく言われ、目を閉じた。
義妹か義母に、私が生きている事を知られたら殺される?
…私が私だって事は、秘密にするべき?
辺境伯様が知らせたら終わりだ。
義妹か義母に殺されかけたなんて、悪女の私の話なんて、信じないよね…
名前どうしようかな?
…小さい頃呼ばれていたスピーにしようかな。
スピネルだけど、スピー。
どうして森にいた?
分からない。馬車に乗っていたはずなのに…ここまでは、本当の事を話そう。
どこの誰?
…どうしよう…何て言おう…
そうだ。嫌な婚約者から逃げてきた事にしようかな。
…帰れって言われるか。
絶対に帰りたくない。
それなら、家から追い出されたから行く所が無いって言う?
義妹に命を狙われたって言う?
義妹かは分からないけど、命を狙われたのは本当の事だし。
辺境伯様は優しそうな人だったのに、嘘ついて騙してごめんなさい。
辺境伯家の人達は、親切にしてくれた。
実家の執事やメイド達は、義母と義妹が来てから私には素っ気なく対応していた。
母が亡くなって、やって来た義母と義妹は、男爵家に離縁されて、生活に困っていたらしい。
父に出会って、再婚した。
再婚理由は、私の母に似ていたから。
義母と義妹ルベライトは、伯爵家でお金があると思ったのか、父に沢山ドレスをねだっていた。
義母とルベライトにチヤホヤされて、喜んだ父は、ねだられるたびにドレスを買っていた。
いくら伯爵家とはいえ、そんなに豊かではないから、資産は減る一方だった。
私は、父が放り出した領地経営を、どうにか執事とやり繰りしていたが…
ま、良いか。
私は捨てられたし、馬車の事故に見せ掛けて殺されたんだから、もう知らない。
辺境伯様は、毎日お見舞いに来てくれた。
「スピー、今日は体調はどうだい?遠慮せず、しっかり身体を癒やしてね」
私はベッドに起き上がり、辺境伯様にお礼を言った。
「辺境伯様…ありがとうございます」
「アイオライトと呼んでください」
「…アイオライト様…」
名前を呼ばれて嬉しそうにしたアイオライト様は、花瓶に生けたラベンダーをサイドテーブルに置いた。
お世話になっているのに、嘘をついてごめんなさい。
私は、スピーと名乗った。義妹から命を狙われ、馬車に乗って逃げていたが、気付いたらここにいた、と言ったのだった。
「そうなんだね…辛かったろう?ゆっくり休んで、身体を癒やしてね」
アイオライト様は、辺境伯邸で療養する事を許してくれた。
※※※
私は、保護した女性が、探していた最愛の女性の関係者かもしれない事に歓喜した。
幼い頃、1ヶ月間だけ一緒に過ごした少女。
一緒に過ごす時間は幸せで、少女が領地に戻ると聞いた時は絶望した。
父からもらっていた、家宝のペンダントを、別れの日に少女に渡した。
「必ず迎えに行くからね」
と伝えて。
でも、少女がどこの誰だか分からなかった。
スピーと名乗った少女は、どこの領地から来たとは言わなかった。私も聞かなかった。
迎えに行くと行ったのに、迎えに行けずにいた。
それから私は、親戚のバイオレット辺境伯の養子になり、辺境伯領に住む事になったから、探す事もできずに今に至る。
保護した女性スピーは、その少女…スピーに似ていた。
少女のスピーは、私より年下だったから、スピーとは別人だが、なんとなく似ていた。
スピーは怯えていた。義妹に命を狙われたらしい。
優しくして、我が邸にずっと居てもらい、仲良くなって、ペンダントをあげた少女のスピーに近付きたい。
下心だらけで申し訳ないが、正直なところ、探しようもなかった少女のスピーに近付けるかもしれないのだ。
構っていられない。
毎日、スピーの見舞いに行き、私に心を許してもらえるように、努力した。
努力と言っても、女性の扱いがよく分からないから、苦戦した。
メイド達に、女性と仲良くするには?と聞いたら、花を贈るとか、お菓子やアクセサリーを贈るとか、一緒にお茶をする、とか言われたので、やってみた。
スピーは、私が見舞いに行くと、申し訳無さそうな顔をする。
知らない男に近寄られても、困るだけか…
あまり馴れ馴れしくしないように気を付け、少し話すだけで退室した。
※※※
辺境伯アイオライト様は優しい。見ず知らずの私を保護してくれ、毎日お見舞いに来てくれる。
私が遠慮してしまうのに気付いて、少し話すだけで退室してくれる。
とても優しい人……でも、元婚約者が優しそうに見えたクズだったから、裏があるかもしれない…。信じられない…
私は18才。アイオライト様は確か20才。
どうして今まで結婚してなかったのだろう?
領地の仕事が忙しかったのかな?
隣国との境界を警戒しなければならないから、忙しかったのかな?
ルベライトが言っていた事を思い出す。
「辺境伯は、女嫌いで、女には冷たいらしいわ」
そうかな?とても優しいけど。
舐められないように、外では厳しくしてるのかな?
顔が良いから、令嬢達が沢山寄ってきて、大変だったから、わざと冷たく見せてるのかな?
それとも、誰か好きな人がいるとか…
※※※
スピーは、少し私に馴染んできたのか、見舞いに行くと、優しく微笑んでくるれるようになった。
体力をつけるようにと、医者から言われて、庭を散歩するようになった。
私は、エスコートを申し出た。
最初は遠慮していたスピーだが、私が悲しい顔をしたら、一緒に散歩に行ってくれた。
庭に咲く花より可憐なスピー。
つい目で追ってしまう。
スピーは、とても優しい女性だ。穏やかで、今まで会った令嬢達とは違う。
辺境伯夫人を狙う令嬢達は、目の色を変えて迫ってくる。勝手に腕にしがみついてきたり、令嬢同士ケンカを始めたりして本当に困った。
騎士として、女性を邪険にできないから、捕まらないように必死で逃げた。
それに、私は少女のスピーと結婚したい。まだ見つけられずにいるが、ずっと探すつもりだ。必ず探し出して、迎えに行く。
もし、少女のスピーに振られたら…親戚から養子を取ろう。
少女のスピー以外は考えられない。
庭でスピーとお茶をする。
色々と話していて思う。
少女のスピーと、目の前のスピーは
好きな食べ物が同じ
同じ髪と目の色
でも、年齢が違う
少女のスピーの母親とか、近い親戚かと思っているが、名前が同じなのがよく分からない。
スピーが愛称なら、可能性もあるな…
どうやって少女のスピーの話を切り出そうか?
彼女は、誰かに私との事を話しただろうか?
「ずっと私に関わっていて良いんですか?」
スピーが言った。毎日お茶と散歩をしているから、心配になったのだろうか?
「ん?仕事はきちんと終わらせているよ」
私が答えると、困ったように
「婚約者や奥様は…」
あれ?浮気していると思われている?
「そんなのいないよ。心配してくれてるの?嬉しいな……スピーが心配するような事は何もないよ」
そういえば、部下に調査させていた婚約者の報告が上がっていた。
男遊びをしていたのは義妹。
義妹を虐めてなどいない。
家族から冷遇されていた。
彼女の婚約者は、義妹と浮気して婚約破棄し、義妹と婚約した。
レッド伯爵家からの手紙は全部嘘だった。
義妹は、女嫌いの私が嫌で、辺境より王都が良いから、義姉の婚約者を奪い取ったようだ。
義妹が、義姉を私に押し付けたくせに、馬車事故に見せ掛けて殺そうとするだろうか?
事故についてはまだ調べさせている。
レッド伯爵家についてだが、領地経営が悪化しているらしい。
真面目に領地経営をしていた婚約者がいなくなって、跡継ぎになった義妹と現在の婚約者が散財しているかららしい。
そういえば、名前を最近知った。
婚約者の名前はスピネル・レッド。
義妹の名前はルベライト・レッド。
レッド家の領地は、この辺境とも、生まれたパープル伯爵家の領地とも、離れている。
関わりはないはずだ。
少女のスピーは、何と言っていたか。
領地に帰る…
そう言っていたはずだ。
親戚の領地にいただけで、その親戚が、パープル家の領地の近くなのかもしれない。
部下に調べさせよう。
いや、貴族年鑑にあるかもしれない。
報告が来た。
スピネルが行方不明なのに、レッド家の跡継ぎをルベライトにして、既にルベライトと婚約者ペリドットは結婚したらしい。
家族が行方不明になったのに?
そういえば、現在の伯爵夫人は、後妻らしい。
スピネルの母親はスピネルが幼い頃に亡くなった。
しばらくして、後妻がやって来て、好き放題やりだした。
後妻と連れ子は、ドレスや宝石を買い与えられたが、スピネルは買ってもらえなかった。
スピネルの部屋は義妹に取られ、日当たりの悪い狭い部屋で暮らしていた。
もし、スピネルが生きていたら、ルベライトが跡継ぎになれないかもしれないから、スピネルを亡き者にした?
ルベライトを跡継ぎにしたくて、スピネルを亡き者にしようと、馬車の事故に見せ掛けて、馬車を崖から落とした?
貴族年鑑を見た。
レッド伯爵の親族の領地を調べる。
パープル伯爵領に近い領地は無い。
レッド伯爵の前妻…つまりスピネルの母の実家は…パープル領の隣だった。
母は、スピネルが幼い頃に亡くなった。
母の具合が悪くて、療養に来ていたかもしれない?少女のスピーは一緒に来ていたかもしれない…?
そして、森で私と出会った…?
スピネルが少女のスピーかもしれない?
やっと手掛かりが見付かったのに、スピネルは行方不明だ。
崖の周りや、落ちた馬車の周りを散々調べたが、スピー以外は人も物も何も無かった。
そうなると、スピーに何か秘密がありそうだ。
義妹に命を狙われた…つまり、ルベライトの事かもしれない。
だが…年齢が違う。
スピネルは18才。
スピーは、どう見ても40才?くらい。
もし、少女のスピーなら、私の事を覚えているだろうか?
※※※
アイオライト様が結婚していなかったのは、初恋の君がいるから…と、メイドさんに聞いた。
それなのに、グリーン侯爵家から、婚約を押し付けられたらしい。
しかも、直前になって、悪女と噂の義姉に変更になった。
その悪女も、馬車の事故で行方不明。
ちなみに、その行方不明の悪女が私。
本当に申し訳ないな。
グリーン侯爵家もレッド伯爵家も、最低だ。
貴族とはそんなものかもしれないが…
そもそも何で、義妹をアイオライト様と婚約させたんだろうか?
まさか、最初からペリドットと浮気して、婚約者を交換する予定だったとか?
私が行方不明になって、私とアイオライト様の婚約はどうなったのだろうか?
…私から聞くわけにもいかないし…
※※※
スピーが、私の婚約について、メイドに聞いたらしい。
初恋の君がいるから結婚してない
婚約者として送られてきた令嬢は、行方不明
よく小説では、それで好きあった同士がすれ違う。
だから、きちんと話をしなければ。
そうだ、一緒に少女のスピーについて話せるじゃないか。
私はお茶の時間に、スピーに話をした。
「私が、婚約していなかった理由を聞いたのだろう?」
「え?…はい…」
「私は、辺境伯の養子なんだ。私は元はパープル伯爵の三男で、子がいなかった辺境伯の養子になった」
スピーは黙って頷いた。
「幼い頃は、パープル領に住んでいた。10才のある日、森で少女に会った」
今まで森で人と会った事はなかったから驚いたが、少女も人と会うとは思わなかったのか、驚いていた。
私は、1人で過ごすのが好きで、森で1人で過ごしていた。
剣術の稽古をしたり、身体を鍛えたり、読書をしたりしていた。
少女は珍しかったのか、剣術の稽古を見ていた。
次の日、少女は本を持ってきて、読書を始めた。
私は少し離れて剣術の稽古をした。
少女は、ほとんど毎日やって来た。
出会って数日後には、一緒に身体を鍛えたりした。
木漏れ日の中で笑う少女が可愛かった。
そんな楽しい日々がずっと続くと思っていた。
ある日、少女は近いうちに、領地に帰らないといけなくなったと言った。
私は、その時になって、少女を好きな事に気付いた。
次の日、私は、父から預かっていた、家宝のペンダントを少女に渡した。
大事な人ができたら渡しなさい、と、言われていた。
だから、少女に渡した。
「必ず迎えに行くから」
少女に言ったが、領地がどこか聞くのを忘れていた。
ずっと探しているが、まだ見付からない。
「少女の名前はスピーというんだ。その時スピーは8才だと言っていた」
スピーは、きょとんとしていた。
※※※
似たような話もあるのね…
私も、8才の時に1ヶ月だけ伯父の領地へ行っていた。
母の具合が悪くなって、母の実家…母の兄が領主…の領地で療養していたのだ。
何故、レッド伯爵領じゃなくて、母の実家の領地だったのかは分からない。
私は、ほとんど毎日、森で過ごした。
私は、1ヶ月後には、婚約するから、と、レッド伯爵家に連れ戻された。
婚約者と顔合わせする為だ。
そのまま母は、母の実家の領地で亡くなった。
森では、ずっと従兄弟と遊んでいた。
領地に帰る時に、従兄弟からペンダントをもらった。
従兄弟は優しいお兄さんだった。
従兄弟と過ごした時間は、とても楽しかった。
その時が1番、人生で幸せな時だった。
それから、レッド伯爵家が没落しそうだ、と、アイオライト様が言った。
そうだろうな、としか思えなかった。
父は、領地の事は放ったらかしていたし、義母と義妹が散財していたから。
後継者である義妹ルベライトと婚約者ペリドット…今は結婚したらしい…は、領地経営の勉強は全くしてないし…
没落も時間の問題だと思っていた。
でも、殺されかけた私には関係ないし、アイオライト様だって、婚約者の私…じゃなかった…スピネルが行方不明なんだから、関係ない。
勝手に没落してください。
※※※
いつまでもスピーに心を開いてもらえない…
スピーには、いつまでもいてほしいと言ってある。
すると、お世話になっているから、仕事を手伝わせてほしいとスピーは言った。
ごめんね、下心があるのが分かるよね…
スピーの事は、初恋の少女スピーの親戚だろうと思っている。
少女のスピーに近づきたくて、スピーに優しくしている。
だから、私の事は信じられないよね?
初恋の少女のスピーも好きだけど、君にも惹かれているんだ…
酷い男だな…
私は毎日身体を鍛え、剣術の稽古をしてから、執務をしている。
空いた時間には読書。
でも最近は、スピーとお茶や散歩しているから、前より睡眠時間は減った。
それでも、スピーといる時間は楽しい。ずっと一緒にいたい。
「真面目でがんばってる人が報われてほしい」
稽古を見ていたスピーが言った。
それは、少女のスピーが私に言ってくれた言葉と同じだった。
…少女のスピーは君なの?
君があの子だったら良いのに…
でも、年齢が違う…
私は、スピーに執務を手伝ってもらうことにした。
書類を確認して優先順に分けてくれたり、何も言わなくても資料を探してくれたり…慣れている?
「きちんと領地経営されているんですね」
スピーが言った。どういう意味だろう?
きちんと不正なく領地経営するのは当たり前だろう?
そういえば、スピネルはレッド伯爵が放置した伯爵領の経営をしていたと報告があった。
そのスピネルがいなくなって、没落寸前だと。
もし、スピネルがここにいたら、レッド伯爵から支援を求められていたかもしれない。
でも、スピネルは馬車の事故で行方不明だ。
スピーに、レッド伯爵家が没落しそうだと話した時、スピーは無反応だった。
実家が没落するのに、気にならないのだろうか?
それとも、本当は関係ない?
少女のスピーとも関係ない?
だから、レッド伯爵家が没落しようと気にならない?
スピネルは、10才の時にグリーン侯爵の子息と婚約した。
子息は三男で、婿入り先を探していた。
その後、レッド伯爵は再婚し、スピネルに義母と義妹ができた。
グリーン侯爵は、スピネルの義妹を私と婚約させて、辺境伯領の利益を掠め取ろうと画策した。
けれど、義妹は侯爵の子息をスピネルから奪い取った。
仕方なく、スピネルを私の婚約者にした。
けれどスピネルは、義妹がレッド伯爵の跡継ぎになるのに邪魔だから、馬車の事故に見せ掛けて、殺された。
義母が、御者に命じた事は分かっている。
死亡したと分かっているから、義妹に跡を継がせたのだろう。
もし、生きていたらどうするんだ?
けれど、生きていても、レッド伯爵家は近いうちに没落するだろう。
※※※
レッド伯爵家がとうとう没落した。
借金が膨らんで返せなくなり、国が領地と爵位を没収した。
伯爵夫妻と義妹夫妻は、借金返済の為に強制労働施設に収容された。
と、アイオライト様がお茶の時間に教えてくれた。
きっともう、私の前には現れない。
私は、やっと安心して暮らせるのだ。
でも、私はこのまま辺境伯領にいても良いのだろうか?
…元の姿に戻れるのだろうか?
元の姿に戻ったとして、私は…スピネル・レッドは死んだ事にされているのでは?
ペンダントが光った。
馬車が落ちる時と同じように、光は私の身体を包み込んだ。
光が消えた。
「スピー?」
アイオライト様が目を見開く。
私は服の下に隠していたペンダントを見た。
「そのペンダントは!」
アイオライト様が近付き、ペンダントを見る。
「これは、従兄弟からもらいました」
私が答えるが、アイオライト様は
「それは、私の父…パープル家の父から『大事な人ができたら渡しなさい』と言われて、スピーに渡した物だ。裏にパープル家の紋があるはずだ。三日月の紋だ」
と言った。
私はペンダントの裏を見る。
裏には三日月が彫られていた。
「どうして…?」
私は戸惑った。
アイオライト様が話していた少女は私だったの?
「私…本当に、従兄弟からもらったと思っていたんです」
「うん」
「同じような話しがあるんだなって…」
「そうなんだね」
アイオライト様は、優しく私の頭を撫でた。
「やっぱり君だったんだね」
まだ戸惑っている私に、アイオライト様は優しく言った。
「君だったら良いなと思っていた。君に惹かれていたから」
私は、アイオライト様を見た。
「大切な人ができたら渡しなさいと。大切な人を守ってくれるから、と言われたんだ」
2人で、ペンダントを見る。
「馬車の事故にあったから、スピーを守る為にスピーの年齢を変えていたんだな」
「私を守っていたんですね」
「そして、レッド伯爵一家が強制労働施設に送られたから、安心して元に戻った?」
そういう事なのだろう。
「このままここにいてほしい」
アイオライト様が言った。
「死亡届は出してないようだ」
行方不明になってすぐに死体も見付からないのに死亡届を出したら、流石に怪しまれると思ったのだろうか?
「伯爵家が無くなったから、私は平民です」
私は言った。
「それなら、親戚の家に養子に入ってもらう。いや、私の実家が良いな。
パープル伯爵家だ。
幸い両親がまだ生きている。
君がまだ生きているとグリーン侯爵家が知ったら、グリーン侯爵家が君を養子にして、私と結婚させて、我が領の収入を横取りしようとするだろう」
「グリーン侯爵家が?」
「グリーン侯爵が、君の義妹と私を婚約させたのは、我が領の収入を横取りしようと画策したからだ」
「そうなんですか?」
「だから、義妹が君と婚約を取り替えても文句は言わなかった。
まさか、義母が君を亡き者にするとは思わなかったんだろう…」
そうだろうなぁ…
「まずは、パープル伯爵家に事情を説明して、養子に入れるようにお願いしよう」
「本当に良いのですか?」
「私はスピーが好きだ。少女のスピーも、今のスピーも…」
私は、顔が赤くなるのが分かった。
「私は、自分が浮気者だと思っていたが…同じスピーなんだから、好きになるのは当然だ」
アイオライト様は、私の前に跪き、私の右手を取って、手の甲に口付けした。
私は驚きの余り、意識が飛びそうになった。
「そんな事されたの初めて…」
うっかり呟いたら、アイオライト様は嬉しそうに微笑んだ。
パープル領へ行く。
アイオライト様の両親に事情を説明して、養子の手続きをしてもらう。
辺境伯家は重要地点だから、王家も反対しない。
むしろ跡継ぎを抹殺し、義母が家の乗っ取りをしようとした事で、両親と義妹夫婦は一生、強制労働施設から出られなくなった。
嫁に行ったのだから放置するか、絶縁すれば良かったのに。
「ここは…」
パープル領にある森。
子どもの頃に来た思い出の森。
木漏れ日がキラキラとする森。
「…本当に?」
私は、アイオライト様を見た。
その頃、従兄弟は学園に通っていて寮住まいだったから、領地にはいなかったらしい。
「やっとスピーに会えた…いつか迎えに行くと言っていたのに…遅くなってごめん」
アイオライト様が言った。
「ペンダント…ずっと着けていてくれてありがとう」
アイオライト様が、私の右手を取った。
「義妹に取られないように、いつも隠していたの…」
左手で、ペンダントを服の上から握る。
「取られなくて良かった。スピーを見付けられた」
「助けてくれてありがとう」
私が言うと、アイオライト様が跪く。
「私と結婚してください」
「はい…」
私が返事をすると、アイオライト様は立ち上がり、私を抱きしめた。
読んでいただきありがとうございます




