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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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【冬を連れて帰る神】─(冬のホラー企画4参加作品)─

しいな ここみ様主催『冬のホラー企画4』参加作品です!

 (/・ω・)/<ホラーだぞ~!ホラーだから怖い……はず?

【企画まとめ割烹】

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2175055/blogkey/3555789/


※『水』『バヌアツ』 『餅』『体温』『病』『魂』『あの子』『こたつ』『ぬいぐるみ』『南南東微南』の全キーワード使用!٩( ''ω'' )و<頑張った!w

──冬の夜、私は一人で『こたつ』に潜っていた。


どれだけ強く温度を上げても、体の芯だけが凍りついたままだ。


『体温』が、まるで他人のモノのように低い。


石油ストーブが、真っ赤に焼けた火口を私の背中へ容赦なく押し当ててくる。


灯油の匂いが濃く、少しでも身を近付ければ、服が焦げそうな距離だ。


窓は閉め切り、カーテンも分厚い。


そのすぐ横、低い『こたつ』の天板にはガスコンロが置かれ、青い炎の上で鍋がぐらぐらと揺れている。


正月用の『餅』を入れた鍋の『水』は激しく沸き立ち、泡が縁を叩くたび、蓋の隙間から白い湯気が噴き出した。


ストーブの上にはヤカンが掛けられ、注ぎ口から細く蒸気を吐き続け、金属が鳴くような高い音が、部屋に満ちていた。


普通なら汗ばみ、頭がぼうっとしてくるはずの熱。


室内の空気は重く、息をするだけで喉が焼けるほどだ。


――なのに。


「……さ、さむい……」


私は、『病』のように歯を鳴らしていた。


声が震え、言葉が途切れ途切れになる。


指先は紫がかり、感覚がない。


吐く息だけが白く見える気がして、私は自分の手を何度も擦り合わせた。


ガタガタ、と歯の根が合わず、顎が勝手に震える。


毛布をもう一枚、さらにもう一枚重ねても、寒さは増すばかりだった。


胸の奥に、ぽっかりとした冷たい空洞がある。


火も湯気も、餅の甘い匂いも、そこだけは決して温めてくれない。


私は思わず呟いた。


「…()()()を…私が、捨てたから……?」


熱に満ちた部屋の真ん中で、私は凍え続けていた。



私は――本当は、生まれていないはずだった。


祖母が亡くなる前、ぽつりと(こぼ)した言葉がある。


「──お前はね、水の子になる運命やった……」


産まれる前に死ぬはずだった私を、この世に縫い止めたのが、あの『ぬいぐるみ』だった。


それは、普通の動物の形ではない。


木彫りの仮面をつけた顔、繊維を編んだ身体に無数の貝殻を縫い付けたもの。


南の島『バヌアツ』で信仰される、温かさと命を司る神――その依代(よりしろ)


若い頃の祖母は、医師だった祖父と共に現地で医療を施していたという。


数々の苦難を経て、現地人と親しくなり、信仰を知り、共に笑った。


──でもそれは、人を救うためではなかった。


騙し、奪い──神を宿した依代(ぬいぐるみ)を、日本へ持ち帰るために。


異国の神は、異民族である私たちに幸運と財をもたらした。


だから──私とぬいぐるみは、『最初からひとつ』。


幼い頃、私はいつもそれを抱いて眠った。


冷えやすい体でも、あの子を抱くと不思議と温かかった。


その温もりで、私の『魂』はこの世に繋ぎ留められたのだった。


──病に伏した祖母はもう一つ、私に遺した。


小さな『コンパス』だ。


「これは、災難を教えてくれる……せやけどな……この針が、ひとつの方向しか指さんようになったら……」


それきり、祖母は何も言わずに逝った。


――しかし、私は裏切った。


付き合っている彼と同居することになった。


「……家なんて関係ない。俺が好きなのは、君だけだよ」


彼は他の子たちが嫉妬するぐらいに整った外見で、優しい。


「……なにこれ? 汚いぬいぐるみ」


でも合理的で、信仰や迷信を嫌った。


「俺、そういうの信じないんだよね」


私は笑って返した。


「捨てたら? カビ臭いし」


嫌われたくなかった。


だから──私は、あの子をゴミ袋に入れた。


雨と雪にさらされる、収集場所へ置いてけぼりにしてしまった。


その夜から、私の体は完全に冷えた。


肩を抱き、膝を抱え、こたつに潜り込んでも、体の奥だけが凍りついたままだ。


腹の底、心臓の裏側が、氷水に沈められている。


コンパスを見ると、針は『南南東微南』を指したまま、動かない。


胸がざわついた。


私は冬の嵐の外へ飛び出した。


「あの子は……あのぬいぐるみは、どこ……!?」


喉から、声にならない言葉が漏れる。


必死に収集場所を探す。


「どうして!?…まだ、収集日じゃないはずなのにっ!?」


喉が裂け、声は風にちぎられていく。


雪は横殴りで、視界を白く塗り潰す。


足元が見えず、何度も滑り、転びそうになりながら、それでも私は進んだ。


雪と風の中、コンパスだけが進むべき方向を示している。


歩くたび、体に衝撃が走る。


――殴られた。


骨の内側に鈍い痛みが爆ぜる。


誰かが、ぬいぐるみを殴っている。


私とぬいぐるみは、『最初からひとつ』だったから……分かる。


その痛みは、距離も時間も無視して、私の肋骨と腹にそのまま伝わる。


――蹴られた。


息が詰まり、喉から酸っぱいものが込み上げる。


足を引きずり、口から吐瀉物と血を流しながら、私は――見つけた。


向かいの道路の縁。


泥と雪にまみれて投げ捨てられた、あの子。


木彫りの仮面は割れ、無残に裂けている。


繊維を編んだ手足は千切れかけ、内側の黒い糸がむき出しだ。


ずっと隠されていた白い貝殻の瞳が、雪明かりを反射し、私を映していた。


恨めしそうに。


問いかけるように。


「……ご、ごめ……」


声が、喉で崩れ落ちた。


私は駆け出した。


滑る。


転びかける。


それでも、腕を伸ばす。


――その瞬間。


エンジン音。


タイヤが雪を噛まず、甲高く空転する音。


視界の端で、ヘッドライトが膨れ上がる。


「――っ」


衝撃。


体が宙に浮き、世界が横倒しになる。


背中から叩きつけられ、息が、完全に止まった。


赤く滲む視界の中で、私は見た。


見慣れた車だった。


フロントの傷。


ダッシュボードに置かれた、小さな置物。


――彼だ。


同居するはずだった人。


迷信を笑った人。


「汚いぬいぐるみだな」と言った人。


ハンドルを握る彼の顔が、一瞬だけこちらを向く。


驚愕と、恐怖と、ためらい。


次の瞬間、アクセルを踏む。


テールランプが、雪の向こうへ遠ざかっていく。


私は伸ばしかけた手を、雪に落とした。


掌の中で、何かが砕ける音がした。


祖母の形見のコンパスだった。


ガラスが割れ、針が歪み、もう――どこも指していない。


冷たい雪の上に、私は取り残された。


倒れた視界の端で、ぬいぐるみが――


ずる、ずると、


ゆっくりと、這ってくる。


泥水に濡れたその身体が、雪を掻き分けるたび、かすかな音を立てた。


もう少しで互いに触れる距離。


ぬいぐるみの仮面の割れ目が、ぎしり、と軋み――砕けて、


挿絵(By みてみん)


今まで存在しなかったはずの場所に、口が生まれた。


縫い目でも、裂け目でもない。


「……イッ……ショ……」


確かに「口」だった。


「…イッショ……ずッ……と……イコウ……」


片言で、拙くて、


それでも――とても懐かしい声。


私は、なぜか怖くなかった。


胸の奥に、幼いころの記憶が滲む。


布団の中。


冷たい夜。


あの子を抱きしめた時の、やわらかな温もり。


「……うん……」


喉が、血で詰まる。


「……いっしょに……ごほ……ごほっ……いこうね……」


口から、赤いものが零れ落ち、雪を汚す。


それでも私は、笑った。


ぬいぐるみの口が、ゆっくりと弧を描いた。


「……イッショに……つれて……こ……?」


それは、笑みの形だった。


「……このクニの……ネツも……ネ……」


──その瞬間、私は理解した。


これは別れではない。


帰還なのだと。


神は、私の魂を「守っていた」のではない。


借りていたのだ。


この国に留まるための、器として。


ぬいぐるみの身体が、熱を帯びる。


それに反比例するように、世界が冷えていく。


私の指先から、感覚が消える。


空気が、音を失う。


最後に見えたのは、雪空の向こうで、


この国全体から、温度が引き剥がされていく感覚だった。



――翌年。


日本は、白くなった。


山も、海も、街も、季節を失い、雪と氷に覆われた。


春は来ず、桜は芽吹かない。


火は点かず、発電所は凍りつき、送電線は氷の重みで垂れ下がった。


人々は最初、「異常気象」だと呼んだ。


次に「災害」だと呼び──やがて、”何と呼べばいいのか”分からなくなった。


政府は、段階的に声明を出した。


《日本列島全域は、長期居住不可能区域に指定される》


気象庁の会見では、専門用語だけが並び、誰も「寒い」とは言わなかった。


だが日本国中の空気は、言葉より先に凍っていた。


続いて、防災無線と携帯端末に、一斉通知が流れる。


《全日本国民に告ぐ》


《速やかに日本全土からの撤退を開始せよ》


空港は、雪に埋もれた滑走路の上で沈黙した。


港は氷に閉ざされ、船は動かない。


自衛隊と海外支援部隊が、かろうじて人々を運び出した。


──それでも、全員は救えなかった。


地図は、更新された。


世界地図の右端にあった国は、色を失い、注釈だけが残る。


【Formerly Japan / Uninhabitable】

(かっての日本/居住不能)


挿絵(By みてみん)


白地に描かれていたはずの赤い円――太陽を示す火は、完全に消え去った。


その熱は、南南東微南へ運ばれた。


南の島の神は、ようやく故郷へ還る。


魂だけの私は、あのぬいぐるみと一緒に、二度と戻らない冬の向こうへ行った。


――この国が、かつて、誰かの「命を借りて」温かかったことを、


知る者はいない。


最初はね~、バヌアツの神が日本に連れて来られて~という流れは同じですが、もっと長くなる予定だったんですよ~(;^ω^)<主人公は異常気象を調査する日本政府の青年で、ヒロインと謎を追って、遥かバヌアツに向かうとかw

ですが、話が膨らみ過ぎて大変だったので、むっちゃ短縮しましたよ!( *´艸`)<主人公の親や、ヒロインの娘、バヌアツでの現地民との関わりとか出てきちゃうのw


ホラーになってましたかね~?怖いと思って下さるとありがたいな~

(; ・`д・´人)<お読み下さり、ありがとうございました!しいな様、いつも企画ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
これで日本国民は流浪の民に… 何ともえらい事になってしまいましたね。 そして全てのキーワードが網羅されているのですか。 しかもそれらのキーワードが全て重要な意味をストーリー内で帯びていて存在感を放って…
お題ぜんぶ乗せ、うまくまとめて秀逸でした(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾
全キーワード、物語にうまく溶け込ませましたね。 しっかりホラーにもなっています。 上手です。
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