【冬を連れて帰る神】─(冬のホラー企画4参加作品)─
しいな ここみ様主催『冬のホラー企画4』参加作品です!
(/・ω・)/<ホラーだぞ~!ホラーだから怖い……はず?
【企画まとめ割烹】
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※『水』『バヌアツ』 『餅』『体温』『病』『魂』『あの子』『こたつ』『ぬいぐるみ』『南南東微南』の全キーワード使用!٩( ''ω'' )و<頑張った!w
──冬の夜、私は一人で『こたつ』に潜っていた。
どれだけ強く温度を上げても、体の芯だけが凍りついたままだ。
『体温』が、まるで他人のモノのように低い。
石油ストーブが、真っ赤に焼けた火口を私の背中へ容赦なく押し当ててくる。
灯油の匂いが濃く、少しでも身を近付ければ、服が焦げそうな距離だ。
窓は閉め切り、カーテンも分厚い。
そのすぐ横、低い『こたつ』の天板にはガスコンロが置かれ、青い炎の上で鍋がぐらぐらと揺れている。
正月用の『餅』を入れた鍋の『水』は激しく沸き立ち、泡が縁を叩くたび、蓋の隙間から白い湯気が噴き出した。
ストーブの上にはヤカンが掛けられ、注ぎ口から細く蒸気を吐き続け、金属が鳴くような高い音が、部屋に満ちていた。
普通なら汗ばみ、頭がぼうっとしてくるはずの熱。
室内の空気は重く、息をするだけで喉が焼けるほどだ。
――なのに。
「……さ、さむい……」
私は、『病』のように歯を鳴らしていた。
声が震え、言葉が途切れ途切れになる。
指先は紫がかり、感覚がない。
吐く息だけが白く見える気がして、私は自分の手を何度も擦り合わせた。
ガタガタ、と歯の根が合わず、顎が勝手に震える。
毛布をもう一枚、さらにもう一枚重ねても、寒さは増すばかりだった。
胸の奥に、ぽっかりとした冷たい空洞がある。
火も湯気も、餅の甘い匂いも、そこだけは決して温めてくれない。
私は思わず呟いた。
「…あの子を…私が、捨てたから……?」
熱に満ちた部屋の真ん中で、私は凍え続けていた。
私は――本当は、生まれていないはずだった。
祖母が亡くなる前、ぽつりと零した言葉がある。
「──お前はね、水の子になる運命やった……」
産まれる前に死ぬはずだった私を、この世に縫い止めたのが、あの『ぬいぐるみ』だった。
それは、普通の動物の形ではない。
木彫りの仮面をつけた顔、繊維を編んだ身体に無数の貝殻を縫い付けたもの。
南の島『バヌアツ』で信仰される、温かさと命を司る神――その依代。
若い頃の祖母は、医師だった祖父と共に現地で医療を施していたという。
数々の苦難を経て、現地人と親しくなり、信仰を知り、共に笑った。
──でもそれは、人を救うためではなかった。
騙し、奪い──神を宿した依代を、日本へ持ち帰るために。
異国の神は、異民族である私たちに幸運と財をもたらした。
だから──私とぬいぐるみは、『最初からひとつ』。
幼い頃、私はいつもそれを抱いて眠った。
冷えやすい体でも、あの子を抱くと不思議と温かかった。
その温もりで、私の『魂』はこの世に繋ぎ留められたのだった。
──病に伏した祖母はもう一つ、私に遺した。
小さな『コンパス』だ。
「これは、災難を教えてくれる……せやけどな……この針が、ひとつの方向しか指さんようになったら……」
それきり、祖母は何も言わずに逝った。
――しかし、私は裏切った。
付き合っている彼と同居することになった。
「……家なんて関係ない。俺が好きなのは、君だけだよ」
彼は他の子たちが嫉妬するぐらいに整った外見で、優しい。
「……なにこれ? 汚いぬいぐるみ」
でも合理的で、信仰や迷信を嫌った。
「俺、そういうの信じないんだよね」
私は笑って返した。
「捨てたら? カビ臭いし」
嫌われたくなかった。
だから──私は、あの子をゴミ袋に入れた。
雨と雪にさらされる、収集場所へ置いてけぼりにしてしまった。
その夜から、私の体は完全に冷えた。
肩を抱き、膝を抱え、こたつに潜り込んでも、体の奥だけが凍りついたままだ。
腹の底、心臓の裏側が、氷水に沈められている。
コンパスを見ると、針は『南南東微南』を指したまま、動かない。
胸がざわついた。
私は冬の嵐の外へ飛び出した。
「あの子は……あのぬいぐるみは、どこ……!?」
喉から、声にならない言葉が漏れる。
必死に収集場所を探す。
「どうして!?…まだ、収集日じゃないはずなのにっ!?」
喉が裂け、声は風にちぎられていく。
雪は横殴りで、視界を白く塗り潰す。
足元が見えず、何度も滑り、転びそうになりながら、それでも私は進んだ。
雪と風の中、コンパスだけが進むべき方向を示している。
歩くたび、体に衝撃が走る。
――殴られた。
骨の内側に鈍い痛みが爆ぜる。
誰かが、ぬいぐるみを殴っている。
私とぬいぐるみは、『最初からひとつ』だったから……分かる。
その痛みは、距離も時間も無視して、私の肋骨と腹にそのまま伝わる。
――蹴られた。
息が詰まり、喉から酸っぱいものが込み上げる。
足を引きずり、口から吐瀉物と血を流しながら、私は――見つけた。
向かいの道路の縁。
泥と雪にまみれて投げ捨てられた、あの子。
木彫りの仮面は割れ、無残に裂けている。
繊維を編んだ手足は千切れかけ、内側の黒い糸がむき出しだ。
ずっと隠されていた白い貝殻の瞳が、雪明かりを反射し、私を映していた。
恨めしそうに。
問いかけるように。
「……ご、ごめ……」
声が、喉で崩れ落ちた。
私は駆け出した。
滑る。
転びかける。
それでも、腕を伸ばす。
――その瞬間。
エンジン音。
タイヤが雪を噛まず、甲高く空転する音。
視界の端で、ヘッドライトが膨れ上がる。
「――っ」
衝撃。
体が宙に浮き、世界が横倒しになる。
背中から叩きつけられ、息が、完全に止まった。
赤く滲む視界の中で、私は見た。
見慣れた車だった。
フロントの傷。
ダッシュボードに置かれた、小さな置物。
――彼だ。
同居するはずだった人。
迷信を笑った人。
「汚いぬいぐるみだな」と言った人。
ハンドルを握る彼の顔が、一瞬だけこちらを向く。
驚愕と、恐怖と、ためらい。
次の瞬間、アクセルを踏む。
テールランプが、雪の向こうへ遠ざかっていく。
私は伸ばしかけた手を、雪に落とした。
掌の中で、何かが砕ける音がした。
祖母の形見のコンパスだった。
ガラスが割れ、針が歪み、もう――どこも指していない。
冷たい雪の上に、私は取り残された。
倒れた視界の端で、ぬいぐるみが――
ずる、ずると、
ゆっくりと、這ってくる。
泥水に濡れたその身体が、雪を掻き分けるたび、かすかな音を立てた。
もう少しで互いに触れる距離。
ぬいぐるみの仮面の割れ目が、ぎしり、と軋み――砕けて、
今まで存在しなかったはずの場所に、口が生まれた。
縫い目でも、裂け目でもない。
「……イッ……ショ……」
確かに「口」だった。
「…イッショ……ずッ……と……イコウ……」
片言で、拙くて、
それでも――とても懐かしい声。
私は、なぜか怖くなかった。
胸の奥に、幼いころの記憶が滲む。
布団の中。
冷たい夜。
あの子を抱きしめた時の、やわらかな温もり。
「……うん……」
喉が、血で詰まる。
「……いっしょに……ごほ……ごほっ……いこうね……」
口から、赤いものが零れ落ち、雪を汚す。
それでも私は、笑った。
ぬいぐるみの口が、ゆっくりと弧を描いた。
「……イッショに……つれて……こ……?」
それは、笑みの形だった。
「……このクニの……ネツも……ネ……」
──その瞬間、私は理解した。
これは別れではない。
帰還なのだと。
神は、私の魂を「守っていた」のではない。
借りていたのだ。
この国に留まるための、器として。
ぬいぐるみの身体が、熱を帯びる。
それに反比例するように、世界が冷えていく。
私の指先から、感覚が消える。
空気が、音を失う。
最後に見えたのは、雪空の向こうで、
この国全体から、温度が引き剥がされていく感覚だった。
――翌年。
日本は、白くなった。
山も、海も、街も、季節を失い、雪と氷に覆われた。
春は来ず、桜は芽吹かない。
火は点かず、発電所は凍りつき、送電線は氷の重みで垂れ下がった。
人々は最初、「異常気象」だと呼んだ。
次に「災害」だと呼び──やがて、”何と呼べばいいのか”分からなくなった。
政府は、段階的に声明を出した。
《日本列島全域は、長期居住不可能区域に指定される》
気象庁の会見では、専門用語だけが並び、誰も「寒い」とは言わなかった。
だが日本国中の空気は、言葉より先に凍っていた。
続いて、防災無線と携帯端末に、一斉通知が流れる。
《全日本国民に告ぐ》
《速やかに日本全土からの撤退を開始せよ》
空港は、雪に埋もれた滑走路の上で沈黙した。
港は氷に閉ざされ、船は動かない。
自衛隊と海外支援部隊が、かろうじて人々を運び出した。
──それでも、全員は救えなかった。
地図は、更新された。
世界地図の右端にあった国は、色を失い、注釈だけが残る。
【Formerly Japan / Uninhabitable】
(かっての日本/居住不能)
白地に描かれていたはずの赤い円――太陽を示す火は、完全に消え去った。
その熱は、南南東微南へ運ばれた。
南の島の神は、ようやく故郷へ還る。
魂だけの私は、あのぬいぐるみと一緒に、二度と戻らない冬の向こうへ行った。
――この国が、かつて、誰かの「命を借りて」温かかったことを、
知る者はいない。
最初はね~、バヌアツの神が日本に連れて来られて~という流れは同じですが、もっと長くなる予定だったんですよ~(;^ω^)<主人公は異常気象を調査する日本政府の青年で、ヒロインと謎を追って、遥かバヌアツに向かうとかw
ですが、話が膨らみ過ぎて大変だったので、むっちゃ短縮しましたよ!( *´艸`)<主人公の親や、ヒロインの娘、バヌアツでの現地民との関わりとか出てきちゃうのw
ホラーになってましたかね~?怖いと思って下さるとありがたいな~
(; ・`д・´人)<お読み下さり、ありがとうございました!しいな様、いつも企画ありがとうございます!




