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9話 何でもするって言ったよね?

 「募金にご協力お願いします! 子供たちのために、皆さんの力を少しだけ貸してください!」

 雲一つない空の下、駅前の大広場で声を張り上げる。まったく慣れていないことをしている中、一世一代の勝負をするつもりで臨んでいるというのに、足を止めてくれる人はなかなか現れない。だというのに、視線だけはしっかりこちらを捉えていて、たまの顔は沸騰しかけていた。

 「おいたま! 頑張って腹から声出そうぜ!」

 恥ずかしさで黙りこくっていると、後ろにあるテントの中から良太が指摘してくる。「黙ってろ!」たまは怒り、いやいやまた声を張り上げる。

 (はぁ……いったいどうしてこんなことに……)


 ――数時間前。 

 最寄りの駅から赤い電車の東急東横線に乗り、今度は水色の電車の京浜東北線に乗ること、計約三十分。降り立ったのは桜木町駅というところだった。

 改札を通り東口から出ると、目の前には広場があった。奥の方には見上げないと全貌が見えない程の高いビルがいくつもそびえたっている。

 「こっちだこっち!」

 先を歩く良太に慌ててついていくたま。

 「こんなところに来ていったい何をするというのだ?」

 「ボランティア活動ってわかるか?」

 「ネットで調べたから知識として知ってはいるが」

 「なら話は早いな。これからそれをするんだ。具体的にはは赤い風船を配って、募金してもらう。で、そのお金で身寄りのない子どもたちを援助するんだ」

 「それは……実に素晴らしいな!」

 あっけらかんと言う良太にたまは喜びに震え上がる。

 「オレはオレがやりたいからやってるだけだが、そう言ってもらえると嬉しいもんだな」

 良太が誇らしげに人差し指で鼻の下をこする。

 「誇っていい! そういった奉公の精神を自然と持っていることが素晴らしいことなのだ!」

 と、そこまで言ってたまは急に落ち込んだ。

 「ほんと、どうしてお主ではなくあの馬鹿が現代勇者なのだろうな……」

 良太はそれに苦笑いするだけだった。

 「ともあれ、そういうことならば吾輩、いくらでも力を貸すぞ!」

 思えば、この一言が余計だった。

 それを聞いた良太は「ありがとよ!」と嬉しそうに答えた。

 やがて、良太が足を止める。目の前には白のハイエースが一台止まっていた。

 「よし、たま!」

 踵を返し、良太が満面の笑みで言った。

 「服を脱げっ!」

 「よし……って、はっ?」

 「お前には今からJKになってもらう!」

 「……はぁっ!?」

 言って、良太は車の中から制服を引っ張り出して、見せつけてくる。赤のネクタイが可愛らしい、白のセーラー服だった。

 「ほら、車の中でこれに早く着替えてくれ」

 「いや、そんなこといったってお主、流石にこれは……」

 「さっき何でもするって言ったよな?」

 「いや、吾輩はいくらでも力を貸すと……」

 「それどういう違いがあるんだ?」

 「……はい。ありがたく着させてもらいます」


 秋を先取りしたかのように顔を紅潮しながら、我ながら軽率だったと、たまは心底反省する。

 制服をまとったたまはどこからどう見ても立派なJKだった。「うんうん」満足気に頷く良太を睨みつける。

 「というか、何で制服なんだ!」

 「そらお前、学生が頑張ってボランティア活動してる方が親しみやすいだろうが!」

 「吾輩は女子高生ではないぞ!?」

 「が、今のお前はどこからどう見ても女子校生だ!」

 「些細なようで致命的に違うのではないか!? その二つは!」

 が、良太の言うこともなんだかんだ理解できてしまうたまだった。

 「そもそも、この制服はどこで調達したんだ!?」 

 「妹のものを拝借してきた! なあに、本人許可済みさ!」

 「それは許可が降りちゃだめなやつだろう!」

 「お前の写真を見せたら一発オッケーだった!」

 「お主の妹も絶対どこかおかしいと今、確信した!」

 良太がパン! と手を叩く。

 「さあまずは挨拶だ! はいっ!」

 「こ、こんにちは」

 「はい元気ないもっと腹から声出して!」

 「……っ! こんにちは!」

 「お、いいね! じゃあ本番はこの百倍のこんにちはをよろしく!」

 「マジか……こいつ……」

 

 そして、実際に活動が始まって今ココ! である。

 辛いし、もう辞めたい。

 が、数時間ほど活動した賜物か、少しずつだが人は集まっていた。

 集まっている人間は主に家族連れが多く、子供が風船に興味を引かれ、風船を配っているテントの中へ家族を引っ張ってくれていた。テント内では良太と他スタッフが親の方々にこの集団はどういった活動をしていて、募金したお金がどこに行くのか丁寧に説明しており、聞いていた人は関心を寄せている様子だった。

 この様を見ていると、自分も協力してなんだかんだ良かったのではないか、とたまは思った。対してーー

 「ねえそこの赤髪の子、良かったらあたしたちと写真撮ってくれない? あと良かったらあなたをおかずに晩ごはんも……」

 じゅるり、舌なめずりしてくる女子高生を前に、たまは心底思った。

 吾輩が制服に着替えてやって来たのは結局、こういう輩のみ。

 吾輩は本当に制服を着る必要があったんだろうか……。

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