表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

エピローグ

 生暖かい静寂を、風が吹き払う。

 圧迫感から解放されて、どっと体が重くなった。疲労感に目が霞み、膝が笑う。


 血混じりの砂を吐き出しながら、カラスの元に向かった。


 鉛金色の光が、明滅しながら、螺旋状に伸びている。


「あっぱれじゃ」


 振り向くと長がいた。


「精霊は積み重なるのじゃ。個人の欲望も、野心も飲み込んで、大きく成長する」


 熱に浮かされたように話す長が、異形の怪物のように見えた。


「人間を媒介に成長した精霊じゃ。これに妖精を加えたら……」


 ギラリと光る目が、神座を捉えた。咄嗟に身構えるタイドに、粉が振りかけられる。


「完璧な螺旋を描いて、立派な樹となる……」


 後半は聞き取れなかった。意識を失ったタイドは地面に倒れ込む。


「さて、リーフよ。光の中に飛び込むのじゃ」


 長の言葉に、リーフが怖気づく。機敏に反応した狂妖が、


加亜亜亜カアアアッ」


 と気炎をあげて、バッシに頭突きをかました。


「無駄じゃよ。そいつには眠りの粉を吸わせた。わしが長年魔力を込めた代物じゃ。死ぬまで起きはせん」


 長は、神座のリーフに告げる。


「身体を捨てよ、今がその時じゃ」


 その言葉に操られるように、リーフはフワフワと浮遊した。黄光の端が、精霊の光に吸い込まれるように同化する。


 狂妖が赤光で対抗するが分が悪い。


 長が地面に触れて、魔法の扉を開く。

精霊の魔力が流れ込み、巨大な渦が現れた。


「さあて、では行くとするかのぅ、約束の地〝月の丘〟へ」


 長は、満面の笑みを浮かべて渦に向かって飛び込んだ。


 リーフが光に同化しようとする。一粒の涙がまつ毛を濡らして……タイドの腕に落ちた。


 見れば、タイドに与えられたリーフの一部が、淡く光りながら、魔力を放っている。

 タイドは目を開くと、


「俺は……お前らと居たい。お前らは?」


 リーフ、そして狂妖にそっと手をかざした。


「ぼくも〜タイドと〜居たいよ〜」


 リーフの言葉に、


キョキョキョキョッ」


 狂妖も不気味な笑い声を上げる。


「そうか、なら決まりだな」


 タイドはニヤリと笑うと、リーフと狂妖を掬い取る。

 粘着する精霊の光に、タイドの腕から煙が上がった。


「あが亜あぁっ」


 タイドは吠えながら、全身に仕込まれた妖精の粉を燃焼させた。

 ちぎり取った精霊の残光ごと、神座にリーフを押し込むと、


「居ッ居ッ殺ッ殺ッ」


 嬉々と笑う狂妖と同期して、精霊の枝を斬り払う。


 次の瞬間には、精霊の木が空間ごと転移した。


 飛び退くタイド達を残して――


 すべての光が、音を立てて消えた。






***






 焦げた左腕を見下ろす。

 皮膚に張りついた粉が、白く風に散った。

 それがリーフの残滓か、ただの灰か――もう分からない。


 息を吐くと、空は静かだった。荒れた大地に、ただ風が通り抜けていく。


「――ようやく終わった」


 誰にともなく呟き、目を閉じた。






***







――ある晴れた日、冒険者ギルドの買取りカウンターに、一人の冒険者が現れた。


 受付嬢は冷たい視線を向ける。


 年を取った冒険者――はぐれ者。


 ギルド内でも、食いっぱぐれれば、いつでも盗賊に転職するようなカス冒険者と見なされている。


 差し出されたのは、いつ採取したかも分からない、干からびたゴブリンの耳。一緒に差し出された依頼書を、嫌そうに検分棒で突くと、印を確かめる。


「はい、ギリギリですけど、期限内の達成です」


 面倒を避けたいのだろう。

 最低限の言葉で報酬を渡す。

 手放した硬貨がカウンターから落ちた。


 それを拾い上げたタイドは、


「ありがとよ」


 と呟いて、背を向ける。


 舌打ちを予測していた受付嬢は思わず顔を上げる。

 その背中は、以前よりもずっと大きく見えた。


 外では、子供の笑い声がしていた。

 窓のから光が差し込む。


 焼けた左手はジクジクと痛み、動かし辛い。だが、後悔は無かった。それは自分が選んだ道だったから。


『さて、昼飯でも選ぶとするか』


 そう思った瞬間、腰のナイフから、ポヨポヨとしたウインクが返ってきた。




〜終〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ