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エピローグ

 朝の柔らかな陽射しが、寝起きのまぶたをそっとくすぐる。ぼんやりまどろみながら窓の外を覗くと、街の空気には不思議な静けさと、同時にどこか未来を感じさせる希望が混ざり合っている。


 あれからしばらく経つけれど、大きく変わったことといえば、街のあちこちで「新しい経済」という言葉が響き渡っていることだ。俺の手がけた金融システムや融資サービスも、すっかり市民に浸透しつつあるらしい。商人たちの笑顔が増え、屋台の主人は「最近はいくらでも商売のネタが思いつく」と上機嫌だ。


「ふふん、我ながらやるじゃないか」


 布団から抜け出して髪を整え、いつものように市場へ向かう。道すがら、会う人みんなが声をかけてくるのが面映い。昔はただの“無能次男”だの“追放者”だのと揶揄されていたのに、今は「レオンさんはどう思います?」「こんな新ビジネス、面白そうじゃありません?」なんて期待を寄せられる。俺も調子に乗りそうになるが、ここは冷静さが大事だ。


「よっ、レオン。今日も忙しそうだな」

「おはよう、バルド。見回りか?」


 通りの先で、傭兵団長のバルドが豪快に手を振る。彼らは今、街の警備隊と協力して治安維持に一役買っている。旧体制の残党が何か企んでいないとも限らないから、定期的なパトロールは欠かせない。

 だけど、バルドたちは楽しげに任務をこなし、街のみんなからも好評だ。


「へへ、俺たちも名を挙げられる絶好の機会だからな。最近は“護衛業”以外にも儲け話が舞い込んできて忙しいぜ」

「そいつは何より。俺たちも、いろいろ助かってるよ」


 バルドと言葉を交わしていると、今度はフィオナが路地の奥からしれっと姿を現す。相変わらずフードをかぶった軽やかな身のこなしで、笑い方もどこか影があるが、最近はすっかり街の人に溶け込んでいる。


「お疲れ、レオン。今日も裏取引の情報がいろいろ入ってるわよ。どれくらい気になる?」

「ほどほどに教えてくれ。あんまり怪しげなのは困るけど、新しいビジネスの種になりそうな話は歓迎だ」

「任せて。あたしも儲け話は大好物だからね」


 半ば冗談めかして言い合いながら、俺たちは気軽に言葉を交わす。

 昔なら絶対に近寄りたくないタイプだと思っていたのに、今では欠かせない情報屋だ。天才詐欺師の肩書きは伊達じゃない。


 市場へ向かう足を再開していると、カティアやリリアの姿がちらりと見えた。二人は商人たちと何やら協議しているようで、交渉の声と合いの手の笑いが聞こえる。リリアは楽しそうに書類を広げながら、細かい数字をひとつずつ説明しているところだ。小さな果物屋の主人が「今期の利益率」とか「投資の回収期間」なんて難しげな単語を使っているのを見ると、なんだかちょっと感動する。


「リリアは本当に、みんなと一緒に数字を楽しんでるみたいだな」

「あの子は会計に関しては天才だから、むしろ一番イキイキしてるかもね。最近は私たちの商会でも、新しい共同出資プランをバンバン打ち出してるし」


 カティアがこちらに気づき、振り返って手を振る。表情には微塵の不安もない。

 商会の仲間や小規模な店舗から大きな商人まで、みんなが自分の可能性を追求する――そんな世界が近づいているのを確信しているのだろう。


「ソフィアはどうしてるんだ?」


 ふと尋ねると、カティアは笑って「税務署で一悶着」と答える。どうやら旧体制が作ったややこしい税制を崩して、新しい税制度を提案するために書類を延々チェックしているらしい。あの正確無比な会計士なら、抜け道を全部ふさいで公正な仕組みを整えてくれるはずだ。


「忙しそうだけど、あの人は数字と戦ってるときが一番生き生きしてるんだよな」


 そう言うと、カティアもリリアも苦笑しつつ頷く。俺たち“逆ハーレム”のチームは、それぞれがやるべきことを全力でこなしながら、着実に世界を変えているんだと思うと誇らしい気持ちになる。



 夕方が近づくころ、少し疲れた身体を休めるために、市場の片隅へ腰を下ろす。

 ブースから流れる賑やかな声と香辛料の混じった匂いは、いつまでも飽きない。ここで長いこと過ごしてきたはずなのに、今でも新鮮な発見があるんだから不思議だ。


「ねえ、レオン、ひとつ訊いてもいい?」


 不意にエリザベートが隣にやって来て声をかける。彼女は王族の外套を軽くたなびかせながら、すっと腰を下ろし、俺と同じ視線で市場を眺めている。


「なんだ?」

「あなたは……本当はどこまで目指しているの? もう、街をまとめる程度で満足なの?」


 少し意地の悪い問い方に聞こえるが、エリザベートの瞳は優しく、かつ真剣だ。

 彼女自身、王女としての地位を捨てるつもりはないだろうけど、古い制度を壊して新しい秩序を作るためには、どこまで踏み込むのかを確かめたいのかもしれない。


「どうだろうな……最初は、ただ家族に認めさせたかっただけなんだ。貴族にバカにされないだけの力を身につけて、見返してやりたかった。でも、いつの間にかそれがもっと大きな目標に変わった。今じゃ、国全体の仕組みを変えたいと思ってるし、それ以上だってやれる気がするよ。だから――まだ満足してない」


 自分の胸に手を当てる。追放されていたころの俺は、こんなに野心的な言葉を口にするなんて想像できなかった。だが、経済操作というチートだけじゃなく、仲間たちの力を得た今の俺なら、世界のどこまでだって行けそうな気がする。


 エリザベートは穏やかに微笑み、すっと立ち上がる。そして俺に向かって手を差し伸べる。


「なら、一緒に頑張りましょう。あなたなら、きっと国境を越えても活躍できるわ。私も王族として、必要な限り手を貸す。そうして、この国をもっと自由に、もっと豊かにしていくの」


「もちろん。……ありがとう、エリザベート」


 彼女の手を取り立ち上がると、ちょうど夕陽の赤い光が俺たちを照らす。通りには笑顔で商売をする人々が溢れ、屋台の音や音楽が混じり合って絶えない。

 まるで祝福の舞台のように、この市場はいつも俺たちを迎えてくれる。


 俺はそっと深呼吸して、胸の奥の情熱を確かめる。まだまだ世界は広いし、貴族社会の残骸も大きく残っている。けれど、俺たちには経済を制する力があるし、頼れる仲間がいる。きっと乗り越えられる。


「よし、行こうか。これから始まる新時代を、俺たちの手で作るんだ」


 小さく呟くと、エリザベートは楽しそうにうなずく。そこへ、カティアやリリア、フィオナ、バルド、そしてソフィアまでもが合流してくる。まるで当然のように、一列に並んで歩き出す。



 ――振り返れば、昔は孤独と屈辱ばかりの人生だった。でも今はこんなにも心強い仲間がいる。

 逆ハーレムに見えるかもしれないが、その実は最強の“戦略チーム”だ。

 俺は彼女たちとなら、もうどんな障害にも怯えずに立ち向かえる。


「さあ、俺たちの“新しい時代”はまだ始まったばかりだ。」



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